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「頑張ったね」


「みんなでお茶をしたいし、ユーイン様をお誘いしてね?」

「…………………………………………………………………………はい」


 はい、というまでのエラが百面相。

 もう!可愛いなあ!


 ユーイン王子と喧嘩して二週間。エラは日が経つにつれどんな表情をしてるのか気付いていないようだ。友達だと自覚する前にこんな事になっちゃって、タイミングが掴めないでいるのはユーイン王子だけでなく、エラも一緒。二度目の週末が近づくにつれソワソワしだした。


 それを気にしたソフィアもソワソワ。私らは友達がいなかったから仲直りのアドバイスができないのよねー。ははは。

 それでもエラを元気付けようとするソフィアにお姉ちゃんはキュンですよ。その姿を見たくて何のフォローもしなかった私を鬼と呼ぶならば呼べ。


 でもソフィアの気持ちはきちんとエラに届いていた。

 だから今日。金曜日の朝の馬車乗り場でエラは頷いたのだ。


 ホッと息を吐いたのを見逃しませんでしたわよ、おほほ。

 でもなるべく穏やかに仲直りしてきてね。






 夕方、エラを迎えに行くと予想通り王家の紋章を隠した豪奢な馬車がやって来た。

 あー良かった。仲直りできたら送ってくれると思ってたんだよね。ふふふ。


 私の前に止まる馬車。馭者係のリオさんと目が合うとお互いに苦笑し、リオさんはそのまま馬車のドアを開ける。

 ニッコニコとしたユーイン王子が笑顔のエラをエスコート。

 おお、仲直りできた。

 明日はあみぐるみの会だね。ふふ。


「た、す、けて」


 後ろから聞こえた微かな声に振り返る。

 最終の馬車時間なので人通りはそこそこだ。向こうの商店街も閉店の準備をしながらもまだ賑やか。


「お姉様……?」


 すぐそばまで来たエラを手で制す。ちょっと待って。


 建物の隙間に動くものがあった。犬や猫より大きいそれに駆け寄る。嗅いだ事がある、ひどい匂い。

 試食パンをもらいに来ていた子がうずくまっていた。


 2メートルくらい手前で止まり、スカートの裾を大きく破いて自分の口を覆い後頭部で結ぶ。後ろからエラの悲鳴が聞こえたけど、まだこっちに来ないでね。


 子どもの服代わりのボロ布を捲って体を確認。

 わ、女の子だった。ごめんね、少し触るよ。

 ガリガリの体に発疹無し、斑点無し。体中を触ってみても痛がらない。骨折無し。すえた匂いが嘔吐のせいかはわからない。吐血は無し。下痢は、どうだろう。

 触れた感じ、熱はない。


「リオさーん!最近伝染病の噂とかありますー?」


「いいや、聞いてない」


 子どもの体をあちこち観察しながらの質問にすぐ近くから答えが返る。


「リオさん近い!エラと王子のそばにいて!」


 慌てて子どもの服を戻す。


「その王子から君を手伝うように言われたの。いつもは離れている護衛が俺の代わりにそばにいるよ」


 ハンカチかスカーフで鼻から下を覆ったリオさんが隣にしゃがむ。


「リオさんに移ったら困るって話です。もう。簡単に手伝えって言わせないようにしてください」


「検討するよ。で?ゾーイさんの見立ては?」


「素人判断ですが、たぶん衰弱です。熱はなくお腹を押しても痛がらないですし、便が漏れているかはわかりませんが内臓はとりあえず無事とします。発疹や斑点がないので病気ではない、呼吸も浅いですが安定していると判断しました。血も出てなさそうです」


「……詳しいね?」


「リオさんには他に可能性のある事はありませんか?」


 王子の側付きの方が症状についての情報が多いはず。


「俺の知ってる中にはないね」


 それとも市井には教えられないか。

 ちょっと穿ってしまったけど、それはそれで仕方ないと無理矢理納得する。ヤバイ病気だったらそれなりに促してはくれるだろう。


「そうですか……。すみませんが荷馬車を都合してください。連れて帰ります」


「え、まずは医者じゃないの?」


 まあ、普通はね。


「浮浪者を診てくれるお医者はいませんよ」


 苦笑しながら言うと、リオさんが息をのんだ。

 やっぱりそこそこのお家で育ったんだなぁ。まあ私らもそうではあるけれど。

 こういう時貧乏って厳しい。診察代が払えない。

 それに、診療所に行ってもこの世界に栄養剤的なものがあると思えない。


 肉屋前の試食で食べ物を手渡しても、この子はいつもゴクリと喉を鳴らすばかりで食べずに持ち帰っていた。

 この子には誰かがいる。家族か仲間か、拠り所になる人物が。その誰かのために毎回列に並んでいた。自分の分がなくならないようにと必死になって。


 上半身を抱き上げるとやっぱり軽かった。子どもってこんなに軽いんだっけ?

 前髪を撫でて顔を出すとうっすらと目を開けた。


「頑張ったね」


 私の事わかるかな? 子どもの口が微かに動く。


「いも、おと、……お……お、いて、きちゃ、た、……あ、っち、」


『妹』だと理解したと同時に隣にいたリオさんが建物の隙間を駆け抜けて行った。









内容については、ゆるく、ゆる~く読んでください(。-人-。)




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