なんだかホッとしてます
「いたずら……?」
肉屋の隅に座らせてもらって、暴れ馬発生の原因を教えてもらった。ガキ大将が手作りした吹き矢だって。
「子どものいたずらだからっていつも拳骨で済ませていたんだけど、今回は馬の暴れ方が本人の想定以上だったみたいで。なによりゾーイちゃんが大泣きだったのが衝撃だったようよ。あのいたずら坊主の青い顔なんて初めて見たわ」
どこの子か知らないが、いたずら坊主は親に連れられてあちこち謝り回ったそうだ。これに懲りたらちゃんと後輩に申し送りしておいてくれ。……しなかった場合に備えて私も拳骨を鍛えておこうかな……
私はというと、現在泣き過ぎて頭痛が始まった。なんか疲れた。
「荷車は壊れちゃったし、持ち主の農家さんはかなりガッカリしてたわ。せっかく持って来た野菜も落ちて傷んじゃって売り物にできないし、でも持って帰ることもできないし、でね……」
ため息をつく奥さん。ガキ大将は損害分を払えないし、そのお家も少しの金額しか出せなかったようだ。出ただけ良しかなぁ。
「農家さん」はお母様から手綱を受け取ったあの小太りの男の人かと思い出す。
何度もお母様に頭を下げて、その後は馬に泣きついていたおじさん。今思い出しても悪い人ではなさそう。あまり助けにはならないだろうけど、今日の野菜はその人から買おうかな。
奥さんに農家さんのいる所を尋ねると不思議そうな顔をされた。
「傷んだと言っても、そこさえ除けば今朝の取り立て野菜ですから。安く買えるなら我が家はとても助かります」
ぽかんとした奥さんはすぐに財布を持って来ると、そういう事なら一緒に行くわとおんぶ紐を締め直した。
そうしてなぜか商店街の奥さんたちと共にかしましく向かった商店街の外れには、真っ白に燃え尽きたようなおじさんが小さく膝を抱えていた。その脇には無造作に積まれた野菜の山が。
……あぁ……これが売り物にならないなんて、真っ白になるわ……
声を掛けると虚ろな目をしたおじさんはハッとした。そしてすぐに立ち上がると私に向かってお礼を言ってきた。あ、おじさんにも覚えられていたのね……ははは……
「あの、図々しいとは思ったのですが、お野菜、お安くしていただけませんか?」
途端にしゅんとするおじさん。
「こんな傷だらけの野菜に値段はつけられねぇです……どうせ持って帰れねぇですし、タダでいいですぅ……」
「では……八百屋さんへの売値はおいくらですか?」
もそもそと教えてくれた金額に奥さんたちの目が光った。
そこからは大バーゲンセール開始。
自前の籠に欲しい傷野菜を入れていく奥さんたち。その籠に入った野菜をおじさんが数え、値段をチェックするのは私、お金のやり取りは肉屋の奥さんというチームがフル稼働。
そしてほぼ売り切った。
呆然とするおじさんの隣で先に確保していた野菜を肉屋の奥さんとお互いに会計し、全額をおじさんに渡す。
「いや、でも、これは……」
「今日のお野菜の売上ですよ。これで荷車を買うには足りないでしょうけれど、何も無いよりはいいです」
それでも戸惑うおじさん。
「毎日お野菜を届けてくださってありがとうございます。いつも美味しくいただいています」
そうして今度は、おじさんが泣きながら馬を連れて帰って行った。一緒に見送った肉屋の奥さんは農家さんには悪いけど楽しかったと笑う。
「じゃあ私たちもお店に戻ろうか。荷物はうちに置いてエラちゃんの迎えに行っておいで」
そのお言葉に甘えて馬車乗り場へ着くと、騎士姿のリオさんによく似た人を見つけた。
「リオさん……?」
「あ、ゾーイさん。なんか大変だったんだって?」
気づいて近くに来てくれたリオさんを見上げる。
……わあ……本物だぁ。
「ん?どした?」
なんだかホッとしてます。
「ゾーイさん?」
なんで今日は騎士服なんですか? いや似合ってますけど。
「おーい?聞こえてる?」
今日はいつにも増して盛り沢山な日だったんです……
「ゾーイさん!?」
そこで私の意識は途切れた。




