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さて、どうしたものか

挿絵(By みてみん)

相内 充希さま作成♡


「お姉様にいただいた物なので差し上げるわけにはまいりませんとお断りしたのですが、どうしてもと押し切ら、いえ、仰られて……」


 エラ言ってる言っちゃってる。


「タスタット嬢、私の方が後輩なのだから丁寧に話さなくともよいと伝えたが?」


「でも私は休学明けですので、先輩と呼ばれる事の方が(おそ)れおおいです」


 とりあえず。

 馬車乗り場であーだこーだするならと、我が家にお越しいただいた。夜だし。

 お母様もソフィアも大慌て。大急ぎで手芸道具を片そうとしたところをユーイン王子が止めた。そして作業途中の物をしげしげと見る。


 その間に何があったとエラに聞いたら、とにかく作り主に会わせろと押し切られたと言う。まあ、王子の要求をはねのけるのも問題なので仕方なし。


「刺繍も素晴らしい! 今度タスタット商会に注文してもいいだろうか?」


 ぎゃあああ!それはめっちゃ困る!!

 これにはお母様も顔色が青くなった。

 なぜなら王家には専属のデザイナー業者がいるからだ。もちろん一企業だけではないのでライバル争いが苛烈である。王家御用達のプレッシャーなんて計り知れない。


 それを第三とはいえ王子から直接注文とか、弱小商会どころか現在素人一家である我がタスタット家には荷が重すぎる。


 思わず王子に付いて家にも入って来た馭者(ぎょしゃ)兼護衛さんに目で訴えてしまった。助けて!

 その思いを受け止めてくれたのだろう馭者さんは動いてくれた。


「ユーイン様。注文はさすがに王妃様にお伺いをたててみませんと。それに、今日こちらにお伺いしたのは小物つくりの教えを請うためでしょう?」


 思ったより気さくな感じの馭者さんに内心驚きつつ、手に汗握る。まだ助かっていない!


「そうだったな。自分で作ってみたいので教えてください!」


 めっちゃ下からお願いされたーっ!? やだもーっ!?


「時間はこちらが合わせる。王子でも三番目だからな、大した勉強はないから時間はあるんだ!」


 コメント返しにめっちゃ困るわーっ!?

 興味全開のキラキラオーラにも困るーっ!?


「あと、全ての材料費はこちらで持つ」


 なんと魅力的な!

 さすが王子!太っ腹!

 税金ですけどね!


 王子圧に耐えかねて、お母様たちの方へ後ずさる。

 やっぱり連れて来なきゃ良かった……あ。


「お茶も出さずに申し訳ありません。ただいまお持ちいたします」


 お母様からは行けと視線で指示があったので、ソフィアを連れてキッチンへ向かう。


「お姉様、お湯は先ほど沸かしたものがありますが、それを使ってもいいでしょうか……?」


「助かった! ありがとうソフィア! 王子様に出せるような茶葉ではないけど、形だけでもおもてなししないと」


 こんな家から出されたお茶など王族が口をつけるとは思えない。だけどもてなさない理由はもっと無い。何様?となってしまう。


 ソフィアとトレイに茶器を乗せ、まだ熱めのお湯をポットに移す。

 ふと見れば、馭者さんがキッチンの出入口からこちらを見ていた。

 何も!してませんからね!

 我が家は毒を買う余裕も無いですから!洗剤すら無いから!


 どうにも内心ビクビクしながらトレイを持って移動する。作業台に置いて、蒸らしの時間の間にカップを温める。


 さて、どうしたものか。

 材料費を提供されたところでユーイン王子の趣味だから我が家の収入にはならない。

 肉屋での試食係は冷蔵庫を借りる為にやっているし、上手くいけば他の店からもタダで食材が手に入る。これは我が家に益があり、パンを焼く火加減を覚える間の収入減の補助になっている。かけはぎもコンスタントに依頼があるらしく、職業斡旋所に行くと残念がられる。ありがたい。


 ……ソフィアにも作り方をまだ教えていないのに、先に王子に教えるのが微妙。


 お茶をカップに注ぎ、王子と馭者さんの方へ差し出す。

 さてどうしよう。断りたい。


「いい香りですね、いただきます」


 は?と顔を上げたら馭者さんがグビッと飲んでた。 はあっ!?


「あー、やっぱり俺はこういう茶の方がいいですわー。ユーイン様、俺、王子付きを外してもらえません?」


「本当に失礼だな、それこそ父上に言え」


「毒はともかく、高級茶葉の産地を当てられる護衛の方がいいんじゃないですか?」


「やめろ。城や学園の外でまで茶葉の話をしたくない……」


 今、さらっと毒って言いました?


「まあ、やっぱり茶は温かい方が美味しいって話ですよ。ユーイン様もいただいたらどうですか」


 馭者さんが飲み干したカップに新しいお茶を注ぎ、それをユーイン王子に手渡した。

 マジか自由過ぎない!?


「ちょっ!? 毒は入ってませんけど王子様にお出しするような茶葉でもないですよ!?」


「わかっていますよ。俺が美味しいと思ったんだから大衆茶葉でしょう? でもね」


 馭者さんは実に爽やかな笑顔を見せてくれた。


「こんなに香り高く出された事はないです。それだけで俺は()()()()()()と思いましたよ」


 やられた!!

 この人やっぱり王子付きだ!

 ソフィアが感動してる!

 なんならエラまでさっきの微仏頂面が緩和されてる!

 お母様!助け……首を横に振らないで~!


「確かにいい香りだ」


 あざす王子!でも飲まなくて良いんですよーっ!

 ってああっ!飲んだーっ!?


「……最近飲まされた馬鹿高いらしい茶より、こちらの方が美味しいじゃないか……母上の舌もあてにならないな……」


 ひぃぃぃ!? 何も聞いていませんよーっ!!


 お母様!どうしよう!ポロポロ恐い事ばっかり聞こえる!

 ソフィア!エラ!私が褒められたわけじゃないから!

 馭者さんの手のひらの上なだけなのよーっ!!




 そうして。

 ユーイン王子は週末のみ、我が家に通う事が決まったのだった。


 まあ……断れないのは分かっていたけどさ……







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