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3 看病する



 祈りが終わった直後、壁をドアノックの要領で叩き、少年の意識を私のいる物置部屋へ向けさせる。


「ちょっと、お話よろしいですか?」

「っえ、あ、あぁ、構わない」


 部屋の出入り口に垂らした布の隙間から片足だけを覗かせつつ許可を求めれば、一瞬だけ声を跳ねさせて、彼は健気に肯定を返してきた。

 ノックだけじゃあ、心の準備には足りなかったようだ。


「正味のところ、この粗末な小屋で完全に互いの姿を見せぬように過ごすっていうのは、現実的に考えて不可能かと思われます」

「……それは、もっともだな」


 裏口も廊下もないからね、うち。


「そこで、一つ提案がありまして」

「聞こう」


 おっ。

 いいね、その返しの早さ。


「ありがとうございます。

 単純な解にはなりますが、奇形は主に上半身に偏っているので、そこさえ隠せば不快指数もかなり落ち着くものと考えました」

「隠す?」

「えぇ、つい今しがた、ズダ袋を改良し被り物を作ってみたのです」


 大丈夫?

 貴族のお坊ちゃん、ズダ袋って通じる?

 今の説明できちんとイメージできてる?


「つきましては、見目の緩和が如何ほどか実物をご確認いただきたく……御前、失礼してもよろしいでしょうか?」

「……………………っ分、かった」


 まぁまぁ葛藤してくれるじゃないの。

 別に、無理なら無理で断ってくれても構わないんだけどね。

 何だかんだ思春期のオトコノコだから、強がりたい部分もあるのかな。


「いいぞ、出てきてくれ」

「はい、では」


 本人がいいと言うなら、行きましょうか。


 乙女らしからぬゴツい手を目の前のパッチワークの隙間に差し込み、ゆっくりと左右に開いていく。

 意味不明な雄たけびを上げながら駆け出したいという悪ふざけの気持ちを抑えて、じれったいぐらいに少しずつ一歩を進めた。

 確認さえして貰えれば良いので、全身が表に出れば、それ以上先に進むことはしない。

 奇形でなくたって、この体は彼の二回りは大きくて、更に筋肉バッキバキで厳ついのだ。

 不用意に近寄って、わざわざ怖がらせることもあるまい。


 テーブル横に立って待っていた賢そうな青髪の少年は、分かりやすく強張った顔をしていたが、真っすぐに私を見つめていた。

 初めてまともに対峙したことで、光の加減で複雑な緑が混じる、灰色の目の存在を知る。

 切れ長な瞳はいかにも利発そうだけど、どこか根暗っぽさも感じさせた。

 乙女ゲームなら、彼にはアンニュイでクールな厭世家(えんせいか)キャラとでも紹介文がついているのかね。

 全身のあちこちに巻かれた包帯が、痛ましくも妙な色気を放っている。

 寝ていても起きていても、美少年ぶりに陰りはない。

 まぁ、私の好みとは外れるけど。

 このぐらいの年頃なら、直情的でバカワイイ系のワンコっぽい子とかを祖母目線で甘やかし愛でたい。

 無駄にお菓子とかお小遣いとか与えて困らせるやつ。


「……いかがでしょう?」

「あ、あぁ、大丈夫だ。

 それはそれで妙な迫力があるが、中身と比べれば随分……あ、いや、すまない」

「お気遣いなく」


 君、意外と本音ポロッポロ零すよね。

 貴族としてどうなの?

 ドジっ子キャラなの?

 あと数年で成人年齢でしょ?

 つつがなくやっていけるの?

 お姉さん、心配だよ。


「しかし、僕としてはその姿、あまり賛同できない」

「へ?」


 なんぜ?


 あっ、違う。間違った、「なんで」と「なぜ」が合体した。

 心の中とはいえ恥ずかしい。


「女性にそのように不自由で無粋な被り物を強いるのは、どうにも気が咎める」


 あーあーあー、はい。

 ジェントル発揮しちゃってんのね。

 嬉しいけど、わがまま言うんじゃありませんよ。

 これ無くして、どうして心に優しい共同生活が送れるっていうの。

 ほんのりプンスコの助よ。


「それに……」


 おっ、まだ何かあるかね。

 聞かせてみたまえ。


「先のような男たちがこの小屋へたどり着いたとして、袋のせいで貴女の五感がまともに働かず(おく)れを取ったり、僕にしても、体格の似た者と袋の中身が入れ替わられた際に、すぐには気が付けなかったりするかもしれない。

 そこまで多くを覆い隠してしまうのは、どちらにとっても危険だ」

「ははぁ」


 なるほど、そういうことなら一理ある。

 次に来るのが、アイツらみたいな雑魚とも限らないしね。

 動物やモンスターに見つからず森を進むのだって、別に不可能ってわけじゃない。


 と、なると、この案は却下か。

 ちぇっ、せっかく作ったのに。


「そもそも、この家の主は貴女で、僕は招かれざる客だ。

 行動に制約を受けるならば、本来こちらであるべきだろう」


 は?

 いい子かよ。

 次、包帯取り替える時、とっておきの薬草使ってやんぞ、こらぁ。


「お心は立派ですし、お貴族様の世界の常識がどうかは知りませんがね。

 怪我を負った子供に不自由押し付ける程、私ゃ落ちぶれちゃいませんよ」


 肩を竦めて告げると、少年は驚いたように目を見開いた。

 さて、私の不遜な物言いのせいか、それとも、ろくな大人が周りにいなかったのか、どっちかね。


 あ、ちなみに、この辺の地域の成人年齢は十六ってことになってるから。

 いえーい、十七歳の私、めっちゃ大人。

 精神的には三十路越えで、肉体的には普通の大人を通り越して、ゴリラ級になっちゃってるけどなっ。


「しかし、それでは……っ!」

「あっ!?」


 危ない倒れるッ!

 そりゃ、血も足りない怪我も治ってない状態でわざわざ立って話してりゃ無理もたたりますよねぇ!?


 野生の瞬発力で何とか手を伸ばし、発展途上の体を受け止める。

 家が狭いのも幸いしたね。

 一息吐いたところで自分の体勢を整え、薄い背と膝裏に腕を回してお姫様抱っこの形で持ち上げて、大股で寝室へ向かった。

 ふふ、羽のように軽いよ……ってか。

 性別が逆ならともかく、男の子には屈辱だわな。

 超級猫背ボディのせいもあってか割とふくよかな私の胸部なわけだが、そこへ側頭を沈ませる少年が眉間に皺を寄せて小さく唸りを零している。

 ズダ袋の粗い生地で肌が傷ついてないといいけど。


「ぅ……すまない……」

「するなら感謝の方にしてください」


 傷のせいか疲労が一気に表に現れたのか分からないけど、これ熱が出ているな。

 まぁ、いつかは来ると予想してたけど、思ったより早かったね。


 ベッドに降ろして布団を掛けてやれば、やはり弱っていたのか、間もなく寝息が聞こえてきた。

 熱冷ましは傷薬ほどストックがないので、状況によっては採取に行かなければならないだろう。


 そもそも、私、常日頃から健康優良児で、十年以上、熱とか出した記憶がないからさ。

 幼い時分はさすがの私も普通に風邪を引いたり、毒で寝込んだり、モンスターにやられた傷が膿んだり、色々大変な思いをしたものだけど、今は病気ナニソレって感じだし、毒のある動植物は把握して避けてるし、ていうか微毒程度なら耐性もついたし、あと周辺のモンスターはもう私には歯向かわない。

 使う機会のないものは、何にしたって排されていくもんだ。

 用心のためにって、一応でも置いてあるだけ偉いよ。

 いくら加工したところで、前世の錠剤だのカプセルだのみたいに日持ちするわけでもなければ、効果そのものも薄いしね。


 しかし、他人の看病なんか久しぶりだわ。

 乳母が生きてた頃は、私、まだ幼児だったわけで。

 それでも、彼女が寝込み始めてからは、トイレだって背負って連れていったもんだけど。

 その内、厠を病人仕様にしようってんで、手すりを取り付けたり、洋風便座作ったり、小さな体でDIY頑張ったんだよなぁ。

 亡くなる直前になるとソレすら役に立たなくて、ほとんどベッドに寝たまま垂れ流し状態だったから、毎日洗い物と掃除が大変だったっけ。


 あの時に比べりゃ、私は大人になってるし、相手は少年だし、楽勝って感じじゃあないの。

 そりゃ、いきなり肺炎発症とか想定外の事態が起きたら、素人な私は完全にお手上げになっちゃうけども。


 とか語りつつ、さっそく熱に魘される彼を置いて外出などしようとしているんだよなぁー。

 薄情と言われても、こんな森で人間らしい生活をしようと思ったら、引きこもってはいられないのが現実ってやつでね。

 洗濯から畑の世話、消費した薬草の採取、川へ水汲みにも行かねばならないし、薪集めだってあるし、日々の糧として木の実を採ったり獣を狩るのはもちろん、時には縄張りのボスとして、森に異常がないかパトロールして周ったり、余所から乱暴者のモンスターが流れてきた際には正々堂々戦ったり、人間が侵入してくれば陰からコッソリ始末したり、配下同士でモメた時には仲裁に入ったりもするし、他にも状況に応じて様々やることがあって忙しい身の上なのだ、これでも。


「報酬はエピカの実でいいな」

「クェア!」


 とりあえず、口笛で鳥モンスターを呼び出し、格子窓の外から少年を見張らせて、容体に変化があればすぐに知らせを飛ばすよう頼んでおいた。

 猿共と違って人の言葉が通じるのがありがたい。

 いちいち微妙な鳴き声の違いを覚えて真似するのは大変なんだよ。


 さて、せめて数日は籠城できる程度の準備をしておきたいんだよな。

 効率も大事だけど、いつでも帰還できるよう必要度が高いものから順番に回っていくか。

 まったく、一気にタスクが増えて頭の中が大忙しだ。



 そんなこんなで数時間後、懸念していた呼び出しもなく、私は日が暮れる前に全ての作業を終えて小屋に戻った。

 報酬の実を与えながら受けた鳥の報告によれば、少年は未だ眠り続けているはずなので、気負いなく扉を開けて中に入る。


 病人の様子を見にまっすぐ寝室へ向かえば、記憶よりも少し乱れた掛け布団と、汗ばんだ(かんばせ)が目に入った。

 寝苦しいのか、嫌な夢でも見ているのか、彼の眉間には皺が寄っている。

 とりあえず、枕の横に落ちていた乾いた木綿の布を拾って、つい先ほど上流で汲んできたばかりの川水に浸して濡らし、程よく絞ってから額に乗せ直してやった。

 急な冷たさに少年は僅かに呻き声を発したが、彼の閉じられた瞼が開くことはなかった。


 無言で踵を返し、集めて来たアレコレの片付けをなるべく音を立てないように行う。

 最後に用無しとなってしまった改造ズダ袋を手に取って、しばらく惜しむようにそれを眺めた。


 結果、折衷案と自らに言い訳をしつつ、袋を改良というか裁断して作った布を(フンドシ)みたいに顔に垂らして、目元から鼻下くらいまでを隠すことにしちゃった。

 テへペロっ。

 うっ、自分ながら殴りてぇこの笑顔。

 いやでもだってだって、穴あけて使えなくなったからってゴミにするだけとか、もったいないじゃない。

 少年だって素顔よりまだ見れるって、実際の効果もあったわけだし、この改良型なら五感もダメにならないしーっ。


 ていうか、例えが褌って、汚い上にイメージしにくいヤツだなコレ?

 ええと、ローマ字のTの上の横線部分を紐状に細く切って頭に巻いて後ろで結んで、下の縦線部分の面積を広めに取ることで顔の上部分が見えないようになるんだよ。

 音楽の記号の全休符みたいな形で。

 ほら、あの、夏目フレンド帳に出てくる人型の妖怪がよくつけてるようなの。

 一部の人にしか通じない例えは止めろ。

 はい。

 じゃあ、えっと、お洒落カッフェーの店員みたいな腰から下だけタイプのエプロンの縮小版を顔につけてるって感じで。

 くそっ、ダメだこりゃ、語彙力が来い。


 あと、そういうアレだから、風とか姿勢によっては普通にポロリもある。

 ほとんど気休めというか、完全に自己満足の物体だね。

 まぁ、いいじゃない。大事よ、自己満足。


 その後は、熱で夢うつつの少年相手に、スープや薬を飲ませたり、包帯を取り換えるついでに体を拭いて着替えさせてやったり、トイレにつれていったり、定期的に額の布を濡らしてやったり、甲斐甲斐しく世話を焼いた。

 数時間おきの体位変換もないし、自分より相手の方が小さくて軽いってだけで何をやるにも随分と簡単に感じるものだなぁ。

 意識はあっても終始ボンヤリしていたから、全く抵抗されなくて、そこも楽だった。


 ただ、看病の中、たまに悪夢か何かにうなされている彼に対してだけは、心配する以外に出来ることがなくて妙にヤキモキさせられたかな。

 親が子へそうするように、撫でて安心させてやるには、私の手のひらは硬すぎる。


 そうそう、夜だけど、ベッドを占領されているのと、刺客を警戒するのと、少年の容体の変化を見逃さないようにする意味で、私は玄関扉に背を預けて座った姿勢で睡眠を取った。

 昔、乳母が使っていた寝台は木枠もシーツも細かくして再利用済みで、もうどこにもないし。

 だからって、傷の痛みと熱で苦しんでる少年と同じ寝床に収まるような非常識な真似もできないからね。


 これがラブコメ漫画で私が美女だったら、そういう展開も有りだったのかもしれないけど、この顔と巨体じゃキツいわ。

 私が寝ぼけて剛腕を遠慮なしに少年の上に落としてしまった暁には、それだけで彼の息の根を止めかねない。

 あと、目覚め一番に私を視界に入れたら、寝起きドッキリの壁を越えて、寝起きポックリにだってなちゃうかもしれない。

 さすがに性根がお茶目な私も自重しようというものだ。


 まぁ、状況によっては森の中、木の上で睡眠を取らなきゃならないような日もあるし、比べりゃ室内ってだけで天国よ。

 伊達に野生の醜女やってないってね。


 ちなみに、胡坐をかいて腕を組んだ状態で、しかも手の届く場所に伐採用の斧も置いてるから、きっと今の私には武士とか用心棒とかいう単語がすごく似合うと思う。


 で、若さなのか、傷はともかく、熱は二日後の朝にはもうスッキリ引いたみたい。

 戻った意識で真っ先に顔に垂らしてる布について聞かれたのは笑い話だわ。

 彼の前でつけ忘れてもいけないから、風呂の時以外はずっと装着してるんだよね。

 とりあえず、私なりの理屈を並べて使用許可は勝ち取らせてもらった。


 その成果もあってか、ベッドに腰かけた状態で食事を取らせたあと、ポツポツと会話を交わすなんてことにも成功した。

 二人ともワケありだから、自然と名前やら身分やら明かさないようにしようって流れにはなったね。

 言うて、私、死産扱いだし、どっちも所持してないんだけどさー。

 ははっ、ウケる。


 あと、少年が恩を返せる当てがないって言って縮こまってたけど、正直、彼を無事リリースした後に、改めてお礼だ何だって訪ねて来られたとして、普通にお互いの危険が増えるだけだからさ。

 その辺りを説明して、夢と思って忘れてくれるのが一番ありがたいってことで納得してもらった。

 この美少年は理攻めに弱い。


 彼の熱が引いてから困ったのが、私が玄関で寝ていると知って、家主で女性の貴方を差し置いてその様なと頑なにベッドの使用を拒まれたこと。

 怪我の影響で未だにスムーズな歩行もままならないくせに、参った坊ちゃんだ。

 で、結局、力の差に物をいわせて無理やり寝床へ放り込んで、嫌ならさっさと元気になれと脅し……いや、発破をかけて黙らせた。


 そして、問答した日の夜中、コソコソ起き出してきた少年に反応して目を覚ましたんだけどさ。

 最初は外のトイレに行くのかと思って、もう少し近くまで来たら扉から退くかと考えてたら、どうも様子が違うみたいで。

 まさか良からぬことでも企んでいるのかって、寝たフリを続けつつコッソリ観察してたんだよね。

 すると、彼は意味不明にも私の隣に座り込んで、同じ姿勢で眠ろうとかアホな真似を始めちゃって。

 怪我人が何やってんだってもう、呆れて物も言えなかったわ。

 森に生きてる私と、仮にも貴族として育った少年とじゃあ、頑丈さが天と地だってぇのに。

 ていうか、また熱が出るぞ熱が。


 そろそろ起きてるのをバラして説教でもかましてやろうかと思ったら、服の袖をそっと握られて、なんとなく開きかけた唇を閉じ直した。

 間もなく、ボソボソといかにもな独り言が、野生生活で発達した耳に届いてくる。


「不吉の子だと厭われて、ずっと一人でいるのが当たり前だったのに……たった数日で、僕はおかしくなってしまったんだ。

 目が覚めて、貴女が視界のどこにも映らないのが、まさか、寂しい、だなんて」


 …………はあ?

 はあーーーーーーーーーあ?

 ふざけてんの?

 君、私の母性を狂わせてどーするつもりなんですかぁーーーーーーあ?

 今、めっちゃ心臓ギューーンってしちゃったんですけどぉーーーーお?


 あーあー、しょーがねぇなぁ、おいーーーっ。

 次から寝室の入り口に場所を変えてやるよぉーーーーっ。

 ったく、しょうがねぇなぁーーーーー。

 はっはーーーん。


 ていうか、不遇の子だったってんなら、放置が日常だったなら……なんでそんなに良い子ちゃんなんだ、君は。

 少しでも愛されたくて、誰かに見てもらいたくて、必死に模範生でいようとかしてたわけ?

 あぁ? 健気かよ、抱きしめるぞコラぁ!


 内心に吹き荒れる感情の暴風雨を抑えて、表面上、私は静かに口を開いた。


「……体が弱っている時は、誰しも心ごと細くなるものです。

 私も一人が長いもので、気が利かずにスミマセン」

「っな! お、起きて……ッ!?」


 途端、真っ赤になって恥ずかしがる思春期の美少年。

 若い反応に内心で可愛い可愛いと悶えながら、私は彼をそっと抱え上げて、ベッドの中へと運び戻した。

 羞恥心を堪えるのでいっぱいいっぱいだったのか、特に行動を拒まれはしなかった。


「ゆっくりお休みください、私はここにおりますから」


 仕上げとばかりに薄い胸元にポンと軽く手を弾ませ、努めて優しく告げれば、少年は己の真っ赤な顔面を隠すように掛け布団を頭上まで引き上げる。


 めんこい。


 その後はしばらくモゾモゾと落ち着かなげにシーツを揺らしていたが、再び彼が寝床から抜け出すこともなく、平穏無事に夜は過ぎていった。







 あぁー、ダメだなぁ。

 すっかり情が湧いちゃって。

 これでもし、彼が祖国に悪影響を及ぼす存在だったと発覚した時、私はまだこの細い首を掴み手折ることが出来るのだろうか……。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 最後の一文が特にじわじわ面白かったです! 殺し方、首を片手で掴んで折る感じなんですね!首片手で、ぐるっと指が回っちゃうんですね…! いやあ、手が(も?)大きいということは、助けられるものも…
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