うちの妹が可愛い過ぎる!
エラの乗った乗り合い馬車を見送ってから職業斡旋所に寄り、またも刺繍とかけはぎの仕事を受けて来た。我が家の仕事の出来は標準と評価されたのだろう。窓口の職員さんと目が合ってすぐに「丁度いいところに来たね」と言われた。
実際のところお母様の刺繍は綺麗だと思う。ここ何年も手芸なんてしない生活をしていたから慣れるまで四苦八苦していたけど。
小さい頃に着ていた服や小物にはお母様の刺繍が施されていた。薔薇や百合が刺繍されたハンカチは大事に取ってある。子供が使うには豪奢なデザインだったけど、当時は大人になったようで嬉しかった。
それが私の刺繍の手本で目標。
そしてお母様の新しい刺繍を見られる事も嬉しい。
「ただいま戻りました」
丁度良かったと手渡されたピクニックバッグのような籠にはどんな材料が入っているか分からないが、前回納品した分の三倍くらいはある。その分期限も長めに設定されていた。なんとホワイトな依頼主だ。ここで評価を上げておきたい。その為にはまず帰ったらすぐに家の掃除を始めよう。水拭きはどうしよう……でもやっておかないと、材料をうっかり落とした時に汚してしまう。う~ん、お母様とソフィアに部屋で先に始めててもらって、その間にちょっぱやで掃除を終わらせて移動して……
とか算段をつけながら玄関のドアを開けたら、ソフィアが水拭きをしていた。
まさかの状況に思わずガン見。するとソフィアは慌てて立ち上がり、その場でワタワタした後に気まずそうに立ったまま。
「あの……猫の……作り方を知りたくて……仕事が……早く終われば……お姉様の時間が空くかと……きゃあ!」
うちの妹が可愛過ぎる!
感動で抱きついちゃう!
ぽっちゃり妹可愛い可愛い!!
「とっても助かるわソフィア! 二人で掃除を済ませてしまいましょう! お仕事も頑張るわ!ソフィアに猫の作り方を教えたいもの!」
あ、これは貴族らしくない振る舞いだった。でも今はいいや。可愛いものは可愛いと愛でておかないとにストレスになるからね!
そうして手早く丁寧に掃除を終わらせた私たちは、刺繍とかけはぎの材料の分別をする。
ソフィアがその量に少し引きつった。大丈夫大丈夫、ソフィアの刺繍もしっかり評価されてる証拠よ。
前回提出同様のものと、少し難しいデザインのものと、刺繍については二種の依頼が入っていた。
ソフィアは自分の出来る方を手に取る。難しいのはお母様用。ちなみにお母様はのめり込み過ぎて徹夜してくれたものだから、強制的に寝かせてる。腹が減ったら起きてくるでしょ。
……何というか、私も含め内職向きな性格で良かったわ。
それでも燃料費節約のために仕事は日中だけと決めた。私も気をつけないと。
仕事場は屋敷の玄関ホールでする事にした。手芸道具諸々と皆一緒に入れそうな部屋が玄関ホールだけで、ここなら明かり取りも充分だし、照明も他の部屋より数がある。冬になったら暖炉も一つですむし、なんたってお喋りしながら作業できる。
意外と器用だったソフィアだけど、まだ教える事はあるし、分からない所をお母様にすぐに聞けるのがいい。
そして二人にそこはかとなく逃亡計画を刷り込みたい。まずはエラに借金を返すのが先だけど。
てか、今回のかけはぎ、すごい上等な生地の男性用外套だ。これはタバコの焼け焦げかな?ドジね~。小指の爪くらいの大きさの焦げなら買い替えるよりは直す人かー。……貴族ではないのかな?
おっと、持ち主の詮索はなしよ! 職業斡旋所が仲介だから会うわけでもなし。ロマンスよりも収入、収入。
かけはぎ。細かいから目も肩も疲れるけど、この集中している時間が好き。そして綺麗に出来上がった時の充実感が最高!
他の仕事を始めてもかけはぎは続けちゃいそうだな~。