くっ、当たりです!
「先日は弟が失礼した」
針仕事中、珍しく玄関をノックされたのであの執事さんがお義父様の情報を持って来てくれたのかと慌てて扉を開けたら、騎士さんが立っていた。騎士といっても街の見回り担当は平社員のようなもので、貴族籍をお持ちならばお城務めになる。らしい。
市場でもよく見回りの騎士さんを見かけるので、玄関扉を開けた先に立っていた人物を騎士だと着ている服で判断したのだが。
いくら借金があるといっても騎士がやって来るような案件は今現在うちにはない。
そして騎士といってもピンからキリまでいるのも常識である。
女だけの家にどんな難癖を付けに来たのかと、我ながら低い声でご用を聞いてみたら明後日の方向からの謝罪。
は?弟?しつれ…………はああっ!?
茶髪の騎士さんの顔をよく見たら眉毛が金色。てことはその茶髪ヅラじゃん。長い前髪でわからなかったけどよくよく見れば美形だ。もう眩しい!やだもう!
「……お間違えになられていらっしゃるかと……」
「ここは現在休業中のタスタット商会で、あなたはゾーイ殿とお見受けするが?」
くっ、当たりです!
「……左様でございます。えー、お名前を伺ってもよろしいでしょうか……」
聞きたくない!
聞きたくないけど!
もう聞くしかない……やだもう……
「セルジオス・サンディル・イングリアスだ」
変装してるのに本名を名乗るなよ王太子!?
天然か!?
優秀どこ行った!?
「うわ!なんで素直に名乗ってんすか!?」
心の叫びが漏れたかと自分で口を押さえたら、王太子の後ろからリオさんが騎士姿で現れた。リオさん!
でもリオさんが一緒で安心してしまった私は色々混乱したまま二人を家に連れ込んでしまった。家の周りに人がいないのを確認して。
「いや、女性の名を聞いてしまったなら名乗らなければ失礼だろう」
「そういうのは時と場合ですよ。今は変装中でしょうが。そして王太子の名を名乗るなんて、王太子以外がやったら不敬罪で捕まりますからね」
「私が私の名を名乗って問題がどこに?」
「……変装中に余計な事をするなって事です……」
いまいち不納得な天然王太子からこちらに振り返ったリオさんは、流れるような動作で床に膝をつき手をついた。なんとなめらかな土下座。
「混乱させて申し訳ない!」
「うん、ちょっと、お茶を淹れてもらっていいですか」
「ヨロコンデーッ!」
リオさんがキッチンに駆け込んだので、王太子を休憩用の席まで誘導。その間に王太子は戸惑うお母様とソフィアにヅラを取ってキラキラ金髪を曝し自己紹介。二人ともよく気絶しなかったね、すごい!
「突然の訪問の上に、仕事中に済まない」
謝罪より
こっちに余裕をくれよ
王太子
……字余り!
「とんでもございません。こちらこそ失礼いたしました。本日はどのようなご用件でいらしたのでしょうか」
家長代理のお母様が応対。王太子相手になんとか奮い立たせてこれ以上の失態がないようにとド緊張の私たち。
「弟のユーインがこちらに出入り禁止を言い渡されたとひどく落ち込んでしまってね。あまりの様子に老婆心を出して来てみたんだ」
筒抜けかよ!?
いやいいけども!!
弟王子への扱いに真剣に命の心配をしながらも、お兄ちゃんたちとそんな会話をしていたなんてと少しほっこりする。そりゃ手作りクッキーを兄王子たちも食べたなんて聞いたらショック以外の何もないが、交流の糸口になったのなら嬉しい。
……まあ、よりによってと思う方が大きいですが。




