「はい。行ってらっしゃい」
1週間後。
「では、行って参ります!」
「はい。行ってらっしゃい」
我が家から500メートルくらいの所に乗り合い馬車乗り場がある。
エラが学園に通う事を了承してくれ、その準備をしているうちに、ちょっとだけお金が足りない事が判明。
……まあね、原因は私らだからね……
学園寮の維持管理費分が足りないと分かったので、エラには申し訳なくも家から通ってもらう事になった。
私は頭を抱えたけど、エラはその方が嬉しかったらしい。土下座をするくらいなら馬車乗り場まで送り迎えして欲しいと言われた。持ち馬車もすでに売り払っており、我が家には御者もいない。私たちの誰も馬にも乗れないし、そもそも馬を飼う余裕もない。
乗り合い馬車は長距離用の馬車だけど、家からは辻馬車よりも近く、学園に通うのに丁度良い出発時間だった。
当然二つ返事で馬車乗り場までの送迎を受諾。道のりの途中には職業斡旋所もあるから、丁度良いし。
メンタルが強靭じゃないと学園に復帰はできないとは思っているけど、エラはどうにかできそうな気がする。エラが特別馬鹿とかダイヤモンドメンタルとかじゃなくて、天使のような美貌で誰もを魅了できそうとかでもなくて、とにかく努力の子だからである。
お義父様の『エラ日記』は、エラをさらに強くしたかもしれない。
でも、私たちと離れる時間が寂しいらしい。
ほんともう!何なのこの可愛い娘はーっ!!
もじもじしながら上目遣いで「少し寂しいです……」とか!
そういうのは男を堕とす時に使いなさい!
私にしてどうするのーっ!!
その威力は凄まじく、うっかりコロリとなってしまった私は、刺繍仕事で余った刺繍糸を駆使して編みぐるみの猫を作ってしまった。
前世では仕事が営業だった反動で、休日は引きこもりだった私。長期の休みは海外に行ったりもしたけど、一日だけなら家にいたい。ただほんやり過ごすのも勿体ないので、家で一人でできる通信講座を色々とやっていた。楽しかったな~。小物作りの時は部屋が大変な有り様になったけど……
とりあえずデフォルメ猫の顔部分だけ。親指の第一関節部分くらいの大きさにしかならなかったけど、ポケットとかに忍ばせるなら丁度いいか。
……猫って分かるかな?
お守りになればと作ったけれど、エラが寂しくなければ猫だろうが豚だろうがいいけどね。
もちろん、もう一人の妹ソフィアにも同じ物を作った。こんな事で嫉妬させるのも嫌だし、ソフィアだって私には可愛い妹なのだ。
ただ、色糸が足りなくて、白猫と茶猫になってしまったが……
二人に選んでもらおうと朝食の時に出したらキラキラとしてくれた。よっしゃ!
ソフィアは白猫をじっと見た。でもエラが先と我慢したと思う。いつもならすぐに手が伸びたもん。ソフィア偉い!
そしたらエラはおずおずとでも迷わず茶猫を手に取った。
「お姉様たちの髪色に似ているから……」
ほんとマジ天使!!
ソフィアも照れてるし!!
はにかみ天使オソロシイ!!
そんな朝からの内心ドタバタを経て、乗り合い馬車のステップを軽やかに登る制服姿のエラを眺める。
父親が行方不明のままだから色々言われるかもしれない。でも私にはたくさんの事は教えられないし、有力者を紹介する事もできない。ごめんね、エラ。
「頑張ってね」
エラのこれからが、幸多きものになりますように。
制服のポケットから茶猫の編みぐるみを取り出したエラは、元気に手を振って学園に行った。
今日から一日一話10時更新にします。
ストックもあまりないので(笑)
思い出した時に隙間時間のおともにしてください(*^^*)
みんなで乗りきりましょう\(゜∀゜)/