確かに
「国内産業貢献の集い……?」
「ああ。貴賤を問わず王家の独断で選ばれた家だけ参加できるパーティーだとよ、畏れ多くてニヤけるな」
と、執務室で不敵に笑うお義父様から王家印の入った招待状を受け取って読む。わー、セルジオス王太子が言ってたのはこれか。
「上手くいけば王家の承認が得られる、のか?」
「招待を受けただけでもすでに誉れですが……」
エルマーさんとウォーレンさんは困惑気味。招待内容になのかお義父様の様子になのか。
「誉れは大盤振る舞いのようだが、承認は、まあ無いだろう」
「なんでさ」
お義父様の言い切りにエルマーさんが返すと、招待状に同封された書類を見るように促された。
「招待名簿をみる限りまだ発展の可能性があるっていう所ばかりだからな。うちも含めて」
「……だよなあ」
「ふふ、足場を固める前に大きな荷物を抱えると大怪我しますよ」
「あぁ、ですよねぇ」
少しだけ肩を落としたエルマーさんに、二人は苦笑。お義父様はそのまま社長椅子の背にもたれた。
「ま、新しいツテを作るにはいい機会でもある。あーあ、ここまでされたらいよいよ本気で考えないとなぁ、第三王子かー」
「あ、お義父様もそう思われましたか」
「そりゃあな。集いには家族・職員も参加可だ、公式にユーイン殿下とエラを会わせる良い機会だろ。孤児院に型遅れの製紙技術を提供しただけでこれだ。やれやれ、仲の良い兄弟だな」
「ふふ」
提供しただけとは言うが、それに伴う工事もした。井戸水が比較的綺麗で水路も近い孤児院を選んだが、建物の増築や補強もした。
お義父様も従業員の誰も反対せず、むしろ工賃が安く済むように動いてくれた。割り引きは微々たるものだったが、この工事を頼む方も受ける方もつつがなく交渉し、仕事での信頼というものを目の当たりにした。
「ゾーイも笑い事じゃないぞ。ユーイン殿下が婿にくる事になったらゾーイとソフィアには事業を一つずつ任せるからな」
「え!?」
「リオ君だって人脈は豊富だろう。商会の補助役ならうちの奴らでも充分だからな、それぞれに展開してもらっていいぞ」
「え!」
「こっちも大盤振る舞いかよ」とエルマーさんが笑い、「引退はいつになることやら」とウォーレンさんは微笑。
「ん?リオ君もうちの婿だと思っていいんだろ?それとも一人息子だからゾーイはやっぱり嫁にいくのか?」
「や!そこまではまだ……」
しどろもどろになる私に大人たちは生温い雰囲気を醸し出した。
「なんだ、懸命に仕事を覚えているから婿取りだと思ってたんだが」
「いや!その、えー……」
「ははは!そういう姿は年相応だな」
いたたまれない!お義父様にからかわれるとは!
正直なところ、まだリオさんとのこれからを真剣には考えていない。
商会への贖罪とエラの婚姻ばかりを目指している。
だってやらかした私の未来なんて、それからの話だ。
でも。リオさんの思いにあぐらをかいているから、そうできることも理解している。……ひどい女……シンデレラの義理姉は悪女設定からのがれられないのか……なんて。
私が奮闘しなくても『シンデレラ』は幸せになるかもしれない。
だってエラは、なにより心根が強い。
家族への愛を惜しまない。
誰からも愛される。
恋を思う姿は可愛くて、悩んでる姿はせつなくなる。
助けたくなる。
最高に幸せな笑顔が見たい。
そう思うのは私だけではない。王太子たちが動くのは弟王子のためだろうけれど、ユーイン王子とエラが結ばれることについてお義父様たちからの反対はない。王子に嫁ぐに見合うほどに我がタスタット商会の地盤を再びかためるまでの猶予がほしいと言うだけだ。
王妃だって、難しそうな顔をするが反対はしていない。もしかしたら、ユーイン王子がエラと結ばれるように努力する姿だけを見たいのかもしれないが。
ま、とお義父様が腕を組む。
「どっちにどうなるにしろ、今まで育った世界とまったく違う職業に従事することになる。まずはその覚悟が二人にあれば良しだ」
確かに。
「だが二人ともまだ若い、というか子どもだしな。婚姻に至るかは婚約期間の様子を見ながらだろう」
それも、確かに。
「おいおい、他人事のように聞いているが半分はゾーイにも言ってるからな?」
「う!」
「はっはっは!」
正直戸惑う。
エラの懐の深さは絶対にお義父様からだ。なんならエラの実母様もそういう女性だったのかもしれない。
いくらお母様が初恋の人だからって、連れ子の私たちにもここまで愛情を注いでくれるのは何なのか。事業を一つ任せるって、よほどの事だ。
それだけの価値が自分にあるのか、戸惑う。
『今まで育った世界とまったく違う職業に従事することになる』
そうだ。大人になるとはそういうことだ。
守られた世界から自立しなければならない。
前世、就職活動で思い知ったじゃない。何枚と履歴書を書いて何度も面接を受けてメンタルをやられそうになりながら、社会で負けないように打たれ強くなっていく。
あれに比べたら親の事業を引き継ぐというのは楽なのかもしれないが、逃げられないという別なプレッシャーがのしかかってくる。
それでも『任せる』と信頼されるなら。
家族と遠く離れずにいられるのなら。
エラの幸せを間近で見られるのなら。
お手伝いや贖罪という理由をつけなくても、生きていいのかもしれない。




