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ソぉぉフィアぁぁああっ!!

挿絵(By みてみん)

相内 充希さま作成♡



 その日、エラの下校に合わせてリオさんがやって来てくれた。ウォーレンさんは先程来てくれている。

 作業台の上には執務室から拝借したいつかの地図をまた広げる。ネルとアンにはつまらない話で申し訳ないが、全員集合だ。


「急な呼び出しにお越しくださって感謝いたします。さっそくですが、件の薬の捜査にヴォネリア国も追加してください」


 お母様がずばりと本題に入った。

 ヴォネリア国は捜査候補になかったのか、リオさんもウォーレンさんもポカンとした。しかし私もポカンだ。

 元父の子爵が帰ってからリオさんとウォーレンさんを呼び出すにあたり、お母様からは理由を教えてもらえなかった。説明するのに考えをまとめたいし、本当に内職の提出期日が迫っているからと。


「本日、私の前の夫である▽▽子爵が供も付けずに一人で、うまい話があるといらっしゃいました」


 リオさんもウォーレンさんも静かに聞いてくれている。


「元妻の窮状をみかねて助けてくださるそうです」


 エラが「まあ……!」と小さく喜んでくれたが、そんな男ではないのよ。


「ここで、補足をさせていただきますが、▽▽子爵のご商売は後妻様を娶られてからだそうです。私と婚姻関係にあった頃は領地経営に専念しておりましたが、前子爵からの引き継ぎ以降も目覚ましい発展はありませんでした」


 牧歌的な領地だったなぁ。だから都会に憧れたんだよね。


「子爵家の人は商売っ気が無かった、とも言えますが、現状維持を優先し、領地を著しく発展させようとはしておりませんでした」


 行儀作法には厳しかったし、階級にもうるさかったけど、今にして思えばそれでしか威張れなかったのかも。


「私自身も発展に繋がるものは思いつきませんでしたし、男爵家からの嫁は子を産むだけのものと言われていました」


 ふと見やったウォーレンさんの口の端が歪んだ。やらかした私が言うことではないけど、紳士なのよ、ウォーレンさん。


「実家もほぼ同じ価値観でしたので、私もそれが当然と思っていました。ですが、後妻様の元の職業は踊り子です」


 そう。招いた楽団の中の一人でしかなく、しかも異国出身。褐色の肌に長い黒髪のアラビアンビューティー。


「今までの子爵家の価値観を覆す真実の愛だ、と言われるまま離縁しました。そして思い返してみれば、その頃から子爵様のまとう香りが変わりました」


 まとう香り……!

 私はお父様に近づく理由がなかったから全然気付かなかった。そうだったんだ……


「昨日も匂いました。服を重ね着して誤魔化したつもりでしょうが、肩が触れ合う距離ですれ違えばわかるでしょう。リオさん、その香りを確認できますか」


 急に名指しされたリオさんはそれでもしっかりと頷いた。薬について調べているなら匂いはわかるのだろう。そしてお母様はウォーレンさんを見つめる。


「申し訳ありませんが、旦那さまの行方に関しての手掛かりはありません。ですが、ヴォネリア国と繋がっている商会を調べる価値はあると思いました」


 ウォーレンさんは眉間にシワを寄せたまま。


「……ヴォネリア国を指定した理由は?」


 そうだ、それよそれ。

 お母様は地図の今一番クロと思われるトゥラン国よりも東の部分を指した。


「あら、焦るあまり要点を一つ飛ばしてしまいましたわ、すみません。子爵様の後妻様の出身国です」


 ええーっ!?

 てかヴォネリア国ってそこなんだ。


「後妻様から香りの調合等が盛んな国と聞いた覚えがあります。纏う香りを日々変えるのも美しさとされると」


 あー、あの見(くだ)し感が嫌だったわー。私とソフィアには憐れみの視線をよこすだけだったけど、お母様にはそんな事を言ってたのね。

 調合、か。


「調合というのなら、薬の可能性もあるということですね?」


 お母様は小さく頷いた。


「調合を広い意味で捉えるならね。本日の話は価値のない可能性が高いですが、完全に無視はしない方がいいと感じました。ウォーレンさん、子爵が訪れる日に隠れて絨毯の質を確認してもらえますか。本物でも偽物でも、偽物なら尚更、それで販路を特定できるかもしれません」


「……いいでしょう。お嬢様()()もその日隠れてくださるなら」


 ()()?……ああ、エラとネル、アンのことね。ああびっくりした、私とソフィアも言われた気になっちゃった。


「もちろんです。ソフィアとエラにはネルとアンをお願いするわ。ゾーイも隠れていてね」


 何をおっしゃるお母様。


「いいえお母様。私もあの場にいましたので立ち会います。お父様、いえ、子爵様が次も一人でいらっしゃるとは限りませんもの」


「……あなたに怪我をさせたくないわ」


 怪我!?お母様の中ではどういう予定になってるの!?


「お母様……怪我をする予定があるのならやはり立ち会いますわ。女二人なら油断を誘えます。元妻と娘ですし」


「それなら私もお願いします!娘ですし、」


 ソフィアが声を上げた。あ、そっか、隠れてもらったからお父様の姿を見ていない。実は会いたかったのかも……悪いことしちゃった。


「次も私たちを『みすぼらしい』と言ったら、最っ高に苦いお茶を出してやりますわ!」


 ソぉぉフィアぁぁああっ!!








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