「あらやだ、金髪だったとしか覚えていないわ」
とりあえず、一般常識としてこの世界に魔法はない。
貴族だった時もお抱え魔法使いの話を聞いた事もない。
おまじないはあるけど、魔法は聞いた事がない。
……んん?
『シンデレラ』の物語でも魔法使いは……魔女だっけ?妖精だっけ?
とにかくメルヘンな何かが舞踏会に行けないでいるシンデレラにご褒美として色々とプレゼントしてくれたんだよね……?
……あれ。もしかして、私らが虐めていないとエラの前に魔法使いは現れない?
あれ、これ、まずいのでは?
…………ていうか、王子って……どんな人??
「え?この国の王子? 王太子であられる〇〇様、第二王子の◇◇様、第三王子の◆◆様よ。いやねゾーイ、あんなにお嫁さんになりたいと騒いでいたのに忘れてしまったの?」
刺繍をしながらふふふと笑うお母様はちらりとこちらを見ても手は止まらない。さすが。
「私は第二王子の◇◇様が一番素敵だけど、お姉様は王太子様が一番素敵と言っていたわよ?」
ソフィアは手を止めて不思議そうに私を見てる。そう言われれば王太子の顔が浮かぶ。金髪だけ。
「あらやだ、金髪だったとしか覚えていないわ」
二人から驚かれた。確かに自分でもびっくり。
NO!玉の輿!となったら王子たちの顔まで忘れるとは……
まあね、歳を取るにつれアイドルの見分けができなくなったけど、そんなものよ。今はまだ16歳だけど。
王太子は現在20歳。第二王子が18歳で、第三王子は14歳。とソフィアがそれぞれの容姿についても力説。第三王子はエラより下か……うーん、ガラスの靴に合う娘を探すなんてめっちゃ我が儘、末っ子が一番やりそうだな。でもエラの好みはどうなんだろう?
あ。
「婚約者はいらっしゃるのかしら?」
「今は分からないけれど、噂ではまだ誰も決まっていなかったわ。だから王子たちが出席される夜会にはあなたたちを連れて行っていたのに。覚えていないなんて、ふふっ」
最初からゾーイには縁がなかったのかしらだって。今となっては王子と縁なんて無くて万々歳。
……ていうか、一目惚れをした娘を探すためにそんな一大事にするような王子って……大丈夫……?
学園は13歳から18歳までの貴族子女が通うので、第二王子と第三王子にはもしかしたら学園で会える事があるかもしれない。知り合う事がなくても噂ならエラも聞くだろう。ちょっとそこら辺も聞いておかないとな……
「こんな事になってごめんなさいね。私がもっとしっかりしていればゾーイもソフィアもまだ学園に通えていたのに……」
わあ!お母様が落ち込んだ! それでも手は動いている!さすが!
「いいえお母様。私はお馬鹿だったし、お友達もいなかったし、私の方がお家のために何もできなくて申し訳ありませんでした」
これは本当に。正直に言った事はなかったけど、口に出してみるとなかなか居たたまれない。作業の手も止まる。
「私も……お姉様と同じです……」
ソフィアはすっかりと手が止まってしまい、背中も丸まってしまった。
「もっと美しくなりたくて、でもなれなくて、イライラして、食べてばかりで、どんどん太って……」
まさに負のスパイラル。分かるよソフィア。皆から見下されている気がして私もずっとイライラしてた。
席を離れ、ソフィアをそっと抱きしめる。……くっ……このぽよんとした感触!最高なのに!
でも本人は嫌なのだ。そのままでいて欲しいなんて言えない。
「大丈夫よソフィア。もうおやつなんてないから、これからは痩せるしかないわ」
「ふふ、そうね。皆で今より痩せたらドレスをほどいて新しくワンピースを作るわ」
おどけて言うと、お母様がそんな事を提案してくれた。あの売るにしても大して金にならない成金ドレスをどうしようと思っていたから助かった! てか、服も作れるの!? お母様すごい!
「……エラも、お揃いで」
……お母様……!!
王子の名前が決まってないので、〇〇、◇◇、◆◆になってます。
顔も忘れたし、いいかな、なんて(笑)
いずれ名前は出ます。




