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 長く緩やかな坂を下り商店街が近づいても、まだついてくる。

 何なんだよと思い、一瞬だけ目線を向けた。


 きょろきょろと辺りを見まわしているところから考えると、やはり彼女には土地勘のない場所のようだ。

 不安がっているのか、その猫目がこちらに向きまたも視線が重なってしまった。


 目立つ格好と容姿のせいか、周囲の目がこちらに向いてきて――


「ねえあの子、テレビに映ってなかった?」

「まあ、ほんと。こんなところで何してるのかしら? カメラある? やっぱりかわいいわね」


 さすがに顔が知れ渡っているな。それにあの格好じゃな――

 このままじゃバイト先までついてくるのではと考えざるを得なくなり、嫌々ながらも足を止める。


「いいか、俺はこれからカフェのバイトだ。いま、お前の話を聞く時間はないんだ」

「……わかった。でも……」


 肩を竦め、改めて歩き始める。

 だが、諦めていないのかまだ一定の間隔をあけ、背後をついてくる始末。


 俺が歩くとだんだんと距離が開いていくが、そうはさせないという想いなのか彼女は小走りになり……


 止まるとはっとしてとどまる様子は、まるでだるまさんが転んだだ。


 今度は俺が小走りになるとまた距離が開くが、彼女の方は今度は肩で息をしながら走り出しついてくる。その姿は何とも健気だと思う。


「あら行人君。可愛い彼女連れてるわね。えっ……ええっ、その子、ま、ま、まさか、どう、どうしちゃったの!」

「きみ、ゆ、ゆ、有名人と知り合いだったの?」

「いや、この子は別に、知り合いでも彼女でもないから……」

「……」


 さっきよりも周りの目が気になる――


 この辺りは昔ながらお店をやっている人が多く、祖父とも仲がいいんだ。

 俺が管理人を引き継ぐことになった時も、あいさつに回っている。

 だから変な噂がたったら困る。


 にもかかわらず――


 一向に居なくなる気配がないので、もう一度立ち止まることにした。


「あのなあ、家はこの辺でもないだろ? 駅は向こう側だ」

「……はあ、はあ」


 運動不足なのか、膝に手を置き、西園涼華は呼吸を整えるのに必死で会話どころではなかった。

 

 だがその目はちゃんと話を聞いてもらいたい。そんな想いを抱いているかのように見えて――

 それは忘れるはずのない過去を思いださせるには十分な行動としぐさだった。


「と、とにかくもうついてこないでくれ」


 自分の口から意思を持って出た拒絶の言葉。

 なんだかそれがたまらなく嫌な気分になる。


「……わたし……どうしても」


 途中で口ごもってしまったのは息切れしているためと、どう交渉しようか決めあぐねてるのかもしれない。

 さらに迷惑だとわからせるように走り出し、車の通りの少ない横断歩道を渡る。


 自分の冷たい態度に心底驚きながらも、振り返ることはしなかった。

 これ以上関わり合いにはなりたくない。



 そんなことを考えた時――



 背後から車のクラクションと急ブレーキの音が鳴り響いた。



 咄嗟に振り返ってしまう……

 西園涼華は青ざめた顔でアスファルトに尻もちを着いていた。

 車はクラクションを鳴らし、急加速して走り去る。


「な、何やってんだ、ばっかやろう!?」

「っ!」


 彼女に一目散に駆けより、ほっとしながらも感情を整理できずに腹から大きな声を出してしまっていた。

 真っ白になった頭の中で、過去の記憶が重なりあう。


「怪我はないのか?」

「……え、えぇ」


 彼女の無事を確認して、強引に手を引き立ちあがらせる。

 突然の事でショックだったのか、呆然としているが受け答えは問題は無さそうだ。


 この子も同じだ。一生懸命で周りがすぐに見えなくなる……


 行き場のない怒りで自分をこれでもかと攻めるのは何度目だろう。

 小刻みに体が震えだしていたことに自分でも驚いてしまう。


「……俺はお前みたいに自分本位で周りが見えなくなる奴が苦手なんだ」


 今度こそ彼女が着いて来ないことを確認して、俺はバイト先へ向かった。 

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