ぐはあっ!流れ弾来た!
ネルとアンとユーイン王子を、ソフィアとエラに任せて、私たちは話し合い。
……おかしい……なんで私はこっちなんだろう……王子こそこっち側じゃないの……?
私も5人と一緒にクッキーを作りたいよおおっ!
指名されてしまったので話し合いの席には着いたが、やっぱり出番はなさそうである。王妃、リオさん、ウォーレンさん、お母様、私。私とお母様の場違い感が……
話し合いというか情報の擦り合わせの結果、トゥラン国から薬が出回っている確率が高まった。ほぼクロ。
確証じゃないのは胴元が誰かという証拠が取れていないから。時間が掛かりそうですとウォーレンさんは一瞬悔しそうにしたが、タスタット商会のメインはお義父様と秘書の捜索だ。
王妃の方からは、我がイングリアス国より東の国々で薬が確認されたという報告が。そしてイングリアス国より西の国々には薬についての報告がない。そこからもトゥラン国があやしい。
「タスタット商会も薬に関わろうとしたのでは?」
王妃がウォーレンさんを見据えた。しかしウォーレンさんは否と毅然と見返す。無礼講を許された上での行為だけれど、見てるこっちは心臓バクバクです。
「子供に恥ずかしくない商売を、というのが旦那様の信念です。従業員一同その信念の下、勤務しております」
エラ命のお義父様が掲げる社訓に納得。そしてウォーレンさんは商会を過去形にしなかった。
「経営難では手を出してしまうのでは?」
遠乗り前提で乗馬服の王妃は、どこからか出した扇で口元を隠す。……ドレスじゃなくても扇って使うの……?
「旦那様が行方不明になるまで経営難にはなっておりませんが」
ぐはあっ!流れ弾来た!
ウォーレンさんがしれっと返しただけに、私へのダメージがでかい!
「たとえ経営難になったとしても手は出しません。タスタット商会の総意です」
かっけぇ……ウォーレンさんの冷静さがかっけぇよ……相手が王妃じゃなければ安心してこのやり取りを眺めていられたのに。
王妃が扇の向こうの目を細めた。ひええええ……
「ちょっと止めてくださいよ~、なんでやり合う流れになるんですか」
リオさん!王妃を窘めるとか!あなたのメンタルはダイヤモンドですか!素敵ですー!!でも怖いー!!
「とにかく、薬についてはトゥラン国が中継地というのは断定できそうですね。外務も動いていますから、ここで焦らないでください」
渋々という雰囲気を隠しもせずに王妃は扇を閉じ、ウォーレンさんはお茶を飲んだ。小さく苦笑したリオさんはウォーレンさんに向かって改まった。
「タスタット商会の御主人と秘書の捜索については、オルスト国とパークタ国に事故記録閲覧を要請します。まぁタスタット商会の情報網の方が確かかもしれませんけれど、二人が見つかるまで協力させてください」
ウォーレンさんがリオさんを見やると、リオさんは空気を崩して肩をすくめた。
「さすがに商会の運営は助けられませんので、捜索だけになりますが。いいですよね、王妃?」
人好きのする表情のリオさんを見つめたウォーレンさんは、王妃にお礼を言った。
「ご助力、ありがたくいただきます」
スッと頭を下げたウォーレンさんに毒気を抜かれたのか、王妃は優雅に頷いた。……麗しい。
あ。クッキーの焼ける甘い匂いがしてきた。
ネルとアンとユーイン王子は初めてのクッキー作りを楽しくできたかな?
一人でほんわりしていたら、エプロンを粉だらけにしたユーイン王子が台所の扉を開けた。
あら?真剣な表情ね、なんか失敗しちゃった?
そのまま王妃とリオさんのそばまでやって来ると、ユーイン王子はふっと息を吐いて一気に言った。
「どうやらスラムで薬を配っていた男がいるようです」
……はあっ!?




