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……あぁ……そうか

挿絵(By みてみん)

相内 充希さま作成♡


 思っていたよりユーイン王子は不器用だった。


 ソフィアとエラがコツを掴んで着々と編み目を増やし形作って行くのを横目に、ユーイン王子はいちいちほどく。もう糸がぼろぼろだ。


「ユーイン様、糸をお取り替えしましょう」


 見かねたソフィアがお伺いをたてた。しかし、ユーイン王子はそのままでいいと言う。


「いくら初めての事だろうと、これぐらいの事が出来なければ……」


 ……あぁ……そうか。


 そっと、作業中のユーイン王子の手を両手で握る。

 ビクリとする王子は、その大きな目で私を見上げた。


「ユーイン様、これは、趣味、ですわ」


 言い含めるように区切る。私の口調はすぐにきつくなってしまうので、穏やかになるように気をつける。


「……しゅみ……?」


「ええ。趣味、ですわ。不恰好に仕上がっても、誰も、困りません」


 ぽかんとしたままの王子。その表情が普通の少年のようで微笑ましくなる。


「誰も、困りません。自分が少し恥ずかしいだけです」


 見本よりはるかに不恰好に出来上がれば少し恥ずかしいどころではないけれど。


「ですが、その恥ずかしい気持ちは大事なものです。……いいですか? それは、恥、ではありません、恥ずかしい、だけの事です」


 王子の青い目がほんの少し揺らめいた。


「我が家には今、私たちを含めても、ユーイン様とリオ様しかいらっしゃいません。ユーイン様の不恰好な編みぐるみが国家機密になるものだとは誰も思っておりませんし、最初に立派なものが仕上がっては、誰に教えを請う必要もありません」


 不器用だと思ってごめん。


「ユーイン様、ここは王城でも学園でもありません。ここで失敗しても、何の問題もありません。そんな事でユーイン様の今まで積み上げてきた何も崩れたりはしません。問題なのは、失敗を恐れ過ぎて道筋を見失う事です」


「……道、筋……?」


「はい。趣味は、自分が一番に楽しまなくてはもったいないですわ」


 だからこその趣味だ。大げさなものでなくていい。命を掛けて、のちに黒歴史と呼ぶくらいに熱中してもいい。


「今は私が作ったものを見本としていますが、もっと上手な方が作られたら私のはゴミにしか見えませんわ」


「そんな事はない! ゾーイ殿の猫はとても可愛らしいぞ!」


「ふふっ、ありがとうございます。ね?誰もがゴミの様だと言ったとしても、ユーイン様はこの猫を可愛らしいと仰ってくださいます。作った私にしてみれば、ちょっと目の位置が気になりますが」


 王子の目が丸くなった。


「趣味のものは、そういうものでいいのです。売り物にする、技術の必要なものはそれこそ何度も何度も挑戦すればいいのです。私も次に作る時は目の位置を直しますわ。趣味のものはそうやってひとつずつ、ゆっくりと成果を実感なさっていいのです」


 ユーイン王子は目をそらし、少し俯く。

 まだ私の手は払われない。優しい王子様。


「……しかし……兄上たちは、何事も、完璧で……僕も、兄上たちのようになりたい……でも、思うように成績は伸びず、教師たちも、兄上の方がと……」


「あらまあ、兄王子様方は悪い見本ですわね」


 がばりと顔を上げたユーイン王子の顔は驚きでいっぱいだった。そりゃそうだ。兄王子に対しての悪口を目の前で聞くなんて初めてだろう。


「でも兄王子様方の気持ちもわかりますわ。こんなに可愛らしい弟に失敗している姿なんて見せたくありませんもの」


 私だって長女だからね。


「私も、ソフィアとエラにはなるべく無様な姿を見せたくありませんわ」


 二人を振り返るとお母様まで苦笑していた。


「私、お姉様が急に走り出す事に慣れてしまいましたわ」


 毎日なんだかんだとソフィアと一緒にいるから、いつも失敗を見られている事実。てか、慣れるほどに見せてしまったのか……それはマジ反省……


「お、お姉様のお料理は美味しいのですけど、作ってる間に必ず少しだけ材料をこぼしてます……」


 ……やだもう恥ずかしい……!! エラには色々やらかしてただけに、エラに言われるとダメージが大きい。あー!恥ずかしい!


「……ゾーイ殿、も……失敗……するのか……」


 おずおずと聞いてくれる優しいユーイン王子は、年齢よりも幼く見える。


「お聞きになられたそのままですわ、お恥ずかしい。でもそれを見て、ソフィアもエラも自分の時に気をつけてくれればいいのです。もちろん、妹たちに恥ずかしい思いをさせないように誰かの目がある時には特に気をつけていますわ」


 王子の目をしっかり見つめる。握った手に少しだけ力を入れる。


「妹たちには良いところを見せたいので!」


 ほんと、こんなお姉ちゃんでごめんね。


 でも本当に大事なの。


 ユーイン王子もそう思われているよ。


 それは予想でしかないので声には出さない。

 王族は貴族とは違う考えかもしれないけど、チートな人間なんてそうそういない。常に最高であると見せつけるために、影では血の滲む努力をするのだ。トップに立つ者は特に。


 それに気付かず、末っ子が一人で落ち込んでるなんて寂しいじゃない。

 私たちのところが、編みぐるみを作る事が、逃避ではなく、気晴らしになればいい。


 ……あ~あ……面倒って思ってたのになぁ……子供が落ち込んでるんじゃ、しょうがないよなぁ……








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