そこはかとなく容赦ない気がする
女4人のぎこちない夕食の時間はもちろん学園の話になった。
エラはやっぱり遠巻きにされたようだったけど、誰かにいちゃもんを付けられる事もなく、足を引っかけられる事もなく、お茶を引っかけられる事もなく過ごしたらしい。
案の定勉強はほとんど分からず、放課後補習の申し込みをしたいとエラから相談された。
補習の時間の分、帰宅が遅れると夕食も遅くなる。エラはそこが気になるらしい。
「学園に通うのなら卒業するのが目標です。それに必要な事ならおやりなさい」
とお母様の決断は早かった。まだ口調が固いけど、エラを考えてくれている。
「そ、それに、仕事は夕食までと決めたから、夕食の時間が遅くなればそれまで長く作業できるし、私たちはたくさん仕事ができるから、わ、悪くないわ」
ソフィアまでがそんな事をツンツン言う。
エラを見れば涙目で顔が赤くなっている。
「あ、ありがとう、ございます、お母様、お姉様……」
なんだか皆でもじもじしていたら、お母様がふと顔を上げた。
「帰宅が遅くなるなら護身術を教えるわ。3人とも年頃ですから、覚えなさいね」
え。お母様が? 護身術?
「うっかりしていたわ……ひとりで出歩く事が増えるならもっと早くに教えておくべきだったわね」
早朝と夜、針仕事のしにくい時間に護身術講習が行われる事になった。
今夜はさわりを教えてくれると言うので、手芸道具はざっくりと片付ける。
ピシリと立ち、私たちを見据えるお母様。
「これらを覚えておけば冷静になる時間を稼げます。不意を突いて来る相手に容赦などいりませんが、倒す必要はありません。自分の無事のみを優先なさい」
そこはかとなく容赦ない気がする。意外だったわお母様……
素手での対応を一通り教わると、これからこの動作は毎日繰り返すと言われた。
「これが体に馴染んだら、次は武器を持ってやりましょうね」
武器!? 護身術ですよねお母様!?
馬車に乗るエラも心配だが、お母様に言わせれば馬車乗り場の送り迎えや市場に行く私の事も心配だと言う。あまりそこまで深く考えていなかったが、貴族に限らず平民女性を拐う事件は無くはない。
つい前世の気分でいたけれど、実はそこまで治安は良くない。空き巣も強盗も日常的にある。
今住んでいる地区はこ金持ちが多いので警備もそこそこついているから被害が少ないだけ。
市場での盗みは日常である。だから物が残った状態の夕方にいつも行くのだ。その時間には良い品物も少ないがスリも少ない。
美しくない見た目だろうと安心はできない世界。
だからこそエラは守らなければ。
だってたぶんお義父様の方が恐そうだし!




