「きゃああああっ!! お姉様ーっ!!」
「きゃああああっ!! お姉様ーっ!!」
シンデレラの悲鳴を他人事のように聞きながらスローモーションな世界に浸る私。この角度だと家ってこんな風に見えるのね、なんてのん気に考えた瞬間に大量の映像が目の前を流れた。
その大量の情報を浴びるように受けても不思議と混乱はなかった。
今の世界と全く違うけど、日本人だった時の自分の記憶だし。懐かしいと思ってしまえば、あっさりと受け入れ完了。
そしておののく現状。
はあ!? あの『シンデレラ』の『意地悪な姉』なの!?
物語!?
時系列どうなってんの!?
生まれ変わりって未来にじゃないの!?
物語ってなんで!?
私そんなに前世で罪深い事した!?
普通な人生だったと思うけど!?
結婚はしてなかったけど……彼氏もいなかったけど! 仕事は充実してたし、友達と海外旅行にも行ったし。兄のとこの甥も姪も可愛いがったし、嫁ちゃんとだって仲良かったし。親孝行は足りなかったかもだけど、誕生日とかイベントはいつもお祝いしたよ!
まあ……親より先に死んでしまったのが罪と言われれば反論はない。診断された時には末期だったし。
立つ鳥後を濁さず……には近い事ができたと思ってたけどな……
……なんで『シンデレラの姉』……今回も私には王子は現れないって事かい?
……ん? シンデレラが王子様と結ばれて結婚した後に姉はどうなるんだっけ?
確か……ガラスの靴を履くために踵を切り落として?
あれ?爪先だっけ?
あと、鳩に目をくり貫かれるんだっけ?
あ、それは結婚する前か。
…………どっちにしろ処刑されるより辛い!!!!
自分で足を切るって!
そこまでかよ玉の輿!!
嫌だ!無理!
身の丈に合った人生がいい!
だって庶民だもん!
あ、今は貴族だった。いや!商人だった!ん?あれ?どっち!?
何でもいいけど身の丈に合った生活があるはずよ!
そうしよう!
今からでも!
生きてたらーーっ!!!!
ぼふん
「お姉様!! お、おおねええさささまま……!? ど、どど、どうしたら……お医者を? その前にベッドへ? あ、意識確認を?」
「……落ち着いて……」
趣味の悪い、生地をたくさん使った成金ドレスがクッションになったおかげで衝撃が軽く、意外とどこも痛くない。グッジョブ成金。けど、それはそれでめっちゃ恥ずかしい。
……いい大人が階段を踏み外して転がり落ちるって……あ、今は16歳だっけ……
でも心臓はドクドクと鳴っている。そりゃそうだ。意識はスローモーションだったけど二階から落ちたのは恐かった。
とりあえず、落ちた格好のまま息を整える。
荒い息のまま、シンデレラを見上げる。
私を覗き込む目からは涙がこぼれそうになっていて、床についた両腕は震えている。「おねえさま、おねえさま」と小さく呟く口。
……ああ。顔色がくすんでいても美人だわー。眼福眼福。
じゃなくて。
「大丈夫……ドレスのおかげでどこも痛くないわ……びっくりしたけど……」
「ちょっと!あなたの掃除がなってないからお姉さまが落ちちゃったでしょ!」
シンデレラに微笑もうとしたら、おやつ中だった実の妹がキッチンの方からドタドタとやって来た。
マテ妹。シンデレラは掃除用具を放り出して私に駆け寄ってくれたけど、お前はおやつ片手に文句かい。つーか問題はそこじゃないよ?
「きゃあ!せっかくのドレスにシワが! シンデレラ!ドレスを綺麗にしなさいよ!」
どこの部屋にいたのやら、駆けつけたお母様のキンキン声も響く。
マテお母様。まずはドレスの心配てオイ!? 娘が階段落ちしたんですけど!?
「はい! すみませんでした、お姉様、お母様」
ああ、シンデレラ。これは貴女の謝る事ではない。