「なんか怖い……」
「なんか怖い……」
真新しいのも手伝ってか、ロールパンの売れ行きは上々のようで、ここ何週間かは週毎にパン屋さんから我が家にロールパンの売上金の一部が納められている。
確かに収入になればいいとは思ったけれど、思ったように事が進んでも逆に不安になるのは何故だろう。もちろん莫大な金額ではなく微々たるものではあるのだけど。
「喜ばしい事では?」
週末になるとやってくるユーイン王子はすっかり馴染んだのか、お茶休憩を私たちと一緒に取るようになった。洒落たお茶菓子など出せないが手作りお茶菓子を出せるだけの収入ができ、安く大量に作るとなるとやっぱりクッキーよね。
荒熱の取れた焼きたてクッキーは口に入れるとほろほろとなるのでユーイン王子のお気に入りだ。
「そうなのですが、私たちは色々と失敗して来ましたので、逆に不安になってしまうのです」
「ふうん?」
ユーイン王子の方でも我が家の事情は調べているだろうけど、改めて打ち明けた。長くいると話題に事欠くし。まあ、反面教師にしてください。エラの玉の輿は内緒です。
「ユーイン様とこうして交流ができているのも喜ばしい事でありますが、実はまだ緊張もしています」
お母様、ソフィア、エラが少し慌てるが、王子とリオさんは苦笑。
「ふふ、緊張してるようには見えないが?」
「ユーイン様もリオさんも私たちの無礼を受け止めてくださるおおらかさを見せてくださいましたが、やはりそれはそれ、です」
「……迷惑?」
空気が緊張した中、上目遣いをする王子。あざとい技を覚えたなぁ……
「……無礼を承知で申し上げるならば」
しれっと返すとリオさんがふいた。そして王子も。
「ふふ!リオ以外にこんな冗談を言い合える人たちと出会えるなんて僕は幸運だよ。大丈夫、この格好をしている間は無礼講だからね。しかしゾーイ殿には上目遣いが効かないなぁ、侍女たちはイチコロなのに」
「イチコロ……なんて言葉を王子に教えてるんですかリオさん」
「いや、下町に来るならこれくらいは知っておいて損はないと」
「ユーイン様、下町だろうときちんと相手を見て言葉を選んでくださいね。そして私にとってソフィアとエラを越える可愛さは今のところありません!」
「「 お姉様!? 」」
「いいなぁ二人は、ゾーイ殿に可愛がってもらえて。僕も兄上たちに構ってもらいたい……」
「ユーイン様もお兄様方も王子ですから。お忙しいのは仕方ありませんわ」
「それも分かってはいるんだけどね。ああ、兄上たちもゾーイ殿のクッキーが素朴だけど美味しいと言っていたよ」
ブフーーッ!!!
「「 きゃあ!?お姉様!? 」」
「差し入れとして兄上たちのところにお邪魔したんだ。二人ともあっという間に食べきっていたよ。今日もお土産に包んでね」
吹いたお茶を慌てて片付けてくれるソフィアとエラに声も掛けられずにユーイン王子をガン見。リオさんはその横で苦笑い。
「王室御用達とかどう?」
ユーイン王子の冗談だと分かってはいるが、リオさんが笑ってるって事はどこからが冗談!?
「あ、本当に兄上たちは楽しみにしてるから、クッキーはいくら焼いてくれてもいいよ」
気絶した私は悪くない。
だからエラに出禁を喰らった末王子なんか知らん!




