7 帰還
結論からいえば、美少年は帰った。
「そう、だな。もう十分に体調は回復した。
これ以上の迷惑を、貴女にかけるわけにはいかない、か」
寂しそうな笑顔で、沈んだような声で、彼はそう言ったのだ。
あぁ、もぉーーーーっ。
そうやって、いちいち物分かりが良すぎるから、ついアレコレ世話を焼いちゃったんじゃないよぉーーっ。
ボぉーイ。君、幸せだって、生まれてきて良かったって、一度でもちゃんと思ったことあるか!?
世界が憎くないのかと泣いちゃうような子供に、元日本人の私がどうして冷たく出来るっていうの。
とはいえ、最後まで彼の人生に責任を持つつもりもない私が、そこまで介入していいもんじゃない。
自分に許される範囲なんて、遠い空から安寧を祈ってやるぐらいだ。
これ以上、我が家に残して、恐ろしい間違いがあってもいけないしね。
カ○モド系女子にまさかの恋情なんて……うっ、鳥肌が……っ。
貴族の服に着替えさせた少年を奇形に合わせて自作した背負子に乗せて、男を見張っている猿たちの遠吠えに耳を澄ましながら、颯爽と森を駆ける。
なぁに、思春期の男の子とはいえ、満杯の水瓶に比べりゃ軽いもんだ。
自分のスペックを理解しているから、少年も微妙そうな顔をしながらも文句は言わなかった。
さすがに彼を歩かせるには、ちょっと距離があるのと、道程の荒れ具合がなぁー。
本当はおんぶして紐で固定した方が安定するんだけど、以前ならともかく現在の少年との密着は憚られたものだから、ね。
あぁ、もう。第二の母として慕うぐらいならまだしも、なんで、あんなっ……くそっ。
これぐらいはいいだろうって、年齢なんか教えるんじゃなかった。
どうせ顔面グチャグチャで分かりにくいだろうし、いっそ前世の享年でも答えてりゃあ、少年だっておかしくならなかったかもしれないのに。
いやでも、それもここまでだ。
だって、彼は煌びやかな貴族の家に帰るんだから。
綺麗なご令嬢に囲まれる生活に戻れば、歪ませてしまった感性も徐々に元通りになってくれるだろう。
頼むから、そうであってくれ。
完全な矯正は無理でも、きちんと美しいものを美しいと思える子になって。
移動の最中、悶々と思考に耽っていた私だけれど、それを遮る声が背後から掛けられることは、ついぞなかった。
男と接触するまで残り一キロといった距離で、地面に膝をついて屈み、背負子から美少年を降ろす。
座った状態のまま全身を反転させて、私は所在なさげに立つ彼に小声で話しかけた。
「姿を見られるワケにはいかないので、私はここまでです。
獣道の見分け方については、お教えしましたね?
比較的、素人でも見失いにくく歩きやすい道を選びましたので、コレに沿って進んでください。
なに、不安がらずとも、すぐに迎えの男性と巡り会えるでしょう」
合流まで一緒にいてやった場合、見た目からの誤解のピタゴ○スイッチが怖いのでな。
「もし、生きていたことを不思議がられたら、こうお伝え下さい。
大きな猿型のモンスターに匿われていたと。
親とはぐれた同族の子どもとでも勘違いしていたのかも、みたいな、こう、ソレっぽい推測でも加えれば、森のモンスターの生態はあまり知られていませんし、有り得ないとは断定できないはずです。
更に、何かショックな出来事があったはずだが、どうにも森での記憶は不明瞭で……とでも言えば、余程の人でなしでもない限り、そう深くは追求されないでしょう」
とはいえ、希望的観測かもしれない。
忌み子的な扱いだからって、普通に根掘り葉掘り聞き出そうとされたらゴメン。
ただ、少なくとも迎えの男なら大丈夫だよね?
信じるぞ、アンタがまともな大人であることを。
それで、少年の親をもっと上手く誤魔化せる案があるなら、そっちでよろしく。
私はこの世界の人間たちの常識には疎いからね。
色々と雑で穴が多くても仕方ないね。
っていうか、さっきから一言もしゃべらないんだけど、ちょっと君、美少年。
遮られるのは困るにしても、相槌くらいは打ってくれていいのよ?
いつもは、へぇとかほぉとか言ってくれるじゃない。
お姉さん、無視されてるみたいで悲しくなっちゃうなーっ。
ねぇ、なにを俯いているの。
そりゃあ、元気いっぱいでいるより、悲壮感漂ってた方が、迎えの男も心情として受け入れやすいだろうけどさ。
いや、別れが辛いんだろうなっていうのは、もちろん察してるよ?
でもさ、ここで可哀想がって甘やかすのって、多分、ダメなやつでしょ。
毅然とした態度で帰りなさいって言わないと、残っちゃうでしょ、未練。
気分は、我が子に親離れを促す母猛獣よ。
もう私のテリトリーからは出て、独り立ちする時期が来たってこと。
「さぁ、行ってください。
もう二度と、こんな危険な森になど迷い込んではいけませんよ」
歩行を促すように、軽く少年の背に手を添えてやれば、彼は首を下に曲げたまま、ゆっくりと先ほど示した獣道を進み始めた。
良かったー。
ここでゴネられたら、どうしようかと思った。
「……っ僕は」
おわっ、ちょっ、フェイントか。
なんだ、なんだ。
前を向いたままってことは、引き返しては来ないよね?
「持ち帰っても、いいだろうか……この森で、貴女と過ごした日々の記憶を」
ほほっ、詩的じゃん。
詩的か?
ちょっと感性が野生化してて分かりませんね。
てか、野暮なこと言うようだけど、そういうの忘れようとしてパッと忘れられるもんなの?
わざわざ口には出さないけどさー。
あ、余計なことばっか考えてないで早く答えてあげないと、黙ってたら、きっと拒否と誤解されちゃう。
「そうですね。
それが貴方の人生に……生きるために、必要であるのなら」
この先、私の与えた森の知恵が、もしも、君の未来を拓くために役立ちそうなら。
あんまり優しくされて来なかったボーイが、少しでも世界を憎み続けず済みそうなら。
覚えてるぐらい、いいんじゃないですかね。
軽率に吹聴しちゃうタイプでもないでしょ。
自白剤とか使われたら知らないけど。
うん、その時はその時。
「……ありがとう……大事にする」
左様け。
しんみりしちゃうなぁ。
「っあ、最後に一つだけ忠告させてください。
周りが敵ばっかりの時は、現実に存在する物品には執着を見せないこと。
思い出の品がどんなに踏みにじられたって、貴方の心に残る思い出そのものは、けして穢されません。
想いは物に宿るのではない、心に宿るのです。
物はあくまで物でしかないと、どうか割り切ってください。
そうすれば、貴方が生きている限り、貴方の大事なモノは誰にも奪われない……永遠です」
最後の最後まで、説教臭いババアでスマンね。
なんか、その私の繕った服とか捨てられたら、メッチャ取り乱しそうだなー、とか。
ふと考えちゃってね。
変な弱みになりたくなくて、つい口出ししてしまった。
「……心に厳重に仕舞っておくよ。
今の忠告も含めて、貴女との記憶は、僕の想いは、この世の誰にも穢させはしない。
永遠に、僕と貴女だけのものだ」
「お、おう」
んんんんんんん。
いちいち言い回しが意味深だな、少年ーーーーっ。
でも、もうこれで最後だし、敢えて突っ込まない。
突っ込まないぞぉーーーーっ。
「僕は、貴女に会えて……本当に、良かった……っ」
っあ、あーあぁー、あーもぉー。
なんだよー、そんな不意打ち涙声で、んもーっ。
最後の最後にそんな、堪えきれなかったみたいな。
止めてよねぇ、こっちまでホロッときちゃうじゃん。
ねぇ、今生の別れだよぉ。
寂しくって、寂しくって、言葉にできなぁい。
達者で暮らせよ。
簡単に殺されるんじゃないぞ。
よく食べて、よく寝て、元気で育つんだぞ。
どんどんと森の草木に隠されていく鮮やかな青髪を、歪に膨らむ瞼を薄く濡らしながら見送った。
無粋な猿たちの鳴き声も、今は耳に遠い。
少年の姿が完全に視界から消えても、私はしばらくジッとその場に佇んでいた。
やがて、自らの気を落ち着けるため、大きく深呼吸を繰り返す。
さて、悪意は感じなかったとはいえ、迎えの男が彼にとって本当に安全かも分からないし。
せめて縄張りから出ていくぐらいまでは、こっそり見守ってやるとしますかね。
自らの発する気配を自然のソレと同化させて、音を立てずに頭上の木の枝へと跳び移る。
別れの余韻なんか知ったこっちゃなかった。
美少年が兵士と無事に合流したのは、約二十分後。
男は、彼を見るなり名を叫びながら駆け出して、目前で立ち止まり跪いた。
「っ坊ちゃん、よくぞ御無事で……!」
「…………ドドモバ」
それなりに距離は取ってるけど、地獄耳な醜女イヤーにはバッチリ二人の会話内容が届いてくる。
感極まったような男と対照的に、美少年のテンションはかなり低い。
立ち上がった兵士が、私を覚えておいででしたかとか、お迎えにあがりましたとか、遅くなってすみませんとか、アレコレ矢継ぎ早にくっちゃべっているけれど、少年は妙に遠い目をして、あぁだの、そうかだの、適当な相槌を繰り返しているばかりだ。
その後も、これまでの経緯など一方的な語りかけを続けた男は、とにかく帰りましょうと話を締め括り、半ば問答無用で美少年を背負い森の外へ向かって歩き出す。
興奮のせいか、結局、最後まで相手との温度差には気が付けないまま。
あーーー、ピンときた。
お前かっ。
坊やに絶対の味方だとか言い放って、ろくに信用されなかった上に、普通に彼を護りきれなかった口先だけの薄っぺら野郎はっ。
今までの行動だけでも、視野の狭さ、状況判断の甘さ、知識量の少なさに、想像力の欠如、根拠のない楽観性と、いくらでも指摘したくなる部分が見受けられるんですが?
多分だけど、アンタ脳筋タイプだな?
基本は善良で、言動も全部本気なんだろうけど、だからこそタチが悪い。
自分がどれだけ当の大事な坊ちゃんに軽率で残酷な発言してるか、全然理解してないんだから。
死んでたんだぞ、私が助けなかったら、確実に、その子は。
なにが、今度こそ絶対にお守りします、だ。
私というイレギュラーがなければ、アンタに挽回のチャンスなんか二度と来ないまま、彼は無残に殺されていたんだ。
薄汚い男どもに犯されて、嬲られて、世界への恨みと、絶望だけを抱えたまま、命の火が儚く消えてしまうところだったんだよ。
絶対なんて単語を使いながら、簡単に彼の期待を裏切っておいて、未熟な少年の心をズタズタにしておいて、よくもまぁ、懲りもせず吠えてくれるもんだわ。
彼が何でも受け入れてくれる良い子だからって、無意識に甘ったれてるんじゃあないよ。
許してるんじゃなくてな、諦めてるだけなんだよ、その美少年は。
あんな与太郎でも、坊やの極端に数の少なそうな味方の一人だっていうんだから泣けてくる。
電話してやりたいわ、おー人事、おー人事ってな。
だからって、やっぱり私が用心棒について行きますってワケにもいかない。
見た目がマズいのはもちろんだけど、そもそも自分、森じゃないと本領発揮できないからね。
主である以上、配下たちの命にも責任があるし、ホイホイ縄張りを捨てるのも憚られる。
あぁ、くそ。
だから、外の人間に情なんか移したくなかったんだ。
なんにも出来やしないのに、苦しいばっかりでさ。
しかし、結末を予想して助けたとはいえ、あの無能そうな保護者の存在は想定外だった。
アイツのせいで余計な心労が増えたんだよ。
ただ、元気になった子を家に帰すだけなら、ここまで不安にさせられることもなかったのに。
もー、ホント最低。
一生の心のシコリになるヤツ。
現実的に考えて難しいだろうけど、頼むから、健やかに大きく育ってくれぇい、ビューティフル美少年ボぉーイ。
数日後、兵士と少年が無事に森を抜けたところまでを確認して、私はそれまでの日常である孤高の醜女生活に戻った。
彼に使わせていた衣類や食器なんかを片付ければ、他人の存在した痕跡は容易く消え去ってしまう。
だけど、記憶の中にだけは、しつこく二人で暮らした風景がこびり付いていて、早々払拭されてはくれなかった。
実際、半月も一緒にいなかったっていうのに、うっかり居もしない誰かに向かって話しかけようとしてしまうんだから、笑えない。
しかも、そんな失敗を、共に過ごした倍以上の期間に渡って繰り返していた辺り、どれだけ少年に情を移しまくっていたのかと、恐ろしくすらなる。
自分で気が付いていなかっただけで、私、本当はずっと独りが寂しかったのだろうか。
あー……参ったなぁ。
いつも通りの充実した野生暮らしを送っているはずなのに、ろくに鼻歌も出やしないわ。
はぁ。
我が子を亡くした親ってこんな心境なのかな。
いや、お国の命令で戦争に送り出した親の気持ちの方が近いかも。
静かすぎる家で過ごす寂寥感とか、とにかく無事でいて欲しいっていう焦燥感とか。
ま、いくら元気でも、本当の親と違って坊やに帰って来られちゃ困るんだけどね。
私が胸にどんな感情を抱いて過ごそうとも、季節は容赦なく巡っていく。
意外とあっという間に一年ぐらい経ったなぁと思ってる頃、少し生活に変化があった。
正に寝耳に水の出来事というか、ある時、狩人さんが初めてドア越しに話しかけてきたと思ったら、支援物資の配達は今日で最後だという非情な宣告をされたのだ。
すでに自給自足環境は整え終わっているし、問題らしい問題はない。
とはいえ、あんまり突然のことでビックリした。
最後の慈悲心ゆえか、柄にもなく親切に説明してくれたところによると、狩人さんは私の実家より高位の貴族に腕を見込まれ、引き抜きをかけられたらしい。
豪華な馬車がモンスターに襲われている場面に遭遇して助けたら、自前の護衛も歯が立たなかったのに凄いと、中に乗っていたキっラキラな親子連れに気に入られてしまったんだと。
異世界トリップ勇者みたいなイベント起こしやがって、憎いね、このこの。
一応、領主に雇われてる身だからと首を横に振ったんだけど、交渉すると言ってそのまま私の実家に連れられたところ、どうも彼らがかなりのお偉いさんだったと発覚し、直で要求されたらもう我が両親も顔を青くして頷くしかなかったんだそうな。
他に森の深部まで荷物を持って潜れるような実力者もいないし、そもそも秘された私のことを知られるわけにいかないってことで、都合上仕方なく支援がストップすることになってしまったわけだね。
移住のための準備期間を貰って、その時間を使い、わざわざ最後のお知らせと配達をしに来てくれたと。
なんだよもー、良い人だなー、もー、醜女、拝んじゃうぞーっ。
しかし、そうか。これで本当にラスト、か。
切れちゃうってことだよなぁ、実家との細い細い繋がりが、今度こそ完璧に。
改めて、名もつけぬまま捨てられたとはいえ、すぐに死なないように住む場所と乳母を与えた上で、定期的な支援をしてくれる両親も、私を怖がりつつも真面目に育ててくれた乳母も、律儀にこんな危険な森へ重い物資を運び続けた狩人も、私の存在を知っていて沈黙してくれている産婆さんやメイドさんなんかも、皆みんな、良い人だったなぁ。
分かりやすい愛情なんかは貰えなかったけど、醜い化け物として産まれてしまった私を、それでも必死に守ってくれていたよね。
この世界の一般的な貴族だったら、不出来な実子をなかったことにするぐらい、眉一つ動かさずやってのけただろう。
もし、私を知る者の中に一人でも欲に駆られて他家に情報を売るような奴がいたら、両親も私もタダでは済まなかった。
転生者である自分だからこそ、彼らがどれだけ善良だったか理解できる。
本当に、奇特な人たちだった。
うーん、そうだなぁ。
できれば、これを機に私のことなんかスッパリ忘れて、娘への罪悪感なんか捨て去って、幸せになってくれたらいいんだけどなぁ。
ちょっと、頼んでみるか、伝言。
最後のワガママってことで。
「あのっ!」
去りかけていた足音を、大きく声を発することで引き留める。
何事かと、再び小屋との距離を詰めてきた彼の気配を感じ取って、私は一度唾を飲み込んでから、扉ごしに語りかけた。
「もしも、可能であれば、辺境伯様に私の言葉をお伝えいただきたくっ」
「……承りましょう」
微妙に逡巡したな。
両親への恨みごとでも聞かされると思ったかね?
それとも、狩人如きじゃ、直接両親に目通りが叶わないってんで、受けるかどうか迷ったか。
別に手紙でも何でも、最終的にあの人たちに届けばいいんだけど。
いかにも謹厳実直そうなタイプだし、確約できないことは言いたくないのかもね。
ともあれ、一時、傾聴しーてくーれやぁー。
「ありがとうございます。
どうか、こうお伝えください。
心より感謝しています、と」
「っえ」
おい。何よ、なんか文句あんの。
とりま、スルーして続きいくよ?
「私は、きっと、とても恵まれた子供でした。
こうした機会が訪れたのも、立派に育ったのだから巣立ちをせよとの、神様の思し召しなのでしょう。
お許しいただけるならば、この森から末永く、辺境伯様方のご健勝とご多幸をお祈りしております、と。
それだけお伝えいただけましたら幸いです」
言いたいことを言い切って口を閉じれば、場にしばしの沈黙が落ちる。
ちょっと長かったかな。
感謝してるってだけでも良かったんだけど、いまいち意図が伝わり切れない気がしてさ。
もうね、これを機に醜女から解放されてくれって、そういうアレをね、遠回しに表現してみたというか。
いやまぁ、難しかったら勝手に意訳してくれてもいいんだけど。
ただ、狩人さんの国語力が未知数だから、出来れば、原文ままで持ち帰っていただきたい気持ちはある。
ていうか、いつまでダンマリ決め込んでんの?
そろそろハイかイイエかハッキリしてくれないかな。
万一、この内容でNGだったら、また別に考えるからさぁ。
ん?
待って、なんか、小さく……あれ、いや、違うな、この音。
もしかして、これって。
「………………必ずやっ」
っあ。あー、やっぱ、そういう……はい。
微っ妙ーに鼻声になってんじゃあねぇですよ、狩人さぁぁぁん。
いい年して嗚咽やめろ。
返事が遅かったの、それのせいだったわけぇ?
んもー。
私、意外ともらい泣きしやすい乙女なんだから、そういうのマジ勘弁して。
醜女とオッサンのすんすんデュエットとか誰得だよ、もう。
こぉの、根っからの生真面目善人マンめぇ。
とにかく、言質とったからね。
よろしくお願いしますね。
メソメソしてたせいで、帰りつけずに森中で死亡とか止めてね。
今まで何年も何年も、こんな危険な地の奥深くまで来てくれて、ありがとうね。
ホントに……。
あーあ、狩人さんもいなくなったら、私、今日から真のぼっち女じゃん。
人間との繋がり、本当に一つもなくなっちゃったなぁ。
侵入者退治は、雑草抜きとかと同じただの作業だし。
ビューティフル美少年ボーイみたいなお助け案件だって、まずあるもんじゃないからね。
ていうか、アレが人生初だったよ。
別に、この広大な森の全域が縄張りってワケでもなし。
そういうイザコザ的なのは、もっと浅い層で行われてるだろうから、奥地に住んでる私なんぞが知る由もない。
毎日やることが沢山あるから、暇にはならないんだけど……なーんか、張り合いがなー、いまいち感じられないっていうか、意味もなく虚脱感があるっていうか。
意外と、よすがにしてたのかなぁ、月一配達。
ふぅ。
人生はルナシー……間違った、人生は空しい。




