おやおや天使様? ただの小娘になってますよ?
元執事が間に入ってくれたおかげで商売は休業できた。
お義父様が行方不明になってすぐに取引休止の手続きはされていたのだが、お母様が出ばってぐだぐだになってしまっていたのだ。……ほんと、大企業に素人は手を出しちゃ駄目だよ……大赤字で済んで良かったな……たぶん。
うちが間に入っていた取引は全部直接取引に変更。……お義父様が帰ってきたら怒られるだろうなぁ……
でもこれで今以上の赤字が増える事は少なくなったはず。お義父様、エラが待ってるからさっさと帰ってきてちょうだい。
さて、そのエラだけど。
「嫌です!」
反抗期である。
おやおや天使様? ただの小娘になってますよ?
「なぜ今さら学園に通わなければならないのですか! お姉様たちのお世話は誰がするのです?」
お金持ちのエラは学園に通っていた。主に貴族の子の為の学校だけど、大商人、資産家の子らにもその門戸を開き、優秀な庶民にもその門は広げられた。早い内からのツテ作りである。
エラが私たちの世話をするために休学手続きをした事も元執事から聞いた。
私ら姉妹は貴族ではあったけど、お馬鹿過ぎて休学。休学理由も色々あるのさ、あはははは。
お母様の再婚にこれ幸いとのびのびニート生活していた訳だが、私が変わったからにはそうはいかない。元執事に土下座した後に早速職業斡旋所に行った。職安みたいな所を想像してたけど、まー、パソコンなんかない時代。募集の紙が給金別になって壁一面に貼りまくられて、上の方が見えにくいわで首が疲れたー。
その中からお母様と妹でもできる刺繍の仕事を見つけ、私はかけはぎの仕事を申し込んだ。二人を残して外に働きに出るのはまだ早い。とにかく二人に貧乏生活を叩き込んでからだ。
手仕事は給金が安いものだけど、これでコツコツと斡旋所の信用を作って行けば、少しずつ良い仕事を回してくれるだろう。まずは初仕事を完遂だ。
「というわけで、元執事さんのおかげで屋敷を出ていかなくて済みましたので、私らは一所懸命働きましょう!」
「「 は? 」」
キョトンとする二人。
「二人とも、今すぐこちらのワンピースに着替えてくださいね」
取り出したのは、これまたエラのつぎはぎワンピース。妹はお菓子の食べ過ぎでぽっちゃりになっているけど、そこは一晩でつぎはぎしました。手縫いが辛かったけど、裁縫なんて久しぶりで楽しかった~。
「冗談じゃないわ!そんなボロ布着られるわけがないでしょう!!」
「あらお母様、エラは毎日着ていましてよ。私も流行のドレスよりこちらの方が動きやすいですわ」
「お姉様おかしくなっちゃったの!? それともシンデレラ!お前が何かしたんでしょう!!」
「ソフィア。すぐに何かのせいにするのと、エラをシンデレラと呼ぶのももうお止めなさい」
部屋の隅に立つエラをギリッと睨む二人。その視線上に移り、体でエラを隠す。それも気に入らなかったのかギャンギャン喚き立てる二人。
はぁ……醜い。私もこうだったのよね。
毎日毎日三人分の悪意を浴びせられても、何でエラは清らかなままなんだろう。私らよりもよっぽど貴族に向いていると思う。
まあ、貴族なんて前世の政治家みたいなものだから清らかだけではやっていけないだろうけど。
「あなたのせいよ!」
お母様がカップとソーサーをまとめてエラに投げつけた。当然それはお母様とエラの間に立つ私に当たった。
擦りむいたおでこに当てるなんてナイスコントロールお母様。痛あっ!!!!
ガチャンと床に落ちて割れた音と、三人の息を飲む音。
ああ痛い。ちょー痛い! 涙出た。
「あ、あ、ゾーイ、何で、あなた……」
いや、さっきからいましたよ、ここに。
そんな判断もできないの、お母様?
「なんでシンデレラを庇うの!?」
だからさっきから立ってたよ、ここに。
妹よ、私はそんなに霞んでたかい?
「お、おねえさま、す、すみま、」
「エラ。今あなたは何も悪くない」
振り返らなくても、後ろで小さくなっているエラの姿がわかる。
散々それを見てきたから。
わざとらしく、長く息を吐く。
そして、お母様とソフィアを見据える。
ビクリとする二人。
「……二人とも、覚悟なさいませ」
あら。16歳でもドスのきいた声って出るね。あは。