うちの妹たちは可愛いのぅ……
「明日からは私の猫を持って行きなさい。ただしエラの猫が見つかったら返しなさいね」
食事中も涙が止まらないエラに、とうとうソフィアが自分の白猫を差し出した。当然遠慮するエラ。また無くしたら目も当てられないとなかなか首を縦に振らない。
「こ、こういうのは! 仲間がいた方が見つかりやすいのよ! 私の猫に向かってエラの猫がやってくるの!」
ぶふっ!
あー、ソフィア可愛い~!
食べ終わってて良かった。吹き出すところだったわー。ちらりと見ればすまし顔のお母様の肩が揺れている。
エラはそれを信じたのか、目がキラキラとなっていた。
「ありがとうございます! ソフィアお姉様!」
おおぅ、マジか……
うちの妹たちは可愛いのぅ……
とにかくお昼の補習で猫を見たのが最後だという。放課後補習が終わってからそれに気づき、馬車の時間もあって探せなかったらしい。
「お昼は先生方のお部屋で補習を受けましたので、明日聞いてみます」
「新しいのを作ろうか?」
「いえ。ちゃんと探します。ソフィアお姉様の猫に釣られて見つかるかもしれませんし」
すっきりとしたエラは残りのパンケーキを平らげた。
そして翌日。玄関までソフィアに見送られたエラは、意気揚々と「絶対見つけます!」と学園に行った。
いや、勉強優先でいいんだよ?
そして今日もパン屋で火加減を勉強し、肉屋で昨日仕込んだ鶏肉を蒸し焼きにして鶏肉を売り切った。茹でた葉もの野菜を付け合わせにすると良いですよと宣伝したものだから、八百屋からあまり野菜をもらえたのだった。よし!ビタミンゲット!
今日は肉屋の奥さんの分を確保した。よし!おかず提供!
そしてエラは、昨日と同じ時間になぜか豪奢な馬車に乗って帰って来た。
はあ!?
私が呆然としている間、エラが馬車を降りるのにエスコートしたのは学園の制服姿のキラキラしい男子。誰!?
とにかくエラを確保しなければ、馬車のお礼もしないとと二人に近づく。
「ここまで送ってくださって、ありがとうございました。ユーイン様、こちらは姉のゾーイです。お姉様、こちら……後輩のユーイン様、です……」
エラの紹介に合わせ淑女の礼をする。そして彼を紹介してくれた、のだが。
……ユーイン……うん、聞いた事あるなぁその名前……最近……ソフィアから……後輩なのに、様付けなのね……
ということは、この馬車に控えめについている紋章はやっぱり王家のもの。馭者もよく見れば体格がいいし、きっと見えない所に護衛がどっさりいるんだろう。お約束よね。
私とエラの間ではとても微妙な空気が流れたのだが、第三王子はものともせずにキラキラしている。
「ユーイン・サンディル・イングリアスだ。夜分に突然の訪問申し訳ない」
サンディル・イングリアスは、『イングリアス国の正統な後継者』という意味になる。まあ正統な後継者と言っても国王の子供という意味合いの方が強く、長男である王太子が国王になればサンディルは無くなり、新しい爵位を名乗る事になる。
マジもんの王子だよ!?
もうエラを見初めたの!?
エラが全然乗り気じゃなさそう!
夜分て日没直後ですけど、申し訳ないって言っただけでちょっとだけ好感度は上がったけど、王子からの求婚早くない!?
一人内心大混乱に陥った私の前で、ユーイン王子はポケットから何かを取り出した。
「こちらを作られたのが貴女だと伺ったので」
王子の手に乗っていたのは、エラの茶猫。思わずエラを見れば困った顔。
もしや。
いやいやまさかまさか。
幼稚園児くらいのチビッコならともかく、14歳の少年が欲しいなんて言わないよね?
つーか、コレをダシにエラに近づいたの?
ソフィアが言ってた事以上に大変なものが釣れちゃったよ……
……まあ王子だし、エラの為に望んだ事とはいえこちらが断れるわけも無い……でもなぁ……
「作り方を教えてもらいたい!」
まさかの作り方だったーっ!!




