一位はぶっちぎり
私の癒しナンバー4となったお姉ちゃんの名前はネル。年齢はわからないそうだ。だよね~。
母親らしき人はいたようだが、いつの間にかいなくなったとか。その後に妹のアンを見つけたとか。
……なかなかな事情だよ……
まあ、まだ体力も全然ないし、長話はせずにトイレの使い方を教えてから妹のアンとへなちょこソファで休ませる。アンにはスープをちょっとずつ飲ませ、その様子をそばで見ていたネルは、元気になったらプリンが食べられるよと一所懸命教えていた。萌え。
ちなみに私の癒しメンバーは、一位タイでエラ&ソフィア。三位はユーイン王子である。
一位はぶっちぎりだが、三位以下は変動ありの予感。プリンデビューのネルがめっちゃ可愛かったからね!
横になったネルのまぶたが下がってきた。食べたり喋ったりおつかれさん。おでこを何度か撫でるとネルはすうっと眠りについた。
「可愛い……」
ネルの寝顔を覗きこんだエラも可愛いよ!
「プリン、半分しか食べられませんでしたね……」
ソフィアがネルの寝顔を見ながら、少しいたましそうな顔をした。ネルが悲しそうな顔で残ったプリンを見てたもんね~。
「長い空腹で胃も小さくなっているでしょうし、私たちも焦らないようにしましょう。ネルもアンも今の状態で食べ過ぎたら腹痛を起こしてしまうもの」
ですよねお母様。
「そういう事があるのですね……食べさせ過ぎは私が一番気をつけないと」
ソフィア……
でもそれは私も同じ。美味しそうに食べてくれたらアレもコレも食べさせたくなっちゃうもん。みんなで気をつけよう!
さて夕飯は何にしようかと台所に向かおうとすると、エラに止められた。
「お姉様、夕飯の支度は私がしますから、もう少し眠ってください」
確かに予定していたより早く起きてしまったけど、すっかり目が覚めちゃった。若い体っていいなぁ、ははは。
平気と言おうとしたら、今度はソフィアが。
「そうですわ。横になるだけでもいいと聞きますから、予定時間まで休んでください」
はふん……うちの妹たちが尊い……!
でも全然眠くないので、刺繍を開始したお母様のそばへ。
「ネルとアンの事だけど、今後どうするつもりか考えはあるの?」
針を動かしながらお母様がそっと聞いてきた。浮浪児を元気にしたその後、は正直まだ考えていない。
そもそもの話、我が家の状況では姉妹を連れて来てはいけなかったのだ。世話をしきれずに共倒れになる確率の方が断然高い。
あの時何が正解だったかというなら、ネルの声に聞こえなかったふりをして見捨てる事だった。
試食に並ぶネルと会う度に思っていた事だ。会話なんてしたこともないから、もしもの時に私は何もしないだろうと思っていた。
なのに家に連れて来てしまった。それも二人も。
今後の事を即答できない。
「内職だけでは収入に心許ないわ。どこかに働きに出ようかと思うのだけれど、今度職業斡旋所に連れていってちょうだい」
お母様が何を言ったのか一瞬わからなかった。
「いよいよなら田舎に行きましょう。農作業ならたくさんあるだろうし、食べていくだけなら何とかなると思うわ」
え。お母様が言った?
今のセリフお母様が言ったの?
「でもそうすると借金を踏み倒すことになってしまうのよね。そしてできるならエラは学園を卒業させたいわ。私たちのエラへの、いえ、タスタット商会へのせめてもの償いだもの」
刺繍の速度は変わらずに一人話を進めるお母様。
「お母様から、田舎へと言われるとは思いませんでした……」
思わず口をついた言葉に、お母様は手を止めて苦笑する。
「忘れたの? 私、田舎の男爵領育ちよ。都会に憧れたけれど田舎の方が性に合ってたみたいね。だって、ふふ、ユーイン様がいらっしゃる前にネルとアン用に藁を用意しようとしてたでしょ? 藁に寝るなんて子供の頃ぶりで、実は楽しみにしてたの」
……アルプスな少女いたーーっ!!




