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「「「 うわ~ん!!!!! 」」」


挿絵(By みてみん)

相内 充希さま作成♡

 


「あ、しまった、見つかった」


 耳もとでのリオさんの小さく慌てた声に、ふせていた顔を上げる。


「どうしました?」

「あーうん、どうしようかな……いいか、ちゃんとつかまっててねゾーイさん」

「はい?」


 さっぱり要領を得ない答えに私の頭も働かないが、とりあえず建物の外には出たと確認。太陽の光が眩しい。でも自然の明るさに心底ホッとする。

 しかしふと気付く。リオさんに横抱きにされてるこの状況、いくら泣いてしまったからとはいえちょっとアレなのでは……?


「「「 うわ~ん!! 」」」

 ごん「ぐふっ」

「ぎゃあっ!」

「「「 うわ~ん!!!!! 」」」


 可愛い声の雄叫びとドンという衝撃に、リオさんが建物の壁にぶつかり一瞬不安定になったのと、急に何かに掴まれた怖さに思わず叫んでしまう。


「おねえさま〜!」「ねーさま〜!」「あああ〜!」


 あ……


「おろすよ……?立てる?」


 こそり、とリオさんが聞いてくれたのでお願いする。アンを蹴ってしまわないようにゆっくりとおろしてもらえたが、しがみつかれたままでバランスが取れず、背中はリオさんに寄りかかったまま。


「エラ、ネル、アン、心配かけてごめんなさい」



 ◇



 私たちが監禁された場所は子爵の王都屋敷の外れにある建物だった。

 昔は物置として使っていたが資金繰りに困って中身を売り払い、私とソフィアが生まれた頃にはスッカラカン。すっかり忘れ去られていたのを後妻が屋敷を仕切るようになってから新たな使用人が建物の担当となった。


 その新たな使用人がヴォレリア国の人身売買組織員たちだった。後妻もそのメンバーなのだが役目は斥候。踊り子として各地をめぐり、目ぼしいものを摘んでいく。

 今回子爵家の後妻におさまったのは、踊り子としての寿命もあるが、御しやすい相手だったから。ちょっと儲け話をチラつかせただけで妻と娘を放り出すような奴である。ここで稼げることができれば国に帰っても組織で世話を焼いてもらえるだろう。新しい媚薬の販路を広げるのにも貴族は丁度いい。いい金蔓(かねづる)になるだろう。


 ……ただの迷惑じゃねぇか。

 いや犯罪ってのは迷惑なんだけど。


 そんな後妻の言い分も教えてもらえて、最初に思ったのは戦争になることはなさそう、だった。媚薬が後妻の所属組織で製造されたものらしく、ヴォレリア国でも国花の盗難で捜査されていたそうだ。


「捕まえても捕まえてもいなくならないのよね」


 乗馬服の王妃様が我が家でお茶を召し上がる。紅茶クッキーを添えて。本日の給仕はなんとウォーレンさんである。絵面の安定感半端ない。


「十日も経ってやっと一応の落ち着きを見せたのに、ローザが怪我だなんて。罪状を増やしてやりたいわ……」


 やめてくださーい!?


「お供できず申しわけありません」

「いいのよこちらは。でも聞いた時は驚いたわ。本当に捻挫なの?骨折はしていないの?」

「ご心配ありがとうございます。捻挫ですが、念のためにあと一週間は大人しくしているようにお医者様に診断されました」


 そう、お母様は子爵を蹴り飛ばした時に足首を少々捻っていたそうだ。お義父様たちに付き添って外に出た時まではまだ普通に歩けていたが、治療院に着いた頃には腫れ上がった。

 ずっと一緒にいたソフィアが言うには、エラたちに飛びつかれたのを踏ん張ったのも負担だったかもしれないらしい。エラたちには言っていないが。


 ……お母様が普通に怪我をしたことにホッとした……

 だってほら、暴れ馬に向かっていくとか、大人の男を蹴り飛ばすとか、普通の女性はできないし……できないよね……?

 捻挫の包帯が痛々しいけど、ぜひとも安静にしていただきたい。


 ちなみにお義父様とエルマーさんはまだ入院中である。

 面会がままならないのでお義父様の不満が大変なことになっていて、『ローザ不足』と面会時間中はお母様を抱きしめて離さない。隣のベッドのエルマーさんと共に私たちがチベットスナギツネのような顔になってしまうのはしょうがないと思うの。


 エラたちがあの日騎士たちとあの場にいたのは、ウォーレンさんが押し切られたから。

 ……ですよね。目の前で誘拐されたの見たら冷静でいられないよね〜。


 なにより驚いたのが、ネルの母親に薬を渡していたのが子爵本人で、ネルはしっかりと顔を覚えていたことだ。

 だから私たちが連れ出されたことと、母親が帰ってこない記憶とが混同してしまい、『追いかける!』とネルは大暴れ。

 そうなるとエラも不安を抑えられなくなり、アンは二人の様子に泣き出す始末。ほとほと困ったウォーレンさんと留守番役の護衛騎士さんたちが静かにするならと言い含めて現場に連れてきたそうだ。


 それを聞かされて、だから後頭部にたんこぶができてもリオさんが怒らずに苦笑いをしていたのだと納得。


 リオさんたちが私たちのところへ来てくれるまで何をしていたかというと、子爵家への潜入である。誘拐容疑だったものが薬物関連への容疑も追加され、騎士隊が踏み込んでからの証拠隠滅、逃走を防ぐために先に探っていたそうだ。


 助け出された時にやたらに騎士がいた気がしたのはそういう訳だった。姉妹で大泣きしたところを見られたのは恥ずかしいけど、子爵たちを一網打尽にできたので良しである。


 そこから十日経ったのだけど、エラとネルとアンは、お母様とソフィアと私に引っ付いて離れない。寝る時も同じベッドでと駄々をこねる。

 特にネルが日々不安定で、すっかり甘えっ子になってしまった。

 もちろんできる限り一緒にいるようにしてる。が、さすがにエラはわざとだろう。だって普通に学園に行ってるし。小悪魔発動か。可愛いからゆるす。

 そこからユーイン様経由でも王妃様へ私たちのことが筒抜けになっているようだ。……いいけどね。


 王妃様がいらっしゃったことで、ユーイン王子も我が家を訪れることが解禁になった。

 二週間ぶりなのだが、それ以上に会っていなかった気がする。ソフィアもそう感じたのか、ユーイン様の背が伸びた気がすると言っていた。確かに私にも少し大人びて見えた気がしたが、現在台所で大騒ぎでお菓子作りをしている様子から気のせいと判断。


 はあ、子どもたちの楽しそうな声って、和むなあ。






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