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意外にお転婆さん……

 

「王妃教育の息抜きに、卒業後にも学園に何度か寄っていたわ。当時の担当だった先生を訪ねるフリをして、学園の馬場に通っていたのよ。王妃教育では好きなだけ馬に乗れなかったから、スカッとしたかったの」


 王妃のプライベートな過去話にイメージがちょっとずつ崩れていく。口調も崩れたし、意外にお転婆さん……


「王妃となってからも月に一度は通っていて、あの時は第二王子を妊娠中で、長く悪阻がひどかったわ。臨月間近だったから乗馬をする気はなかったのだけど、何もかもがどうにも腹立たしくなっちゃって、馬屋番や護衛が止めるのも無視して大声で溜まりに溜まった愚痴を叫んでしまったの」


「ぁ……妊婦さん……」とお母様が小さく発した声は王妃にも届いたようで、テヘ、と肩を竦めた。

 ……王妃のテヘの破壊力!


「あの日は世話をかけましたね。小さい頃から大人しい馬としか接してこなかったから、どんな時も穏やかな生き物だと思い込んでしまっていたの。混乱した馬があんなに恐ろしいものだとは……今、思い出しても身が竦むわ」





 王妃のそばの馬が驚いて暴れ、それが連鎖して厩舎が揺れた。馬屋番や護衛たちを上回る数の馬が混乱。馬同士がぶつかり、柵は壊れ、馬場に駆けて行く何頭か。多くの馬は馬場に出たので、厩舎に残った馬はなんとか人海戦術で抑えられた。

 厩舎から少し離れたところに侍女と避難していた王妃は大惨事に震えが止まらなかった。収まっていく騒ぎにホッとしつつも、周りを危険にさらしてしまった事。人には大きな怪我はなさそうだが、怪我をした馬が何頭かいた。王妃の私物ではない、学園の生徒のための馬に傷を付けてしまった。


 浅はかな行動への後悔に押し潰されそうになった時、首を大きく振る馬が王妃に向かって一頭駆けて来た。

 とっさに反応できない王妃に「危ない!」と侍女が覆い被さる。


 まずい。と、思っても体が動かない。

 動かなければ、侍女と子が大変な事になってしまう。

 慣れ親しんだはずの馬が恐怖で化け物のように巨大に見える。

 護衛も馬屋番もこちらに走って来ているが、きっと間に合わない。


 土を叩く蹄の音がやたら大きく聞こえ、王妃はまぶたを強く閉じて歯を食いしばった。


 ごめんなさい。私に長く仕えてくれたのに。

 ごめんなさい。私が母親だったばかりに。

 ごめんなさい。私が大声を出したから。



「よーし、よしよし、どうしたー?」


 馬のいななきとともに聞こえた死神の声は少女のようだった。


「ほーら、あっちに走りに行こー!」


 走りに行こう?と目を開けた瞬間に王妃の視界に入ったのは、女子生徒が制服のまま、すぐそこで暴れている馬の背に乗っていた姿だった。


 唖然とした王妃に、女生徒はその場で跳ね続ける鞍も鐙もない馬の背から「まだそのままで」と声を掛ける。そして女生徒にたてがみを掴まれた馬は馬場の方へものすごい速さで駆けて行った。


 入れ違いに護衛がやって来る。王妃は、侍女も自分も生きている事が信じられなかった。


 その数分後、トコトコと歩くすっかり落ち着いた馬を連れて、女生徒は厩舎に戻ってきた。


「お怪我はありませんでしたか?」


 王妃に気づいた女生徒がそう言ったが、女生徒の姿の方は散々に汚れていた。王妃は申し訳なさすぎて言葉が出ない。

 しかし女生徒はあっけらかんとしていた。


「あ!妊婦さんでしたか。お腹を触らせてもらってもいいですか?」


 学園の生徒であれば貴族であるはずなのに、女生徒は話しかけている相手が王妃だと気づいていないようだ。その様子にその場にいた王妃以外の人間が呆れた。


 王妃はなんだかおかしくなって小さく笑ってしまい、女生徒に触れることを許した。

 制服にごしごしとこすりつけた両手でそっと触れた女生徒は嬉しそうに笑った。


「今のでびっくりしないなんて、馬が大好きな赤ちゃんなんですね。ふふ、将来有望です」


 本当に楽しげに見上げてくる女生徒に、さらに面白くなった王妃は「そうね。きっと自慢の子になるわ」と返したのだった。





「私の失敗だったからと箝口令がしかれてお礼もできずにごめんなさいね。昔は馬の扱い以外は平凡なあなたをそばに置くことを許されなかったけれど、今は私の権限に融通がきくから誘いに来たわ。もちろん、腕が落ちていたら来なかったわよ」


 ふふふと楽しげに微笑む王妃に、夜会等で感じる威圧感はない。


 それよりも、お母様の武勇伝に白目になりそう……








また不定期になりますm(;∇;)m




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