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旧版 何処までも続け  作者: 藍染クロム
第一節 その涙の理由は
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1節追録2項 幻想地形 その2

 もはや視界の全てが淡い紫に染まる。洞窟一面に成長した結晶がこびりついている。


 生えた結晶の間を縫うように進んでいく。背景だけでなく、空気もぼんやりと紫に色づいている。空中に漂うベールのようなその流れは、奧から背後へ、そして一部は胸元のお守りへと吸い込まれていた。


 風が可視化できているようで楽しい。そんな気楽な事を言っている場合ではないのだろう、過度な竜脈は人の身には毒である。このお守りが無ければ、もしかすると——。


「もうすぐダ。落ちるなヨ」


「落ちる?」


 と、空気が変わった。穴の終わりが見える。辿り着くと、その向こうは——。


 そこには、巨大な空洞が広がっていた。向こう側は霞んで見えず、遥か下には、妖しく光を放つ、色濃い竜脈の流れがある。

 そして、そのあまりに巨大な空洞に、大小無数の星々が浮いていた。無作為に空を流れる竜脈は、星々が纏うように流れる。


 剣山を丸めたようなトゲトゲした球状のそれは、空に点々と浮かび煌めくその星々は、高濃度の竜脈が析出し、成長した、魔石の大結晶。


 そうか、あの星々一つ一つは、重力の終着点になっているのか。竜脈がつくる空中の重力点に、魔石の塊が吸い込まれ、浮いているのだ。


 星を形作っている魔石の密度は今までの比ではなく、透明な筈のそれは、漆黒に近い紫に染まり、向こうは見通せない。


「すごい……」


「あぁ……」


 言葉もなく、目の前の光景にただ見惚れていた。


「目的地は、もう少し先ダ」


「え?」


 これ以上に何かあるのか?それにどうやって進む?


 洞窟はここで行き止まり、地面は無い、遥か下だ。

 

 と、ガルナは穴の縁に足をかけ、そして飛び出した。


「が、ガルナっ!」


 ガルナはただ空中を垂直落下……とはならなかった。重力点の星の一つに捉えられ、吸い寄せられ、少し先の星に着地する。その星の直径は、俺たちの身長の二倍ほどだった。


 着地の衝撃でぐわんぐわんと揺らいでいる。


「ついてこい!」


「嘘だろ」


 繰り返すが目の前には崖だ。もし飛ぶ先を誤れば、奈落まで真っ逆さま、着地に失敗すれば鋭い魔石の串刺しである。ここを、空中の星を渡って進んでいくと?正気か?


「とぉうっ!」


 と、しずくが隣からジャンプする。不可解な放物線を描き、先で待つガルナが受け止めた。


「えぇ……」


 本当に行くの?


「どうしター!来ないのかー!」


「ビビってんのか意気地なしー!」


「あぁん!?」


 できらぁ!


 助走をつけ、勢いよく空中へ飛び出した。一瞬の浮遊感の後、重力に引かれ落ちていく。体がこわばる、下に地面は無い、加速し、風に逆らい、やがて直下以外の方向から、引っ張られる力が加わる。ドンと、星の一つに着地した。質量が追加され、星が揺らぐ。


 ……あれ、ガルナが着地した星とは別のである。


 まぁ、とりあえず成功——。


「はやて!別のに移れー!」


「お、おう!」


 と、珍しく焦ったガルナの声が聞こえる。すぐに近くの結晶の一つに飛び移った。


 着地して、さっきの星を振り返ると。


 俺が飛び移った衝撃でその星は押され、重力点から抜け、落ちていった。落ちる途中で、違う重力点に捕まり、ひと際巨大な星へと吸い寄せられ、衝突し、粉々に砕けた。

 破片は飛び散ることなく全て大結晶に張り付いた。あそこはとりわけ重力が強いらしい。

 

 なるほどなー、星が大きいほど強い重力場が出来てんだなー。


「危ねぇ!」


 と、ガルナがしずくを肩に担ぎ、同じ星に飛んできた。


「ああいう事もあるから注意ナ」


 先に言えこら。


「すぐに慣れると思って」


 死んだら慣れるも何もない。


「ごめん」


 ガルナが気まずそうに顔を逸らす。


「他に注意は?」


「思い出したら言う」


「おい」


「多分ない」


「おい?」


「じゃあ行くか」


 行くって。


「どこまで?」


「特等席ダ」


 空中の星々を渡る。比較的小さいのを選んで飛べば、強い重力場に引き込まれ、潰れることは無い。 

 その代わり、小さい星は星の固定力も小さく、そして引き寄せる力も小さい。

 慎重に、丁度いい力場の飛び先を選び、飛んでいく。


 と、空を駆ける影があった。蛇の様に体をくねらせ飛んでいくその様は、


「が、ガルナ……!あれ……!」


「あぁ」


 ガルナが言う。もしかしてドラゴ——!


「あれもミミズだな」


「なんで?」


「おかしくない?」


 しずくがガルナの肩の上で、辟易した様子で毒づく。


 龍じゃねーのかよ。ホントだ、煌びやかな結晶を纏って肌色の皮膚は見えないが、さっきと同じ。とはいえ纏う結晶の質も大きさも段違いだが。

 なんて神々しいミミズ。揺蕩う紫のベールをなびかせながら、キラキラと、体の宝石を煌めかせながら、泳ぐように宙を飛び回る。時折、大結晶の星へと頭を突っ込み、バリバリと削っていく。


 と、そのミミズへと近づく星があった。ひときわ大きな結晶だ。


「来たゾ」


 よくよく見れば、ドングリの形のその大結晶から伸びる結晶柱は、前から後ろへと毛並みが整うように生え揃っている。


 そして、それに寄り添うようにくっついた二つの小さい結晶が、起き上がり、ミミズへと近づく。


 空を翔けるミミズは、自身に纏わりついた重い結晶体を浮かせているだけの重力を扱える。だから、星の重力に囚われるなんてへまはしないだろう。


 そのはずが、自身に向けられた結晶に、抗えず引き寄せられていく。ついには捕まり、そして大結晶の先端がパカリと開き、揃った鋭い牙がミミズを食いちきぎった。


 その大結晶は、魔物だった。計り知れないほどの大きさの結晶は、それもまた、一つの魔物だった。大結晶の先端は口であり、寄り添う二つの結晶は手であった。


 輪郭から考えれば、その正体は、土に住まう竜。土竜。つまりはモグラである。


 期待してた竜じゃないかなー?まぁでも、


「あれこそがこの地の頂点。“大地”の竜脈を統べる土地神。幻想の極地、この幻想地形に一番に愛された、生態系の覇者。ゲニウス・ロキ」


 ミミズの捕食が終わると、そいつはただ悠然と過ぎていく。


「よし、行くぞ」


「え?」


 ガルナに手を掴まれ、引っ張られるままに地面を蹴った。


「ぇぇぇぇえええぇええええええ!!!」


「わぁぁあああああああああああ!!!」


 行き先はそこ。一番大きく、色濃い大結晶。ゲニウス・ロキの背中。


 奴の重力領域に捉えられ、空の星に吸い込まれる。


 強い衝撃を伴い、生えた結晶の隙間へと、滑りこむように着地した。今までで一番、しっかりした地面だった。


「だ、大丈夫なのか!?」


「おう、何ともないゾ」


「お前じゃない」


 ゲニウス・ロキの背中なんかに乗って、俺たちは無事か?


「それも大丈夫。言ったロ?温厚だって。よく乗せてくれるんダ」


 パシパシと手元の結晶中を叩きながら言う。


 ォォォォオオオオォォオオオオオオ!!!


 腹の底まで響くような低音が、地面の下から響く。


「……怒ってない?」


「大丈夫大丈夫」


 結晶の柱をかき分け進み、生えた結晶が短い、見晴らしのいい、部位で言えばおでこのあたりに移動した。

 煩わしそうに身震いをするが、それ以上は何もしなかった。なんと乗せてくれるらしい。ガルナがしずくを下ろし、三人で寝っ転がった。


 足元は、紫を通り越し、もはや黒い結晶に覆われている。


 この魔石は、この地で最も純度の高い魔石。竜脈深部の上質な魔石、それを喰らって濃縮されたミミズの魔石、それをさらに喰らい、極限まで純度の高められた“重力”の魔石。ゲニウス・ロキの魔石。


 漆黒と言えるほどの濃い紫は、磨かれた鏡のように、周囲の光の帯を照り返していた。


 紫の結晶柱の毛皮を背に、地底の空を見上げる。数多もの結晶の華が、星々のように浮かび、空宙に咲いている。

 下を覗けば、遥か下には、地の底を竜脈が紫色に満たしている。空中には、ベールのように紫色の光が漂い、時折、キラキラと体を輝かせながら、空を魔物が駆けていく。


「世界に流れる変異の力。この世のものとは思えない幻想の地形。竜脈が創った魔物たち、それを統べる、神の如き力を持つ生き物」


 ここは幻想世界。竜脈の力により、土地も生き物も、多様に変異した幻想の世界。


「これが、オイラが見せたかった景色サ」




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