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合掌

挿絵(By みてみん)

相内 充希さま作成♡



「まあね!俺は妻も恋人もいませんし!割り切れるんで!不定期に!連れて来られる誰かで!発散して!正気を保っているんですけど!旦那様は!奥様に!超!強固な!操を立てて!馬鹿みたいに!今!死にかけてるわけですよ!」

「なるほど!お義父様は!お母様を!心から!愛して!いるのですね!」

「そりゃあもう!長年の付き合いの!俺でも!引くくらい!です!」

「でも!命懸けって!ちょっぴり!憧れます!」

「ソフィアお嬢様!憧れるだけが!無難ですよ!すっごい面倒くさいから!好かれるのも!それをそばで見てるのも!」


 壁一枚隔てた向こうの桃色な世界から逃避するために、三人で大声で会話することにした。私とソフィアは両手が自由になったので耳を塞げるが、エルマーさんは厳しい。

 しかも耳を塞いだくらいでは完全にはドアの向こうから聞こえてくる声を遮断できない。なんてこった。  

 できればこの部屋から逃げたいし、リオさんを呼びたい、の、だが。


 ……こんな状況に来させられるか!!


 それならいっそのことと、大声を出すついでに近況報告も兼ねた。ただし、前世のことと王家と関わっていることはまだ内緒だ。うっかり子爵たちに聞こえてはどうなるかわからない。


「取り引き停止中!?その短期間に!そんなに使い込んだんですか!ある意味すげえ!」

「「 本当に!申し訳!ございませんでした! 」」

「わはは!大丈夫ですよ!ウォーレンさんが!手続きを!してくれたなら!」

「従業員の!皆さまにも!エラにも!本当に!申しわけなく!」

「エラお嬢様も!モーリスに似て!頑固ですしね!」

「は!?エラが!頑固!?」

「エラは!めちゃくちゃ!良い子!ですよ!」

「ほらそれ!良い子でいようとする!頑固者でしょ!」


 思わずソフィアと見合った。そうか、そういう見方もあるんだ。いやでも。


「「 エラは!天使です! 」」

「わはは!帰る楽しみが!できました!」


 本当のところはエルマーさんの人となりをよく知らない。いつもお義父様の近くで颯爽と仕事をこなしていたので、こんなに喋るとは思っていなかった。まあ、現状がこうさせているのもあるだろうけど。


 とにもかくにも、お義父様がお母様にべた惚れなのはわかった。

 なんと王妃が話した学園の厩舎事件の時にお義父様は厩舎に餌を搬入する仕事をしていて、その現場を見たらしい。なにそのタイミング、マジか。そしてそこからの成り上がりがすごい。

 でも成り上がる前にお母様は結婚してしまい、お義父様の初恋は終了。合掌。


 その悔しさを仕事に注ぎ、商会を大きくした。そしてエラの母親とめぐり逢い結婚。奥さんはエラを産んで亡くなってしまったが、それ以外は順風満帆。


 しかしお母様が子爵から離縁されたと知るとすぐに動いた。


「正直!ふっ切ったと!思ってました!」


 エルマーさんいわく『初恋拗らせたべった惚れ』だそうだ。お義父様はエルマーさんから見ても奥さんを大事にしていたそうだ。だけどお母様については別枠だったようで、もし奥さんが生きていれば今頃大変な修羅場になっただろうとエルマーさんは言う。ひええ……


 お義父様の初恋には驚きだが、ともかくこれでお母様についてはひと安心だ。

 借金のこともエルマーさんに笑い飛ばされたので、結果的には追い出されるかもしれないがその日まで少し猶予がありそうだ。





 馴れ初めはともかくとして、お義父様とエルマーさんは誘拐された。


 オルスト国での商談を終えた夕飯時に『▽▽子爵家が繋ぎ……』と聞こえたらしい。

 自国でもうだつの上がらない子爵家の名前が他国の場末の酒場で出たことを不審に思ったお義父様はその会話に割って入った。そこで高額な情報料を払って得たものは薬物の売買らしい、という不確かなもの。


 イングリアス国では薬物に関する事は王家が取り仕切り、薬を扱う家、商会は代々決まっている。

 妻の前の嫁ぎ先でなければ騎士団に情報を流して終わりだが、妻にまで何かあっては我慢がならない。国に帰る前に証拠をかためよう、と動いた先で襲われた。


「いやあ!油断しました!俺もモーリスも!一対一なら!まあなんとか!逃げられそうな!程度ですけど!10人に!囲まれちゃあ!ね!」


 二人は痛めつけられ、その後に雑な介抱を受けながら子爵に手を組もうと持ちかけられた。タスタット商会はまだ若い商会だが、その手広さは老舗商会も油断できないものがある。そこを子爵は狙ったらしい。


「協力する!ふりをして!一旦帰る!とも思ったんですが!子供に恥じない商いを!が社訓なんでね!」


 なかなか同意しないが殺すのも惜しい、ならば我慢比べだ、と、媚薬の漂うこの部屋に放り込まれた。


「一日二日は!まだ我慢できたんです!でも一週間経つ頃には!わかっていても!欲と!動悸が!どうにもね!」


 薬は経口摂取が基本だ。娼館で使われている専用の媚薬も液体らしい。

 しかし、この新薬は火に溶け、空気に漂う。


「ランプ一個で!充分なんですよ!」


 この薬を買った人は、いったい何を目的に使ったのだろう。

 そこにあるランプに背筋が震えた。

 ソフィアの表情はまだいつもと同じだ。頬が薄っすら赤いのは、大声を出しての疲れと思いたい。


「だから!本当は!こんな大声を!お嬢様たちには!出させたくは!ないんですが!モーリスの命が!かかってるので!お詫びは!のちほど!」


 お義父様も心配だけど、お母様こそ無事ですかね……?










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