表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/78

「ふーん?」

挿絵(By みてみん)

相内 充希さま作成♡



「きれーな服のおじさんがおかあさんに()()()()をあげてたの。もっともっとたくさんあったら、クッキー作れたのになぁ……」


 私の膝の上に座るネルはクッキーを楽しく作れたようだ。

 だからこそ『母親が持っていた白っぽい粉』を思い出したのだろう。

 ネルに『こむぎこ』の量をたずねると、ネルの手のひらくらいに折り畳まれた紙に入る程度のようだった。


「おなかがへっても、お母さんはこむぎこをくれなかったよ。でもどこかに行って、かえってくると、ネルにパンをくれたの。このくらいの!」


 ネルの小さな両手に乗る程度の小さなパンをひとつ。私を振り返えって嬉しそうに話すネルに涙が込み上げてくる。


「だれかといっしょにパンを作ってたのかな。ネルもてつだったのになぁ」


 母を思い出したのか微かにうつむくネル。

 そりゃそうだ。遠い昔の話じゃない。最近のことだ。

 いたたまれなくなって、そっと抱きしめる。するとネルはくすぐったそうに笑いながら体をよじる。眠くなった時以外に抱きしめられることにまだ慣れない。


「ふふ……ネルには、これからたくさん私たちを手伝ってもらうからね?」


「うん!」


 その男は何度かネルたちの前に現れたようだ。数がわからないネルは正確な回数を答えられない。来る度に段々と母が弱っていくので男が嫌いになったという。


「あさになってもお母さんがかえってこないから、さがしに行ったけど、どこにもいなかったの」


 元々行き先を知らなかったネルは、母を見つけられず途方にくれた。


「でもねアンがいたんだ! ちいさくてかわいいし、お母さんがかえってくればパンが食べられるから、いっしょにかえったの!」


 でも母は帰って来なかった。

 お腹がすいたからお店のゴミ箱を漁って食べ物をアンと分けっこした。

 何日も続いた。

 それでも母は帰って来なかった。

 ある日、アンの元気がなくなった。食べ物をほんの少ししか受け付けない。

 きれいな食べ物を探したが、そんなものは落ちていなかった。

 それでも探していると、市場からいい匂いがした。

「ししょくです」と手にしたそれは、とてもあたたかい。

 これならアンも食べられると持って帰ったが、帰りつくまでに冷めてしまった。

 でもアンはいつもより少し多く食べた。ネルは残った分を食べた。

 いつも拾ってくるものよりずっとずっと柔らかかった。

 だから、ぺろりと食べきって困ってしまった。アンが食べられるものだったのに、もうない。


「すみません、ちょっと、お手洗いに……」


 家にいる全員でネルの話を聞いていたが、ソフィアが目もとを押さえながら奥に行ってしまった。


「お、お茶のおかわりをお持ちしますね……」


 エラが台所に向かうと、僕もとユーイン王子が追いかけた。

 王妃、リオさん、ウォーレンさんの眉間にはしわが。

 お母様は抱っこしているアンを撫でている。

 また振り返ったネルは不思議そうに見上げてきた。


「どうしてゾーイねーさまは泣いてるの?」


「それはね、ネルがとても頑張っていたからよ」


「ふーん?」


 この後はユーイン王子が台所から持ってきてくれたクッキーをみんなで食べた。

 王妃やウォーレンさんが、手ずからネルとアンにクッキーを食べさせてくれたり、逆に食べてくれたり。

 大人たちがやたらに構うのがくすぐったそうな二人。


 可愛くて、泣きたくなる。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ