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「誰が誰をなんだって?」

挿絵(By みてみん)

相内 充希さま作成♡


4話だけ更新です(。-人-。)



 

「その場合、私が娶るならゾーイ嬢だろう」

「おい寝言は寝てる時に言え」

「ちょ、リオ、痛いんだが」

「誰が誰をなんだって?」

「ただの世間話だろう、たとえ話を本気にするな」

「なら冗談を言う顔で言え、真顔やめろ」

「ははは、余裕のないリオはおもしろ痛い痛い痛い!」


 リオさんの右手がセルジオス王太子の頭を鷲掴み。

 詰所での『奥さま訓練(通称)』終了後、そのまま先日のダンスパーティーの話題になり、あっという間に今に至る……痛そう……

 ユーイン王子がエラを想っていることは兄王子たちも知っていて、基本的には応援したいそうだ。

 が、大っぴらには難しい。

 そりゃそうだ。なんたって王子様である。付き合う相手は厳選されて当然なのだ。ま、うちのエラは厳選しなくても顔だけじゃない唯一無二の可愛い娘だけどね!


()()、覚えておけよ、ひとの恋人に粉かけようとする奴はボコられて当然なんだ」

「リオこそ冗談らしい顔で言え!」

「そりゃ冗談じゃないからな」

「冗談も通じないのか!」

「冗談になるかはお前の態度次第だ」

「痛い痛い痛い!悪かった!私が悪かったよ!」


 やっと解放されたセルジオス王太子は両手で頭部をカツラごとマッサージ。


「はあ、とんだ目にあった……」

「セスさん、冷やす物をお持ちしましょうか」

「ああソフィア嬢ありがとう。あなたなら優しい伴侶になってくれそう「()()()誰が誰をなんだって?」お前もか()()()!?」


 アイアンクロー再び。今度はビクトル王子である。

 ……同じ技だなんて仲良しだなあ。痛そうだけど。


 にしても、セルジオス王太子とビクトル王子が二人揃って『奥さま訓練(通称)』に参加するようになるとは。

 ビクトル王子はまだ学生だけど、王太子が週に二度もここに来て良いのだろうか。

 ……一、二時間抜け出しても平気なくらい平和ってことなのかな。ならば良し。


「兄弟であいつが一番油断できない」


 リオさんがセルジオス王太子をチラ見しつつ憮然としながら隣にきた。


「ふふ、ごめんなさい、面白かったです」

「ええ〜」

「セスさんもリオさんに構ってほしいのでは?」

「というより、ゾーイさんたちが慣れてくれたから楽しいんだろうね」

「私たちですか?騎士さんたちといる方が楽しそうですよ」

「まあ、そっちもだろうなあ」


 ビクトル王子はともかく王族気配を隠せないセルジオス王太子は当初、騎士たちからも持て余されていた。だが、リオさんの取りなしはもちろんだが、率先してお母様にぶん投げられる姿に戸惑いは氷解。受け身が上手なので、それが騎士たちの学びになったらしい。

 口調はほぼ変わらずだが、セルジオス王太子の雰囲気はやっと下町に馴染んできた。それもあっての娶りの台詞だったのだろう。

 私をネタにすれば即リオさんが反応することを知ったセルジオス王太子はよく笑う。そしてソフィアをイジるとなぜかビクトル王子が反応するのだが、それもわかってやるのだろう。かまってちゃん疑惑。


「そうだなあ、みんなが参加できそうなパーティー……あ、私の婚約披露ならどうだ?」


 どこの平民が王太子の婚約披露パーティーに参加できるんだっつーの。大丈夫か王太子。たまにやたら不安にさせられるんだけど。


「なんだ、相手は選定されたのか?」

「いやまだだ。平和なおかげでどの家門に決めてもひと悶着ありそうで」

「外国もな」

「そう。仕方ないから、いざという時は()()()()を掘るさ」

「……お前はほんと為政者向きだよ」

「はっはっは、お褒めに預かり光栄だね」


 セルジオス王太子って、常に穏やかな雰囲気だけど、リオさんと一緒だと物騒なことをさらっと言う。それとも物騒だと感じるのは私だけなのか……


 あ、エラのお迎えにそろそろ出なきゃ。

 クッキー配り係になったネルとアンが皆さんに配り終えたようだ。バスケットを持ったお母様と戻ってきた。そして手に持っているクッキーの入った袋をそれぞれセルジオス王太子とビクトル王子に差し出す。


「セスさん、どうぞ」

「お。今日はネル嬢からか、ありがとう」

「ビーしゃん、どおぞ」

「ふふ、ありがとうアン」


 お二人ともにネルとアンを見ると小さい頃のユーイン王子を思い出すらしくメロメロである。その姿をお母様とソフィアとリオさんとともに生ぬるく見守る。


「毎度ありがたいが、クッキーの袋代もこの数だと馬鹿にならないのでは?」


 セルジオス王太子が少しだけ眉を下げ、クッキーの入る粗い紙袋を見やる。


「会計としては損ですが、父からは許可されています」


 今クッキー用に使っているのは本やメモには不向きな紙だが、教会に併設された孤児院で作られたものだ。寄付金だけではなく、院の収入になるものに乗っかるようにお義父様に相談したところ、わりとあっさりOKが出た。

 そしてクッキーを包むなら、紐で結ぶ巾着型にするより袋型の方が使用総面積が少ない。のりは紐よりは高価だが、使用量を考えると値段はほぼおなじである。

 なにより、袋にはタスタット商会の店名ハンコが捺してある。


「という理由から、使い捨てにはなるのですが商会の宣伝には良いと判断されました。投資です」

「なるほど。しかし、紙梳きの機材を投資するとはタスタット商会は気前がいい」

「紙産業は見込みがありますから年々機材も進歩しています。孤児院に用意したのは型落ちの中古品です」

「それでもだ。貴族でもなかなかできる家はない……あ、そうか」


 ん?


「うんうん、悪くない」


 んん?

 セルジオス王太子が一人の世界に入ってしまった。一人でニコニコと頷く殿下をネルとアンが不思議そうに見上げる。


「ちょっと時間がかかるけど、悪くないと思う」


 なにが?





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