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ちょっとだけ昔

挿絵(By みてみん)

相内 充希さま作成♡




 ちょっとだけ昔。


 今の国王がまだ王太子になったばかりの、正式に婚約者を発表した夜会。

 候補止まりの、それでも『王太子の婚約者の座』を諦めきれない令嬢が王太子に催淫剤を使った。

 夜会の開催中に王太子の私室まで忍び込み、それを飲料用の水差しに仕込んだのだ。

 そこまでは令嬢の予定通りで、はしたなくもクローゼットに隠れて王太子がやって来るのを待っていた。


 時が経ち、扉の開閉音がし、間もなく陶器の触れ合う音と水音が聞こえた。

 一口飲めばたちまち体が火照り、異性に襲いかからずにはいられなくなるという効能を信じ待っていた令嬢は、王太子の息づかいが激しくなった頃にクローゼットから飛び出し、そして、状況を理解し叫んだ。


 なんと床にうずくまっていたのは国王だった。

 その爛々とした目で見上げられ、自身の父親と変わらぬ年齢の男性に襲われると直感した令嬢は自分の身を守るために叫んだ。


 その悲鳴を聞きつけた国王の侍従、近衛騎士、王太子に次いで王妃と王太子の婚約者までが部屋に入ってきた。

 しかし令嬢は混乱したまま、そして国王は息が荒く、説明ができない。

 その状況をいち早く理解したのは王妃であった。


 王妃の命令で令嬢は騎士に拘束されて部屋から連れ出された。そして御殿医が呼ばれたが完璧な解毒薬は存在せず、現在最良の治療法は解熱。しかし急激な解熱は国王の体への負担が大きすぎる。

 最後の手段として王妃が相手をすると言い張ったが、最近心臓が弱ってきていると診断されたばかり。苦しむ国王にすら止められた。


 しかし、飲み物に溶かした催淫剤の濃度が高かったのか、国王の顔色がみるみると悪くなっていく。

 急いで城下町の娼館から娼婦を呼び寄せろと誰かが言った時、王妃に付いたばかりの新人侍女が進み出た。


 王妃、王太子の婚約者が大反対をした。が。

「私なら婚約者も恋人もおりませんし」

「マリッタ!あなた婚約者でなくとも好きな人がいるでしょう!」

「そんなこと。エメリエンヌ様、あなたは、今までもこれからも何より国の大事を取らなければなりません」

「マリッタっ!」

 新人侍女は毅然と王太子の婚約者と言い合うが、握りこんだ手は小さく震えていた。そして新人侍女は王妃に向く。

「どうぞ、後ろ盾もしがらみもない私をお使いください」

 青い顔色をした王妃は唇を噛みしめながら新人侍女を抱きしめ「頼む」と言うとそのまま国王と新人侍女を残して全員が部屋を出た。



 ◇



「で、そこでできちゃったのが俺なのね」


 ………………ん?


「母の生家は没落していたから、国王の無事を確認したら死ぬつもりだったんだって」


 んんん?


「その夜、()()()()媚薬を盛り、しかし王太子の婚約者のおかげで()()()()()()。その罰としてやらかした令嬢は監獄と呼び声高い修道院に送られ、娘への支援があったとしてその家門は取り潰し。城の方でも内通者を処罰。とにかく王妃と王太子の婚約者の怒りが凄まじく、王城の警備体制の醜聞も含め大々的に発表された」


 ちょっとだけ昔話なんだけど、と私を抱きしめたままのリオさんが語ってくれたのは自身の生い立ちだった。

 もしかしたら王家のギリギリ親戚かなとは思っていたけど、予想の遥か上で……えー……王弟じゃん……えー……私、抱きついていいんだろうか……まあ、これが最後になるならまだこのままでいいか……思い出思い出……


 ああああああ 大 混 乱。


「て、当時はそう情報統制をしたんだってさ。さらになんと王太子の婚約者様は国王夫妻の後押しもあり慣例を力づくで突破して、婚約発表から一ヶ月で成婚し、そこから媚薬等の取り締まりが王太子妃によって強化されましたとさ」


 ……ああ……王妃様って昔から王妃様なんだな……


「だから今回の薬物事件で王妃を抑えるのが大変で……目星をつけた奴らを泳がす前に手当り次第に捕まえようとするもんだからなかなか熟睡できなくて」


 ……あー……


「ローザさんで気を逸してくれて、タスタット商会があって本当に助かった。お礼をするのは俺たちの方だよ。だからできれば、今日は俺に会いに来たって言ってほしいな」


 ……たまにスルッとこういうこと言うんだよね……慣れてそう。


「リオさんて、女友達が多そうですね」

「……なんてこった……女親に頭が上がらない影響がここで出るとは……えい!」


 ぎゅうっと強く抱きしめられて慌ててリオさんの腕をタップする。さらなる密着が嬉し恥ずかしいけど素直に苦しいし、いや、もう充分!くっつきましたから〜!ギブです!


「ちぇ〜」と言いながら離れてくれたリオさんは気のいいお兄さんの顔をして、赤いままの私の顔をまた優しく拭ってくれた。うぅ、恥ずかしい。


「前国王夫妻、国王、当時を正しく知る人たちに助けられながら俺は生を受けることができた。特に王妃。身分違いの親友の覚悟に当時の王太子妃は泣き落としで対抗した」


 ……あぁ……想像できそう。


「なんなら己の子とするって、母と大喧嘩したらしいよ」

「お、大喧嘩、ですか」

「そ。でまあ、その喧嘩の余波が婚約期間をぶっ飛ばした成婚と違法薬物取締法の強化になって、国王なんかいまだにあんな嵐は懲りごりだって言うよ」


 余波ってどんな意味だったっけ。


「……さすがですね……」

「ははは。それと同時に、母の片思いの男に子どもの父親になってくれって頼みに行ったって」

「ええっ!」

「母も叶わない夢だと思っていたから、喧嘩の時にその男と結婚できたら生きて産むって言ったんだってさ。王太子妃にしてみればしてやったりだよね、これでいくらでも命令できる。でも真相はお願いって頭を下げたらしい。靴職人としてまだ修行が途中だったその人は修行を続けられること、その後は靴職人として生きることを条件に、俺の父親になってくれた。まあ、幼馴染みのお嬢様の家が没落してしまって、早く一人前になって迎えに行きたいと思ってたらしいから、結果的には上手く収まったんだ」


 おおお、こっちはこっちで純愛……!


「というわけで俺は平民です。父はここから城下町に通って仕事をしているよ。それが変だって唐突に実感する日が年に二回くらいあるんだってさ。もう二十年以上住んでるのに可笑しいよね、ふふ」


 ……うん、リオさんのお父さんの言うことはわかる気がする。






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