「上着を貸せなくてごめん」
『妹』だと理解したと同時に隣にいたリオさんが建物の隙間を駆け抜けて行った。向こうの通りの左右を見やり、左手に消える。
「た、すけ、て、アン、を、たすけて、」
私の脳内はグダグダだ。
あっちと言ったけど、リオさんが向かった方向は合ってる?
この子を背負って妹がいるどこかまで案内してもらう?
それまでこの子の意識は持つ?
エラとユーイン王子はどうする?
荷馬車はどこから貸してもらえる?
その後はどうする?その後はどうする?その後は、
「お姉様ー!」
エラがユーイン王子の隣でオロオロとしていた。
……うん、しっかり私。
「エラ! どこかで荷馬車を借りて来て! この子とこの子の妹を連れて帰るわ!」
「ならばこの馬車を使ってくれ!」
ユーイン王子がすぐに言ってくれたが、ありがたいけどさすがに無理だ。いくら荷馬車より遥かに病人に優しい造りのものでも、王族が使うものだ。エラをここまで乗せてくれるだけでも、きっとものすごい数の手続きが必要なはず。
「ありがとうございます! でも結構ですわ! 代わりにリオさんを貸してください! 私たち馬を扱えないので!」
察して王子様。変装もしてない今、特定の庶民と仲良くしないで。いまさらかもしれないけれど。
「……わかった。誰か荷馬車を手配してくれ。エラ先輩は一人で動かないで」
ありがとう!ユーイン王子!
荷馬車をエラに頼んだけどちょっと心配だったんだよね。
借りる代わりにデートとか変な条件付けられたらとか。
名前も知らない護衛さんの一人が商店街に向かって行った。
それと同時に足音が近づいてきた。
「この子が君の妹かい?」
少し息を切らせたリオさんが痩せた小さな子どもを抱えてた。私の抱く子に見えるようにか、膝をつく。
「鍛冶屋の陰に座っていたよ」
「アン……いた」
リオさんの抱く子は静かな呼吸以外ピクリともしない。
私の抱く子は妹を確認して気を失ってしまったようで、ぐったりと体重がかかる。それでも軽い。
「リオさん、見つけてくださってありがとうございます。その子の状態は?」
「うん。ゾーイさんのその子の見立てと同じだと思う。熱も無さそうだし。で、二人になったけど、それでも連れて帰るのかい?」
「はい。私、治療のためだとしてもエラとソフィアと離されたら暴れる自信があります」
リオさんが噴いた。この子らも姉妹だからか余計に離してはいけない気持ちである。
「あ、荷馬車の準備ができたみたいだ。立てる?」
ちょっと踏ん張ったけど、縦抱っこにしてあっさり立てた。軽い。
「上着を貸せなくてごめん」
エラたちのところに向かいながらリオさんが申し訳なさそうに言った。
上着? 何でリオさんに借りるの?
子どもを抱っこしてるから脱ぎにくいよね?
何の事かピンともこないでいると、微妙そうな顔をされた。
「なんで不思議そうな顔なの……足、どれだけ見えてるか自覚してる?」
あ。
そういえば、マスク代わりにするのにスカートを破いたっけ……
……ぱ……パンツまでは見えてないもん!




