臭い、暗い、苦しい、臭い
臭い、暗い、苦しい、臭い。
その後すぐに馬車に積まれ移動しだした。絨毯です巻きにされているからわりと平気かと思ったが、なんのクッション性もなかった。振動がダイレクトに伝わり、かなりしんどい。臭いし。
お母様とソフィアとの会話を試みたけど、声が思うように出ないし、ガラガラゴトゴトギシギシと荷馬車の音で他がかき消される。
うぅ、ソフィアが泣いてないといいな……
泣いてないと言えば、エラたちも大人しくしててくれて良かった。ネルもアンも戻ったらたくさん褒めよう。
とにかくこれで誘拐という、捜査の確実な取っかかりができた。
◆
『もし、子爵が拐うつもりならばそれに乗りたいのですが』
朝食の席で、お母様がのたまった。
ぽかんとするネルとアン以外の全員が大反対をしたのだが、お母様は何食わぬ顔でだってと続けた。
『ゾーイを見る目がとてもいやらしいものだったので、ちょっと潰しておきたいのです』
ちょっとって何!?潰すって何!?
『それに、態度が以前より横柄になりました。服のセンスは変わらず酷いですが、生地の質は上がっています。他にも後ろ暗い事に絡んでいるような気がしたので、手っ取り早く証拠を掴み、あと潰しておきたいのです』
二度目!?そこまで念入りに潰そうとしてるの!?
『俺たちの捜査を待つことは?』
『もちろん。ですから、もし、子爵が私たちを拐うようであれば、ですわ』
リオさんの言い分に一歩も引かないお母様。内容は可能性のひとつではあるが、普通の人には物騒過ぎる。
『ですので子爵への対応は私一人で、』
『いいえお母様、私もつきます』
『わ、私もつきます!』
お母様一人にはさせられない。私をいやらしい目で見ていたなら私こそいないと駄目だろう。
だがソフィアは危ないから説得しなければ。
『じ、自分で言うのもなんですが、胸が大きく見えるようになったので拐う価値はあると思います!』
そーですね!
……うぅ、なんか、心のどこかが折れた気がする……
『危ないわ』
お母様、どの口が言ってるんですか。
『お母様、私とソフィアは足手まといでしょうが一緒にいます』
『もしも三人とも別の場所に運ばれてしまったら……』
『リオさんたちがいます』
突然言われたリオさんは目を丸くしたけど、渋々と頷いてくれた。
『なら!わ!私も!』
エラも名乗りをあげようとしたが、絶対!駄目!
もし傷のひとつもつくようならお義父さまがこわい!!その前にウォーレンさんもこわい!!
『エラはネルとアンをお願い。私たちが戻るまでウォーレンさんといてね』
『しかし……』
おっと、ウォーレンさんからもストップが。
『助けが入るまで大人しくしてますわ。潰すのは機を見ます』
だからお母様はどこの武人ですか?
とにかく、私たちは隙を作ってもできなくても構わない、体を使うのはリオさんたちに任せる、という事で落ち着いた。
拐われた場合は、である。
◆
……本当に拐われるんだもんなぁ、人生なにが起きるかわからないわぁ……




