第四話 決闘の幕開け
北村優作と名乗るヒョロガリは、自称する通り痩せ細っていた。スリムというより、栄養失調といった感じで、羽織っている蛍光色マントの隙間から見える頬は痩せこけ、腕はゴボウの様だ。
そんな彼が発した言葉が、今自分に起きている超次元現象の一端を知っている様な口ぶりで、情報を引き出さねばと途端に考えた。
「というと貴方も異世界転生したということですか?」
「まぁな。ある時車を運転してたら沼に落ちて、目を開けたら雀卓を囲ってたんだ。最初は驚いたさ、目の前にその吐き気を催しそうなくらい気持ち悪くて気色悪くて下品でグロテスクな人型トカゲが麻雀してたんだからな。」
そりゃ確かにそうだと頷いた。ということはこの吐き気を催しそうなくらい気持ち悪くて気色悪くて下品でグロテスクな人型トカゲはチュートリアルに出てくる雑魚敵の様なポジションなのだろうか。しかし、それは重要ではない。
「そんなことはどうでもいいのですが、この異世界のことについてもっと詳しく教えてください!」
「タダでは教えられないな。東風戦で俺に勝ったら教えてやろう。但し俺が勝った時はお前の持ち物全ていただくことになるがな。」
俺は静かに首を縦に振り、勝負を受けた。しかしそのセリフといい、ありきたりでチープなラノベの展開みたいで、呆れた笑みが溢れた。とはいえさっきのヒョロガリの発言からして、異世界転生した者にはなんらかの能力があり、俺の場合は天和で和了れる最強のチート能力ということになるのだろうか。だとしたら、俺の親番での勝ち目は奴にはない。
全自動雀卓が牌を揃え切った所で、順々に賽を振っていった。そして、またしても親番は俺であった。
牌を整理していく。即座に面子が揃う。また一つ。さらにまた一つ。雀頭の対子までも揃う。残るはソーズのウーソウとチーソウに空いたスペースを埋める、ローソウのカンチャン待ちだ。そして、牌をツモる。ツモ牌は予定調和の如くローソウであり、この勝負の勝ちを即座に確信した。
「ツモ、天和 16000オール!」
声を抑えたつもりが少し勢い余って宣言をしてしまった。
予想通り、またしても外野は騒ぐ中、対面のヒョロガリは静かに微笑んでいる。
「本当にそれ天和かい?」
負け惜しみを言っているのかと思い聞き流そうとしたが、ふと手牌に目を向けた。するとあるはずのチーソウがない。
「誤ロンに小牌のダブルチョンボで君が8000オールの支払いだ。」
ヒョロガリは嘲笑いながら言った。俺はこのダブルチョンボで親番だけでなく、ほとんどの点棒を失った。残されたのは千点棒のみ、一巡目にして天国から地獄へと叩き落とされた刹那であった。