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暗黒龍討伐②

 コトコト、コトコト。


 そんな訳で私達は冒険者ギルドの依頼を受けて、まずはダゴス山地の麓にある村へと向かった。そこでマスター専用の馬車、それと五人の冒険者達と合流する手筈になっている。


「あの、マスター……」


 私が不安そうに声を掛けると、まるでピクニックにでも行くかのように気持ちよさそうに鼻歌を奏でていたマスターが笑みを向ける。


「何でしょう、ノエル君」


 そのドナドナドナというリフレインが気になる……いや、今はそんな事を気にしている場合じゃなかった。


「相手は伝説級の暗黒龍、ヴァギスタブルガですよ。それを私達二人で大丈夫なんでしょうか……」


 世界の厄災、そう呼ばれる五体のドラゴン。この王国にもその内の一体、炎龍ボルカノロボス討伐の記録が、お伽噺として残っている。当時の王国騎士団を総動員して事にあたったらしい。

 それがいくら最強の魔法師といったって、たったの二人である。ちなみに契約ではお供の五人については暗黒龍とは闘わない事になっている。マスターがそうさせたのだ。


「おや、浮かない顔をしてると思ったら、そんな事を心配していたのですか。大丈夫ですよ、ノエル君。世界の厄災だのといっても所詮は魔物です。無敵でもなければ不死身でもない。これまでにいくつも討伐の記録があるでしょう? それにノエル君が気にやむ事ではありません。暗黒龍に挑むのは二人ではなく」


 ――――私一人です。


 その言葉は私に重くのし掛かった。マスターにとってはギルドの冒険者同様、私もお邪魔でしかないという事だ。ああ、私のバカ! 確かに相手と対峙してもいないうちから不安な顔を覗かせているようでは、戦力外と言われても仕方ないじゃないか。


「そうだ、まだノエル君に言った事はありませんでしたね」


 と、一層落ち込む私に、マスターが微笑む。


「私の名前、サゴマイザーというのはどういう意味か知っていますか?」


 はて? 名前に意味などあるのだろうか。そういえば以前にマスターに言われた事がある。私のノエルという名前は誕生を意味するらしいのだ。


「わかりません。何か特別な意味があるのですか?」


「いやね、特別という程の事はないのですが……ステゴサウルスの尻尾に生えた刺の事をサゴマイザーと言うのです」


 すて……? 何だって? いや、そんなドヤッみたいな顔をされても困る。


「その、すて……なんとかというのは何でしょう? 尻尾があるって事は生き物ですか?」


「ステゴサウルス。ああ、ノエル君はステゴサウルスを知らないのですね。まあ当然ですよね、これは私の説明不足でした」


 何故かちょっと照れたように笑うマスター。その横顔に、私も自然笑顔になる。


「ステゴサウルスというのは大昔、そう遥か昔に存在した竜の一種です」


 なるほど、そう言われても私は聞いた事がないが、これから相手をする暗黒龍ヴァギスタブルガのようなものか。その尻尾の刺、なるほど。


 ……で?


 しかしマスターの口からその続きが語られる事は無かった。馬車が目的の村に到着したのだ。いや、そもそもこの話に続きなど無かったのかも知れない。

 マスターの名前はよくわからない竜の刺、と。私はそれだけ覚えておく事にした。



「サゴマイザーの旦那、よく来てくれた。こちらは既に準備が出来ている。紹介しよう、俺が選抜した冒険者達だ」


 村に着いた私達を出迎えてくれたのは冒険者ギルドの長、ロンバルト氏だった。彼に促されて冒険者達が前に出る。


「サゴマイザー・栖川、どこかで聞いた名前だと思ったが、あんたがあの伝説の魔法師じゃったか。儂はあんたと同じ魔法師のアンリ・ユーマゾフ、宜しく頼むて」


「はん、俄には信じ難い。まあ、俺は俺の仕事をするだけだ」


「こら、バートル、失礼じゃないのさ。私は剣士のヴェロニカ、そんでこの失礼なのはガードのバートルさ。宜しく頼むわ、旦那」


「……何でもいい。早く行こう」


「もう、そう焦らないで下さいよ、フブキさん。ええと、僕は弓使いのミシェルです。宜しくお願いします、サゴマイザーさん」


 五人の冒険者が口々に言葉を発する。それを聞いたマスターが、にこりとスマイルを返した。


「ふむ、頼もしい面々じゃないですか。安心しましたよ、ロンバルト君」


「旦那、こいつらはそれぞれが地龍と対等に闘える程の実力を備えている。まあ、その分個性が強く扱い辛いところはあるが……」


「構いません。我を通すだけの実力の持ち主、という事でしょう。結構じゃないですか」


 そう言ってマスターはぐるり一堂を見渡す。


「皆さん、私が今回、暗黒龍の討伐依頼を受けましたサゴマイザー・栖川です。こちらがアシスタントのノエル君。我々の仕事はヴァギスタブルガの討伐ですから、皆さんにはそこまでの案内をお願いしますよ」


 そしてニコリと営業スマイル。私も並んで、営業スマイル、と。


「では今日はこの後、行軍の打ち合わせを行って解散としましょう。間も無く日が暮れてしまいますからね」


 そう、もうすぐ約束の日没。そうなると今日のお仕事はお仕舞い。うちのマスターはそうなるとテコでも動かない。既にロンバルト氏を通して村の宿を押さえているとも聞く。

 今から山に入れば明日の仕事も日の出から始めれるのだけど……まあ、仕方ないか。



 ロンバルト氏と食事を共にし、宿に帰った私は、今日会った冒険者達の様子を思い浮かべていた。


 ギルド長の人選だけあってバランスは申し分ない。盾役が一人に前衛、後衛が二人ずつ。そして皆、地龍と対等に渡り合える程のギルド特級戦力。


 その中でも……


「ノエル君、今回の君の仕事はダゴス山地、龍岩窟の調査です。おそらくその最深部が暗黒龍の棲家。しかしそこに辿り着くまでに多くの地龍と出くわす事になるでしょう。その地龍の発生源、これを調査して下さい。

 その為に、冒険者のサポートと地龍との戦闘を許可します。尤も、冒険者の中に一人、化け物と呼ぶべき戦力が混じっていたのでサポートの方は必要ないかも知れませんね、まあ、その辺りは君に任せます」


 私は食事中のマスターの言葉を思い出す。地上最強が化け物と呼ぶ冒険者、皆からフブキという名で呼ばれていた小さな女の子である。


「彼女がねぇ……でもマスターの言葉に間違いは無いしなぁ」


 そしてマスターはこうも言ったのである。強過ぎる存在は仲間をも危険にさらす、と。


 ともかく。


「私はマスターと連携をとりつつ、後衛と前衛の間で臨機応変に立ち回る、と」


 前衛の盾役バートルさん、それにアタッカーのヴェロニカさんとフブキさんが戦線を維持出来ている間は魔法で援護、反対に前線が危なくなったら私も前に出て戦う。よし、これでいこう!



 ……だが、実際の状況は、私の想像を遥かに超えていたのである。


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