砂かぶり姫
瑞月風花様主催『誤字から始まるストーリー』参加作品です。
タイトルで『ははぁ、シンデレラを模した何かだな』と察された方、素晴らしい勘です。
私もそのつもりでした。でも出来上がったのはギャグでした。
どうしてこうなった。
笑ってやってください。
昔々、あるところにエルラという美しい娘がいました。
エルラは遠い東の国から伝わった相撲が大好きでした。
いつも『砂かぶり席』と言われる土俵のすぐ近くで観戦していました。
そのため『サンド・エルラ』、略してサンデレラと名乗っていました。
ある日、王子様のお嫁さんがそろそろ決まるのではないかという噂が流れました。
そして王子様の誕生日に、お城で舞踏会が行われるという噂も。
これはその席で王子様のお嫁さんを決めるのだろう、と誰もが思いました。
そしてお知らせがやってきました。
『お城の武闘会のお知らせ』
大抵の人は誤字だなとスルーしました。
いくらかの人はげらげらと笑いました。
王子様の大事な会の名前を間違えるとは!と怒る人もいました。
しかしそれを真に受けた人がいました。
サンデレラです。
「王子様は強い女性をお望みなのだわ! 私の密かに鍛えたこの身体と相撲の知識で、武闘会の頂点に立つ! そして相撲を我が国の国技に!」
相撲に恋する乙女の想いは電車道。
その日からサンデレラは、貴族令嬢だからとこっそりやっていた相撲の稽古に、大っぴらにのめり込みました。
朝稽古、ちゃんこ、すぐ横になり、昼稽古、ちゃんこ、昼寝、夕稽古、ちゃんこ、うたた寝、夜稽古、ちゃんこ、就寝。
周りは必死に止めましたが、サンデレラは全く聞きません。
「エルラ! これは単なる誤字だ! 踊る方の舞踏会に決まっているだろうが!」
「いいえお父様。もし文字のままの武闘会でしたら、鍛えもせずに場に出て恥をかくのは私ですのよ」
「お前は何を言っているんだ!」
「おやめなさいエルラ! 折角のあなたの美しいプロポーションが……!」
「いいえお母様。米俵も軽々と持ち上げられる身体こそ、私の目指す真の美しさ……」
「あなたは何を言っているの!?」
「お嬢様! お屋敷の柱に体当たりをするのはおやめください!」
「そうねセバスチャン。ぶつかり稽古は、人としてこそよね」
「な、何をおっしゃられているのですかお嬢様!」
「お嬢様、この盛り上げた土は一体……?」
「土俵よ。自作の割にはなかなかの出来だと思わない?」
「私にはお嬢様が何をおっしゃっているのか分かりません……」
そんなこんなで当日。
サンデレラは支度を整えました。
「ど、どなた?」
「エルラよ」
「そんな、声まで変わって!」
鍛え上げたサンデレラは別人のように逞しくなっていました。
「よせ! 行くなエルラ!」
「正気に戻ってちょうだい!」
「お父様とお母様の声援を胸に、エルラは横綱まで上り詰めて見せますわ」
「お前は何を言っているんだ!」
家の人達の抵抗も虚しく、サンデレラは城に向かって行きました。
お城に着くと、サンデレラは門番の兵士に遮られました。
「お、おい! お前は何だ! 今日は王子様の誕生日を祝う舞踏会だぞ!」
「武闘会ですわよね。だから参りましたの」
「だったら何だその格好は!」
サンデレラはTシャツにスパッツ、まわしを締めた上に、浴衣を羽織っていました。
「相撲ははるか東方の国の神事。己の浅学を恥じる事はありませんわ」
「お前は何を言っているんだ!」
押し留めようとする兵士を、サンデレラはすくい投げでどかしました。
「お、おのれ! 不届き者だ! 捕らえろ!」
「本場所前のぶつかり稽古ですわね。望むところですわ」
サンデレラは押し寄せる兵士を、まるで鼻毛を抜くかのように軽々と放り投げていきます。
正にちぎって鼻毛、ちぎって鼻毛と言った様子。
「な、何事だこれは!」
「王子様! お下がりください!」
「国を背負う者が敵に背を向けられるか! 覚悟!」
「どすこい!」
「はぶっ!」
飛びかかった王子様は張り手の一撃に沈みました。
「おのれよくも王子様を!」
「あら、今のが王子様? 強い女性を求める割に、鍛え方が足りないわね」
「かかれー!」
城の兵士総出での戦い。しかしサンデレラには少々歯応えのある稽古に過ぎません。
「くっ、僕に土を付けるなど……!」
意識を取り戻した王子様が再び挑みます。
「うおおおぉぉぉ!」
「どすこい!」
「ぶべっ!」
上手投げで転がされ、それでも立ち上がり、かかっていきます。
「まだまだぁ!」
「さぁおいでなさい!」
いつしか城門前では、稽古場のような熱く爽やかな空気が漂っていました。
「お願いします!」
「良い勢いでしてよ! でもまだまだ!」
「ぐわぁ!」
「さぁもう一度!」
「お願いします!」
もはや舞踏会どころではありません。
兵士達も王子様も泥だらけの傷だらけ。
でもその顔は爽やかな楽しさに満ちていました。
「本日の稽古はここまで!」
『ありがとうございます!』
浴衣を羽織るサンデレラに、王子様が近寄ります。
「今日はありがとう。充実した時間であった。そなた、名前は?」
「エルラと申します。砂かぶりのサンデレラとお呼びください」
「君は何を言ってるんだ。元の名前より長いじゃないか」
気を取り直して、王子様は続けます。
「相撲とは素晴らしいものだな」
「王子様にそう言って頂けて嬉しく思いますわ」
「君という女性はそれに輪をかけて素晴らしい」
「ありがとうございます」
「エルラよ。頼みがある。私の妻になってはもらえないか?」
「私、自分より弱い殿方は……」
「そんな事を言わないでくれ! きっと強くなる! 私とこの城で一緒に住もう!」
「一緒に相撲!? でしたら喜んで! 稽古再開ですわ!」
「え、ちょっと、今日はもう、ぐわぁ!」
こうして王子様とサンデレラは後に結婚し、国技とした相撲を中心に国はまとまり、穏やかな治世が続いたとの事です。
相撲が繋いだ恋のお話はこれまで。
どす恋どす恋。
読了ありがとうございます。
念のためですが、以下の誤字は意図的なものとなりますので、誤字報告は必要ありません。
武闘会→舞踏会
ちぎって鼻毛→ちぎっては投げ
一緒に相撲→一緒に住もう
どす恋どす恋→どすこいどすこい
……何を書いているのでしょうね私は。
瑞月風花様、飛び入りでの参加、失礼いたしました。