9 最終試験、よくわからん!
この世界のシステムの説明、よくわからん!
会場にぼくたち6人だけになると、シルリヤはラップに指示を出した。
「最終試験会場へ案内してくれ。私もすぐに向かう」
「はっ! ではお前たち、ついてこい」
どうやら最終試験は別の場所で行われるらしく、ラップを先頭にぼくたちは移動をすることに。
歩きだそうとしたとき、シルリヤがぼくにくっついていた少女の首根っこを掴んでぼくから引き剥がした。
「あなたとは少し話さねばな」
表情は変わらないがどこか威圧感のあるシルリヤに、少女は拗ねたように頬を膨らませ、じたばたと手足を動かしシルリヤから逃れようとした。
さきほどシルリヤは彼女を母と呼んだが、これではまるで父と子みたいだ。
このままぼくたちが部屋を出ていくと、彼女はシルリヤから説教をくらうのだろうか?
まぁ、そんなにひどいことはしないだろう。ぼくはシルリヤを信じ、先に進んでいる一行に追いつこうと小走りで部屋から出ていった。
でも、彼女とはまた会えたらいいなぁ……。
少し遅れてみんなに追いつくと、ワインドはチョークに話しかけられ相手をしており、ぼく達は会話をすることができなかった。
あの風の少女について何か知っていたら教えてほしかったが、まぁ後で時間ができたら聞いてみよう。
「この階段を登った先が最終試験の会場だ」
前を歩いていたラップが扉のない大きな部屋の前で止まったかと思うと、顔を上に向けた。
ぼく達もつられて上を向く。
その部屋は天井がなく、上に長くくり抜かれていた。天辺には空が見える。
時間はすでに夜に近付いていたようで、空一面オレンジの光が射している。
そして部屋の真ん中には細長い螺旋状の階段が設置されていた。
ぼくたちは部屋の中に入って、その螺旋階段の目の前へ向かった。
「この階段にゆっくり両足を乗せるんだ。私がまず行くからよく見ておくんだぞ」
ラップが螺旋階段の一段目にまず片足を乗せた。
乗せたように見えたが、なぜか足を浮かせた状態で静止した。
さらにもう一方の足を乗せたことにより、ラップは足を浮かせていたのではなく、浮いていたのだということに気がついた。
宙に浮いているラップの身体は、階段のレールに沿って自動で運ばれ始めた。
まるでエスカレーターのような見た目だが、動力源は電気ではなく風なのだろう。よく見ると、階段のあちこちに通風口のような切れ目が入っていた。
「ではお先に」
ワインドと話し合った結果、続いてチョークが階段に乗り螺旋状に運ばれていく。
次はどちらが行こう? と思ってワインドの方へ顔を向けると、ワインドもちょうどぼくの方を見たので目があった。
「先に行ってくれ、オレは最後でいいから」
ワインドにそう言われたので、ぼくもゆっくりと階段に足を乗せた。
なるほど、速くもなく遅くもない。なんだかこういうアトラクションみたいで楽しい。
後ろを振り向いてみると、ワインドも少し離れているが、ちゃんと後に続いてきていた。
「どうだ? 怖くないか?」
ワインドが気にかけてくれる。
この国の人々は普段から風に乗り高さには慣れているので、あまり高所を怖がる人には出会ったことはないが、どうやら心配してくれているらしい。
もしかしたら試験で手を抜いたことを、高所恐怖症なのかもしれないと思ったのかも。
大丈夫だと手を振りながら伝えると、ワインドは嬉しそうに笑顔で手を振り返してくれた。
手を振り続けていると、急にワインドの後ろから真顔のシルリヤが顔を覗かせて思わず固まってしまった。
「随分と楽しそうだな」
冷めた目と声が怖くて嫌な汗が背中をつたった。
どうやらあの少女はついてきてはいないらしく、シルリヤ1人のようだ。
また会えると思っていたから少し残念……。
シルリヤの声で後ろに立っていることに気がついたワインドが振り返った。
「あ、騒いですみません! 道中出会ってから弟みたいでかわいくって……」
至近距離のシルリヤにも臆せず話すワインドから、弟と言う単語が出てきたことに嬉しくて思わず顔が緩んだ。
ワインドも照れくさそうな顔でちらりと一度だけこちらを振り返った。
「そうか」
これがマンガなら花が飛んでいそうなテンションのぼく達とは反対に、白けた顔をしているシルリヤは「そろそろ着くぞ」と言葉を続けた後は、もう何も話しかけてはこなかった。
螺旋階段の終点には円形の床が広がっており、壁がないためここから国を一望できた。
岩山の上に建つ王宮の中でもさらに高い場所に位置するここの景色はとても圧巻だった。
ぼく達がその光景に見とれている中、シルリヤがラップに指示を出し、床の端の方にある細長い何かへ歩いていった。
それには真っ白なシーツが掛けられており、中身はわからない。
そのシーツを、ラップは勢いよく引き剥がした。
シーツから現れたものは水晶玉で、形が細長かったのは台座だった。
「最終試験は、これを使う」
シルリヤが水晶玉を軽く撫ぜる。
「今回募集要項に記載したとおり、付き人として私のそばで仕事を覚え引き継いでもらう。ただし、私は普通の人間とは違い寿命がないので、完全に任せるというよりは作業を分担して手伝ってもらいたい。これはその仕事の1つだ」
募集要項なんてあったのか……今さら初めて付き人の内容を知った。
寿命がないとさらりと言ってのけるシルリヤだが、その話はこの世界の常識だ。
なんせシルリヤ達神々が生まれてこの世界を創造したのだから。
確か今は918歳だ。900年以上も一国を維持していくなんて大変だろう。
それでも傾かずに年々良い国になっていっているのは、さすが神様というところなのかもしれないが、素直にすごいと思った。
「この水晶は複数あり、国の端々に設置している。どれか1つに自身の気を送ると起動して、水晶同士が互いに反応しあい、その結ばれた範囲内のすべてを感知することができるという優れものだ。私はいつもこれで国の様子を読み取り、適正な場所へ風を送っている。最終試験ではそれができるかを見させてもらう」
な、なんだそのGPSみたいなやつ。そんなことがこの水晶玉でできるなんて驚きだ!
仕組みは全くわからないが、なんとなくこの水晶玉が国の管理に欠かせない便利グッズなんだということはわかった。
この水晶の存在はラップも知らなかったのか、シルリヤの説明を聞いて、驚きの表情で見つめていた。
と、いうことは今後学校で習うものではないのだろう。
そもそもシルリヤが担うような仕事が一般人に務まるのか? というよりそんな重要なものを簡単に紹介しちゃっても良かったのだろうか?
シルリヤは全員が戸惑っていることに気がついているのかいないのか、マイペースに話を続けた。
「残念ながらこの仕事は誰にでもできるわけではない。水晶を共鳴させるだけの気を持っているか、それを今から見せてもらいたい……百聞は一見に如かず。まずは私が手本を見せよう」
そう言うとシルリヤは水晶を撫でていた手を止めた。
全員が注目する中、すぐに水晶玉が強烈な光を放ちだした。
「水晶を起動させた後は国の様々な情報が頭に流れてくる。それを元に風をイメージして、こうだ」
説明しているシルリヤの周りに風が集まってくるのがわかる。
その風にシルリヤの長い髪がなびいて、空で波打つオーロラのようだ。
最後にシルリヤが手を前にかざすと、風が一斉に飛び立っていった。生きているような動きだが、これはシルリヤが気を使い飛ばしたということなのか?
「わかったか?」
いや、全くわからないです!
「ではラップ、始めてくれ」
いや、やっぱりマイペースなのかも!
全員まだまだ置いてかれている顔してますよ!
「は、はい……これより最終試験に移る。呼ばれたものは前へ! チョーク!」
順番はすでに決められていたようで、ラップに呼ばれ驚いたチョークの身体が揺れた。
しかしチョークは前へ出ようとはしない。
「……ラップさん、お言葉ですがここはまずイレギュラーで合格したあちらの方から始めるべきではないでしょうか?」
1番手を避けたいらしいチョークが、ぼくを指差しラップに意見した。
ラップが伺うようにシルリヤを見る。それにシルリヤは一度縦に頷き応えた。
「よし、ではお前からだ。位置につくように」
ラップに促され、ぼくは水晶の前に立った。
お読みいただきありがとうございます!




