3 睡魔に負けたら隣に美少女がいた
風さんの名前登場
王宮へつくと表門の前に絨毯は着地した。
そこからはワインドに連れられてシルリヤが執務を行っている部屋に連れて行ってもらった。
「来たか」
部屋の中へ入るとシルリヤが声をかけてきた。今はなにかの書類にサインをしているようで、こちらには目もくれない。
「まぁ茶でも飲んで待っていろ。ワインドは下がっていいぞ」
給仕の女性がティーポットとカップを持ってきて応接用の低いテーブルの上に置いてくれた。
ぼくはその前のソファに誘導され腰掛ける。
革張りの、一見硬そうな素材だが座ると優しくお尻を沈みこませていった。
「じゃあ、がんばれよ」
先に出ていった給仕のお姉さんに続きワインドもぼくの頭を撫でると同じタイミングで部屋から出ていってしまった。
ワインドが出ていくまで手を振った。
シルリヤと2人きりはまだ少し緊張するので気を落ち着けるために淹れてくれた紅茶を飲んだ。
いちごの甘い風味のする紅茶はすごくおいしい。一口で気に入ってしまった。
ふと、視線を感じたので振り向くと、シルリヤが手を止めてじっとこちらの様子を伺っていた。
え、飲んじゃだめだったかな? と意味がわからずカップをテーブルに戻す。
「どうした、飲まないのか?」
そんなことを聞かれても見られながらじゃ飲みづらいに決まっている。
「そういえば、絨毯の飛行は良かったか?」
それに関してはすごく感謝しているのでお礼を伝える。
シルリヤもぼくの楽しそうな様子に「そうだろう」と大きく満足そうに頷いた。
またシルリヤが書類に向き直ったので、暫く無言の時間が続く。
紅茶も飲み干して手持ち無沙汰になった。
静かに待つ時間は、1日学校で過ごした後に、ふかふかのソファに座り紅茶を飲んで落ち着いたぼくにとって、ただただ厳しい時間となった。
睡魔が……結論を言うとぼくは耐えられなかった。
……びっくりした!
目が覚めたら知らない場所にいた。
まさかまたこの前の夢なのか? と不安に思いながら起き上がると、自分が何やらとてつもない広さのベッドに寝かされていたことに気がついた。
天蓋によって部屋の様子は薄っすらとしか見ることはできない。
でも良かった……。
この前の所狭しと物が置かれている狭い部屋ではないことに安堵の息をもらす。
「起きたのか?」
天蓋越しからシルリヤの声が聞こえてきた。
その後で椅子を引く音がして、靴音が段々と近づいてくる。
すぐに目の前に薄っすらとシルエットが現れたと思うと、そこから布の裂け目を開きシルリヤが顔を覗かせた。
「よく眠ってたな」
ベッドの縁に腰掛けたシルリヤは、クスリと意地悪な表情で笑いかけてきた。
そうか、ぼくはシルリヤを待っている間に眠ってしまったのか。
「うう~ん……なんじゃ、うるさいのぉ」
「は?」
シルリヤがぼくの隣を睨みつけ悪態を吐いた。
って、え?!
隣りに居たのは試験のときに幽霊騒動を起こしたあの風の少女だ。
って、え?!
2度驚かせてもらおう。
だってぼくは今までここで寝ていて、今ぼくの真横で少女は目覚めて……ぼく今まで一緒に寝ていたの?!
そう気がついた瞬間顔の周りが熱くなる。
「ふぁ~……ん? ほほぉ、お主照れておるのか? 愛いのぉ」
起き上がり両手を上にして伸びをする少女が着ているのは黒いノースリーブのワンピース1枚で、むっつりなことは考えたくないけど、無防備なわき……いや、思い出せ彼女はもっと神聖なものなんだ。風です。抽象的な存在なんです。
「お前……こいつが来るとわかっていたのに大人しいなと思っていたが、まさかオレの目をかいくぐって入ってきていたとは……」
「ほほほほ! ひよっこめ! こんなのらくしょーじゃよ! ぎゃっ」
這いずるようにしてシルリヤが近づいてきて、勢いよく少女の小さな頭を片手で鷲掴みした。
「母親虐待じゃ~!」
「このまま潰す」
物騒な物言いにぼくは慌ててシルリヤの片手にしがみつき彼女から手を離させようとした。
見た目細腕なのにどこからそんな力が?! と疑うほどシルリヤの腕はびくともしなかった。
「あたたたたた、わかった! ごめん! ごめんなさぁぁあい」
謝る少女にシルリヤも気分が落ち着いたのか、ようやく手を話して全員がベッドの上に座り込んだ。
「で、なんでここに来た」
シルリヤから聞かれた少女はもうすでにけろりとした顔で「んー?」と小首を傾げながら理由を考えている。
恐らく先ほど痛がっていたのも演技なのだろう。
「あの時わし、自己紹介してなかったじゃん? ウィンドじゃ。ウィンちゃんと呼ぶがいい!」
えへん! と威張るようなポーズをして、風の少女改めウィンちゃんがぼくに自己紹介をした。
律儀な子(風)だなぁ、と思いながらウィンちゃんと返すと嬉しそうな笑顔を向けた。
「なるほど……ではもう用事は済みましたよね?」
1人放置されていたシルリヤが、普段見ると好青年に見える笑顔と所作でウィンちゃんを抱え上げた。
そして抱えたまま天蓋をめくり、つかつかと早足で前へ進む音が聞こえたかと思うと、ドアを勢いよく開ける音、ウィンちゃんの断末魔、ドアを勢いよく閉める音がした。
母なる風様を放り投げたな……。
「はぁ、まったく」
何事もなかったかのように戻ってきたシルリヤはさっきまでウィンちゃんが寝ていた場所に腰掛けると、ぼくの方に顔だけ向けた。
その顔はどこか不満気だ。
「なぁ。お前普段オレのことシルリヤ様って呼んでるけど、心の中じゃシルリヤって呼び捨てにしてるだろ」
ぎくっ。
古より伝わるリアクションをしてしまった。
バレている。まさか心が読めるのか?
「心は読めないが、お前が何を考えているかはわかりやすいぞ」
長い指がぼくの頬を軽くつねる。
「顔に出ているからな」
からかうようにくすりと笑った。
しばらくふにふにとぼくの頬を触っていたが、先にそれに耐えきれなくなったぼくはぐっと体をシルリヤから反らした。
その反動でするりと簡単に指がぼくの頬から外れる。
「ふむ……お前、今からオレのことはシルと呼ぶように」
シル……シル、ふむ。王は愛称で呼ばれることをご所望のようだ。
シルと返すとこれまた嬉しそうな顔を返してきたのでぼくもなんだか満たされた。
お読みいただきありがとうございます!




