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旧版 何処までも続け  作者: 藍染クロム
第一節 その涙の理由は
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1節8項 里の異変 その2

「風邪ダナ」


「風邪かい」


 びっくりしたー。いきなりぶっ倒れるんだもん。


 彼は、今は布団の中ですやすやと寝息を立てている。


 最近、魔石狩りに通い詰めだったからね。フウ君にはちとオーバーワークだったか。この虚弱体質め。

 次からはちゃんと、気を遣ってやらねばな。


 ガルナには、フウ君を運ぶのを手伝ってもらった。ついでにフウ君の診察も。


「じゃあオイラは戻る」


「ありがとねー」


 そのままガルナは部屋を出て行こうとして、直前で振り返る。


「一人で動き回るんじゃねーゾ」


「しないよー」


 釘を刺された。何を言っているんだー、あはは。


「……そいつのお守り頼んだゾ」


「任せなー」


 今度こそガルナは出て行く。部屋には、私とフウ君の二人だけ。途端に静まり返る。元々静かな里ではあるけれど。


 することも無いので、彼を眺める。少し目つきが悪いのが彼の特徴だ。今はその険も鳴りを潜めている。寝ていれば可愛いものだ。今なら無意識無抵抗。彼に手を伸ばし、頭を優しく撫でる。


 しばらくして満足したところで、


「よし」


 じゃあ探検に行こうか。彼に倣ってお昼寝も魅力的だが。しかし、待ってるだけはガラじゃないのだ。

 いろいろと気になっている事がある。いつもならフウ君がどうにかしてくれるんだけど。彼を見下ろす。このざまじゃねぇ。


 扉を開け、部屋の外に出ると、


「おい、どこへ行く」


「ひっ」


 ガルナがまだ居た。


「一人で出歩くなって言ったよな」


「いやーちょっと外の空気を吸いに。……なんでまだ居るの?」


「お前への信用が無い」


「ほらほら、大丈夫だから!行ってらっしゃい!」


「……」


 ガルナは私に疑いの目を残しながら、それでも屋敷を離れていった。ったくも失礼だなー。


 今度こそ、居なくなったのを見届ける。

 よし、まずはどこに行こうか。


 とりあえず里の真ん中に出てきた。気になっていた影を探す。


 この里の人間は三種類に分けられる。一つは姿が歪んだ人間、一つは——。


「しずくさん」


 と、声を掛けられた。スティルさんか。まぁ、ガルナとフウ君で無ければこの人だろう。


「フウさんは大丈夫でしたか?」


 フウさん。聞き慣れない響き。フウ君はフウ君なのに。


「はい、ちょっと疲れてただけみたいでー」


「それは良かった。そうだ、後でなにかお見舞いでも持っていきましょうか」


「ありがとうございます。でも私が届ますよ」


「わざわざいいんですか?」


「どうせ帰るついでですのでー」


「ではお願いしましょうか。贈るのは、何がいいでしょうね」


「甘いもの!甘いものがいいです!」


 自給自足のこの里には、圧倒的に甘味が足りない。まぁフウ君も嫌いではないだろう。


「あはは、ではそのように」


「後で取りに行きますねー」


 そうして、スティルさんとは別れる。


 さてと。辺りを見回す。探索に戻ろう。


 この里には言葉を話さない異形達がいる。見た目こそおどろおどろしいが、彼らからは邪気は感じず、仕草にはどこか愛嬌がある。


 毎日見かけているから、ある程度個体は見分けがつくようになった。あの子は農作業担当の子で、あの子は薪割り、あの子は牧畜が仕事。中々目的の子が見つからない。


 見つけた!遠い木の裏で、こちらの様子を窺っている。目がばっちりあった。彼(彼女?)は慌てて目を逸らし、姿を隠そうと。


「待てぇ!」


 泡を吹いて彼はぱたぱたと逃げていく。大して苦労せず捕まえた。抱え上げる。そのままそこら辺の切り株まで持っていく。


「君だなー?ここのところずっと、私たちを見ていたのは」


 数多の生き物のパーツが混ざった継ぎ接ぎの人形。里にはびこる異形の一匹。肌はひんやりと冷たかった。


「目的を言いなー?」


 胸に抱え上げた彼はプルプルと震え、困ったように見上げてくるばかりだ。何も言葉を返さない。そうしていると、私が君をいじめているみたいじゃないか。


 はぁ、仕方ない。折角見つけた手掛かりだが、降ろしてやる。言葉を話せないとは聞いていたから、期待はしていなかった。


 地面に離すと、彼はまた、ぱたぱたと懸命に走っていった。


 んー、収穫なし、か。


 ガルナに言われた禁足事項を思い出す。スティルには近づきすぎるな、他の奴らには関わるな、仕事部屋には入るな、遺跡にも来るな、だったか。


 スティルとは仲良くなったし、彼らにはよくちょっかいを掛けているし、遺跡にも毎晩水浴びに行っている。三つ破るも四つ破るも同じだろう。 


 となれば、次に目指すはあの家の扉か。部屋の間取りから、地下室への扉だと分かっている。


 スティルさんの所でお土産をもらい、家へと帰って来た。


 地下室への扉を調べると鍵がかかっていたが、その鍵は簡単に見つかった。差し込み、すんなりと回る。長く使われていない、なんてことは無かった。 


 もう地下室への進路を塞ぐものは何もない。

取っ手に手をかけ、そこで動きが止まる。心臓の鼓動が加速を始める。


 ……大丈夫。ガルナは良い人であった。家事が上手で、戦闘も強くて、態度は不愛想だが、心根は優しい人。


 さぁ、探検だ!この扉にはどこに繋がる?未知の世界へレッツゴー!開かずの地下室の扉。わくわくするじゃないか!


 しかし、どんなに冗談めかして自分を鼓舞しても、扉の向こうから匂う血の臭いは誤魔化せなかった。


 ……大丈夫。いつもなら、ガルナはしばらく帰ってこない時間帯だ。最悪、ガルナが帰ってくる前に、探索は終わればいい。 


 生来血は苦手だ。特に、まだ新しい、乾かないうちの、鮮烈な赤の血を見るのはどうにも。この扉の向こうからは、その気配が色濃く伝わってくる。


 よし、行くぞ!


 覚悟を決めて扉を開けた。ギギィギギィと、嫌な軋み音を上げながら、扉は開いた。


 その先に光はない。風もない。扉の向こうはぼんやりと暗闇に包まれていて、奧へと階段が続いている。血の臭いは、途端に強く広がった。臭いの元はこの先で間違いない。


 固唾を飲んで、足を踏み入れた。粘ついた重い空気が通路を満たしている。じゃり、じゃり、と自分の立てる足音にすら意識を取られる。


 階段を下りきった。小さな部屋があった。そこには。



 その小部屋には彼らが居た。沢山の、沢山の彼らが居た。バラバラの彼ら、繋ぎ合わされる前の。


 夥しい数の死体のパーツが、壁一面を、机の上を、部屋の全てを埋め尽くしていた。



「ひっ」


 掠れた声が漏れ出る。血の気が引く。


 なんだ、なんだこれは。予想はしていた。何か大変なものがあるだろうと、覚悟はしていたのだ、けれど、これは余りにも。


 思わず踵を返し、階段を駆け上がる。鍵をかけ、元の場所に戻し、彼の寝ている部屋へと向かう。彼の顔が見たかった。安心したかった。


 フウ君は、出て行った時と同じように、そこで眠っていた。彼に近づくと、燃え尽きた灰のような、儚い、暖かい匂いがして、私を安心させる。

 無垢な表情を浮かべる彼に、そっと手を伸ばす。


「フウ君」


 もしかしたら、どうにもならない事が起こる。フウ君が起きるのを待った方がいいかもしれない。


 けれど、私の勘がささやく。事態は動き始めた。動かしたのは他ならぬ私だ。あちらが何かしてくる前に、手を打たなければいけない。先に動いて終わらせないといけない。


 ガルナに、あの部屋の事を聞かなければいけない。


 今はまだ遺跡に居るはずだ。


「フウ君」


 彼を、一瞬だけ、きゅっと抱きしめた。


「待っててね。すぐに戻って来るから」



 *



 静寂な遺跡に、人の気配は微塵もない。そこは遠い昔には栄えていたのだろう。今や至る所が綻び、崩れ落ち、灰色に自然の緑が侵食している。


 ガルナを探そう。ここまでは水浴びで歩き慣れた道だったが、ガルナが遺跡のどこに居るかは知らない。きっと知らない場所だろう。


 遺跡の中へと歩みを進める。


 石の通路を歩いていく。通路の端には細く水が流れ、石の隙間に苔が生えている。


 遠目には、そんなに大きな遺跡ではなかった。しかし、探せばすぐ姿を見つけられるほど小さくもない。

 

 本当は、ガルナの名前を呼んだが効率的なのだろうが、どうしても躊躇ってしまう。こんな所で躓いてどうする。

 しかし、さっき見た凄惨な光景が脳裏から離れず、消せない緊張と恐怖が、舌を喉に張り付かせ、喉を絞め、声を出すことは出来なかった。


 足だけは動き、静かな遺跡に私の足音がこだまする。耳を澄ましても、私以外の音は聞こえない。


 ガルナはどこに居るのだろう。小部屋を一つ一つ覗いていくが、未だ姿は見えなかった。


 突然、奇妙な感覚が襲う。異界に迷い込んでしまったような、いや、ここは十分異界中の異界なのだが、それにしたって異質な何かを感じた。

 すぐそこに部屋の入り口があった。得も言われぬ何かが流れてきているのは、そこだった。


 引き寄せられ、部屋へと近づいていた。いつの間にか、部屋へと足を踏み入れていた。広い部屋だった。そして、部屋の中央に——。



 部屋の中央には、白い、大きな塊があった。周囲の光を全て吸い込んでいるかのように、それは暗い部屋の中で異彩を放つ。



 それは少女であった。百足が絡まって形を成した揺りかごに、少女は抱かれていた。ふわふわの白い綿毛に包まれた彼女は、蚕蛾のような、触れた途端壊れてしまいそうな、酷く儚げな印象を受けた。


 その少女は泣いていた。表情は無く声も出さずただ眠りながら、けれど泣いていた。


 近づき、そっと瞳の滴をぬぐう。、絶えず涙は次々に零れ落ちてくる。それをしばらく眺め続け。


 はっと、我に返った。なん……だ、目の前の、これは。少女、人間?


 この少女が、私たちの探していた少女だろうか。彼女を覆うこの白は何?彼女も魔物なのだろうか、この百足も。この少女は、目覚めないまま何故泣いている?


 押し寄せる疑問に気を取られて、


「オイ」


 接近に気付かなかった。部屋の入り口を影が塞ぐ。


 冷たい双眸がこちらを見つめていた。それは、今まで見たことないような鋭い目で、私を睨みつけ。


「地下室を、見たナ?」


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