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「お怪我は?」


挿絵(By みてみん)

相内 充希さま作成♡




 子爵の顔を睨みながら、エラが私たちを見捨てなかったことが不思議でしょうがない。

 無理。命を握られていようと、尽くすなんて嫌だ。


 エルマーさんはエラを「良い子でいようとする頑固者」と言った。

 血の繋がった父親だろうと、子爵に「良い子」だと思われなくていい。心底そう思う。


 エラ。やっぱりエラは天使だよ。

 私たちを正気にしてくれた天使。

 お義父様たちをあなたに返すよ。

 少しだけ、勇気をちょうだいね。

 リオさんが来るまでの、勇気を。


「お父様、なぜ……このようなことをするのですか?」


 意図していないが声が震えた。怯えたように聞こえたようで、子爵と馭者がにんまりと私を見る。

 うあああぁキモい!


「なぜも何も、手っ取り早く金が欲しかっただけだ」


 なんてこった最悪な理由だ。鳥肌が全身に立った。


「な、なぜですか? 子爵家は代々(つつが)なくお役目を全うしていたのではありませんか?」


 子爵たちから注目されるように立ち上がる。途中ソフィアに止められたが、そっとその手を離す。お母様たちからも目で止められたが頑張って無視する。

 その様子がどう見えたのか、子爵たちの表情は嗜虐的なものになった。


「ハッ! 社交でお前たちはただ踊っていれば良かっただろうが、こっちはずっと田舎者と馬鹿にされることに頭を悩ませていたんだ」


 特産物が無ければ有事の際の兵力も無い。若者の流出は止まらず、生産が落ち、税の徴収もままならない。都会の流行に乗り遅れて馬鹿にされ、新規事業を持ちかけても相手にしてもらえない。


 しまった。子爵の愚痴自慢が始まってしまった。

 しかし時間稼ぎにはなりそう。このまま黙って、つまらなそうに立っている馭者を気にとめつつ、聞くふりをする。


「父も母もただ俺に任せると言うだけだ。娶ったローザは使えないし娘は馬鹿ばか「クソが」……は?」


 え?お、お義父様?


「能無しはすぐに他人のせいにする。だから()()べくして馬鹿にされてたんだろうよ」


 子爵の額に青筋が浮き上がる。

 ちょっ!お義父様煽らないで!?


「それに、ローザも娘たちも今は俺のだ。テメェに馬鹿と言われる筋合いはない!」


 怒りに燃えた様子の子爵がツカツカとお義父様に近づき、そして蹴った。


「ぐっ!「きゃあ!」」


 止める間もなかった。顔を蹴られたらしいお義父様が後ろに倒れ、それを受け止められなかった私も尻もちをついてしまった。痛っ!


「商人ごときが!俺に口ごたえするなあ!」


 子爵はまた右足を後ろに引いた。目の前での大人の男の行動に私の体が固まる。お義父様を庇いたいのに怖くて動けない。


 リオさん!


 リオさんの笑顔がぶわっと脳内に浮かんだ。

 そして我に返る。


 しっかりしろ私!こんな体たらくで!ソフィアを守るとかどの口が言うのよ!


 エルマーさんがお義父様に覆いかぶさろうとしたのと同時に、やっと私の体も動いた。

 エラのもとへ、商会へ、お義父様とエルマーさんを帰す。

 エラを思いながらお義父様の頭を抱き込もうとした瞬間。


 子爵がお母様に蹴り飛ばされた。


 …………は?


「ぐべ!」とかなんとか言いながら勢いよく床を転がり、ゴンと壁にぶつかる子爵。気絶はしなかったようだが、床に這いつくばったまま起き上がれないでいる。


「私の旦那様に無体はおやめください」


 …………え〜、と??


「……はっ!……このアマ!」


 一番に我に返ったらしい馭者が叫びながら、お母様に掴み掛かろうとした。

 ら、急に白目をむいた。ひえっ!


「すんません!遅くなりました!お怪我は!?」


 ドスンと音を立ててその場に倒れた馭者の後ろから現れたのは、息をきらせたリオさん。

 馭者の意識がないことを確認し、横になったままのお義父様の容態を確認するリオさん。


「この部屋にはここにいるのが全員ですか?」


 リオさん。


「はい全員です。奥の扉はトイレで誰もいません。たぶん抜け道などはないと思いますがわかりません」


 返事をしたのはエルマーさん。お母様はお義父様に寄り添っている。


「ご協力感謝します」


 そう言いながらリオさんは倒れた馭者をロープで拘束すると、子爵のそばに落ちていた鍵束を拾い、お義父様とエルマーさんの鉄枷と足枷を外した。

 すぐさまお義父様がお母様を抱きしめる、その向こうで、リオさんが今度は子爵をロープでぐるぐる巻きに。


「上階の制圧終わりました!」


 走って来たらしい騎士がドアを一歩入ったところで経過報告をすると、まだのびている馭者を担いで出て行った。そして「こっちにも担架!」と言う声が聞こえた。


 リオさんも子爵を担ぐと、またやって来た別な騎士に子爵を預け、今度は担架を持って来た騎士たちにお義父様とエルマーさんを乗せるように指示。その後トイレ部屋に入り壁を何ヶ所かコンコンと叩いていた。


 それから、私たちの目の前に片膝をつく。


「お怪我は?」


 リオさん。


「かすり傷です。私とソフィアは歩けますが、ゾーイをお願いしますわね」

「お願いしますね!」


 お母様とソフィアはそう言って、担架に乗せられたお義父様たちに付き添って部屋を出て行った。


「遅くなってごめん、ゾーイさん」

「そ、そんなこと……私たちは無事でしたし」


 リオさん。


「もっと格好良く助けたかったけど、ローザさんには敵わないかもしれないな〜」


 リオさん。


「お母様には、ふふっ、誰も敵わないかもしれないですね」


 リオさん。


「ほんとだよ、なにあの見事な蹴り、落ち込むわ〜。さて、部屋を出よう。担架を呼ぶよ」

「いえ、歩けますよ」


 リオさん。


「なんだ残念。抱っこできなかったか〜。じゃあお手をどうぞお嬢さん」


 リオさん。


「ふふふ、では失礼して。抱っこだなんて、私重いですからキャア!」

「どこが? 基礎訓練で使う重りよりずっと軽いや」


 リオさん。


「ごめん、すぐに外に出るから、それまでつかまってて」


 リオさん。


「……はい」


 リオさん。


「ん?な〜に?」

「助けに来てくださって、ありがとうございます」

「ははは、良いとこ無しだったけどね」


 リオさん。


「いいえ、ありがと……ございま……っ」

「……うん。ゾーイさんこそ、頑張ってくれてありがとう」






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