14 決着
フェリクスが私に例の頼みごとをしてから約二ヶ月。
近頃は木々を蹴っての立体移動が様になって来ている。
そう。彼はようやく、地面だけを寄る辺とする愚かさに気が付いたのだ。
ただでさえ、森は木の根やら様々な要因で土が隆起しまくってガタガタな上、雑草や落ち葉が重なって安全性の不確かな足場も多い。
だったら、無理に地を駆けるより、接触点が目視可能な樹木を伝って進んだ方が楽に決まっている。
とはいえ、それも身体能力が高ければ、という前提が必要になりはするがね。
ま、フェリクスなら問題ないだろう。
今はまだ不安定だが、いずれ完全にモノにすれば、彼の戦闘力も数段は跳ね上がるはずだ。
だって、これまで障害物でしかなかったものが、利用可能なお助けオブジェクトにすら変わるんだから。
あぁ、そうだ。
さすがにもう、彼に愛想尽かされて自分の意思で帰って貰おう作戦は諦めたよ。
どれだけ素を出しても、相変わらずウットリした目で見てくるんだから、そりゃ、どうしようもない。
絶世の美青年のくせに、こんな体も心も歪んだ醜女のどこがいいんだかね、まったく。
たとえ身分を捨てたって、その顔ひとつありゃあ、いくらでも女は寄ってくるだろうに。
難儀な話もあったもんだ。
……しかし、そうなると長年放置してたゴム製品の開発を進めるべきかね。
樹液に触るとどえらいカブれるし、加工工程くっそ面倒臭いし、現状ではそれほど必要性もなかったから、敢えて存在を無視してたんだけども。
ちょっと、なるべく早急に完成させたい物が出来たというか。
いや、万一の用心ってだけで、けっして期待しているとかではない。
うん。
あ、実はラテックスアレルギーでした、とかないよね?
って、本人に尋ねたところで、知ってるわけないんだよな。
まぁ、なるようになる。
と、いいなぁ。
とかノンビリ構えてたら、しまった。
いらんこと探求心スイッチが入って質の改善に凝ってる内に約束の日が来てしまったぞ、っと。
結局、美青年本人が心配していたような暴走行動は一度もなかったな。
まぁ、ヤンデレってのは、想い人が自分以外の人間と接触するのが一番重症化の原因になりやすいイメージあるし、二人きりで森に引きこもってたから軽微で済んだのかもね。
この一年でフェリクスがどのぐらい強くなったのかとか、全然見ないで研究に没頭してたせいで、正直、今どんな気持ちで構えていればいいのか分からない。
伴侶になる覚悟と殺す覚悟、どっちに比重を多く置くべき?
とりあえず、彼本人は朝から気合十分って感じだね。
いつも通り、必要な家事をこなして、昼食後にフェリクスと二人、席を立つ。
さすがに今日ばかりは、お互い言葉も少ない。
すっかり同じ速度で森を移動できるようになった美青年を連れて、私は対戦者たちの元へ向かった。
うんん。
この事実だけで、夫婦となる可能性が意外と低くないような気がしてくるな。
ソワソワしちゃう。
ここまでろくに接触もなかったのに、急に男女として振る舞うなんて私に出来るのだろうか。
フェリクスのことだし、すごくベタベタ甘えてくるようになるんじゃない?
冷静に対応しきれるかな。
下手な想像をしながらの道中、当の彼から声を掛けられ、進む手を止めないまま、私は耳だけを傾ける。
「リレイジア、ずっと考えていたんだが」
「どうした?」
「今日、最後の……十番目の相手は貴女に頼めないか?」
はぁ?
キミ、愛する人に暴力なんて云々ってぇ主張はどうした。
ここに来て、すげぇキャラブレ発言かましてくれるじゃないの。
思わず体を捻りながら次に掴む予定だった木の枝に飛び乗って、私は正面からフェリクスを睨みつけた。
木漏れ日に光る姿はいっとう美しいが、そんなことで絆される醜女ではない。
「アンタにしちゃあ面白い冗談じゃないか、フェリクス。
……命をドブに捨てる気かい?」
まさか、たかが一年かそこら修行積んだぐらいで、私を完封出来る強さを手に入れたとでも思っている?
本気でそんなことを信じているなら、そいつぁ、とんだ侮辱ってもんだ。
「もちろん、貴女の手により死を賜るのも一つの幸福であることには違いないが……」
真顔ぉっ!
いや、その認識からして、すでに間違いだから。
狂ってるから。
ホント怖いものなしだなキミは。
さっきイラっとしたの一瞬でどっかいったわ。
「愛している、リレイジア。
僕はいつだって貴女を僕だけのものにしたくて堪らない」
えっ、突然なに?
どうしよう心臓ドキドキする。
ホラー的な意味で。
「だが、リレイジアが配下を率いている限り、それは永久に叶わない……だろう?
たとえ今日夫婦になったとして、きっと貴女は事ある毎に彼らを優先するはずだ」
否定はできない。
おそらく、私は彼の妻であるより先に、ボスとしての責任を果たそうとするだろう。
あぁ、嫌な予感がする。
続く言葉を聞きたくない。
「森中のモンスターを狩り尽くしてもいいが、まず時間がかかりすぎるし、十中八九、彼ら以上に厄介な人間たちを招き入れるハメになる……何より、リレイジアに嫌われる可能性が高く、あまり進んで取りたい手段ではない」
ねぇ、フェリクスくんフェリクスくん。
まだその血生臭い手段が候補に入りっぱなしに聞こえるんですが。
「薬等で寝たきりにさせる方法も考えたが、それで貴女の死期が早まっても、やるせないからな。
あと、剥製化や食人は、二度と動く姿も声も聞けなくなるから、あくまで最終手段だ」
んんんんん、物騒。
いつもの穏やかな笑顔の下で、キミはそんなイカレた妄想ばかりしていたの?
ねぇ、知らない間に予備軍から完全なヤンデレになってない?
大丈夫?
目のハイライト迷子になっちゃってるよ?
私がゴムの木にばっかり構ってたのがダメだった?
「だから、僕が貴女の代わりに縄張りの主となる。
これが最も合理的かつ軋轢のない選択のはずだ」
そりゃあ、まぁ、他と比べりゃ真っ当だろうけど。
前のフェリクスなら、もう少し私の心情を慮ってくれてたように思うんだよ。
暴走こそしなかったけど、実際のところ彼の闇は日々深まっていたんだろうか。
「なに、心配はいらない。
引き継いだモンスターの管理は、けして疎かにしないと誓おう。
それと、僕は貴女に傷の一筋も負わせるつもりはない。
リレイジアを手に入れるか、リレイジアに殺されるか、答えは一合の下に決まるはずだ」
……これ、完璧に勝負を断れない流れになっているなぁ。
いや、頼むって言い方だったから、拒否すれば諦めるのかもしれないけど、代わりに何が起こるのか分からなくて怖い。
くっそ。
私に指一本触れず冷や汗をかかせることが出来る存在なんて、アンタぐらいだよ。
「……分かった、受けてやる。
そっちは今日の戦いに命を賭けてるんだ。
それで半端な望みしか叶わないんじゃあ、甲斐もないだろうさ」
でも、これで美青年の死の確率は大幅に跳ね上がってしまった。
もうすぐ彼をこの手で殺めるのかと思うと、なんとも切ないぞ。
「っありがとう、やはり貴女は優しいな」
グワーーーッ!
笑みと共に絶世の美男子から一気に大量の光が放出されれれ!
急な明暗差で眼球が痛い!
私は内心を悟らせない機敏かつ優雅な動きで彼に背を向け、勢いをつけて枝にぶら下がった。
「ふん。余計な時間を食っちまったね。
さっさと行くよ、フェリクス」
「あぁ、分かった」
ここで無様を晒すのは、立場とプライドが許さないんだよぉっ!
出発当初よりも少し張り詰めた空気の中、互いに無言で手足を動かす。
しばらく経って、もうすぐ対戦者の元に到着するなと思っていると、ふと背後の彼が、纏う光を一段暗くしたように感じた。
意識を向ければ、それとほぼ同時に僅かな振動が鼓膜を揺るがす。
「リレイジア……貴女の優しさにつけ込むような、卑劣な男ですまない」
んんっ。
そういう懺悔系の独り言をこっそり呟くの止めようか、フェリクス。
距離的に、まんま醜女イヤーに届いちゃうから。
この意図せぬ盗み聞き状態、すげぇ居た堪れない気持ちになるんだよ。
あと、キミの落ち込みボイス、無条件に「いいよ、許す!」って言いそうになるから本当ダメ。
私が。
あぁもー、ズルいわ。
顔も声も最上級なくせに、性格も歪みきれず危ういところで芯の真っ直ぐさを保ってるの、心底ズルいわぁー。
ちくしょー。
らしくない提案も、森に押し掛けて来た時みたいに、切羽詰まった心境に陥ってるせいだったりするのかね。
ガチで暴走間際で余裕がない、みたいな。
だとしたら、そんな乱心ギリギリの中でも、私が多少なりと不快にならない解決策を選ぼうとしてくれてるってことだよなぁ。
健気なヤンデレだ。
うっかり甘やかしそうになるから、罪悪感はどこか遠くで吐露してきて欲しい。
とはいえ、ボスの座がかかった戦いでわざと負けてやるなんて無粋な真似、絶対しないけど。
まぁ、そんなこんなで、間もなく現場に到着し、約束の十連戦が始まった。
そして、その初戦から、私は予想外の困惑に身を委ねることとなる。
この世界でいうモンスターは、主に動物が一段階以上凶悪に進化した生物を指す。
さらに、その中でも物理法則を無視した特殊な技能を一つ以上保有する存在を魔物と呼ぶ。
例えば、フライングソードタートルのあの飛行攻撃とか、竜なら属性ブレス攻撃とか、鳥系魔物にありがちな即座に何度でも生え変わる羽を連続で撃ち出すフェザーアタックとか。
そういう、前世なら有り得ない能力を持った生物たちね。
何で急にそんな説明を、と思うなかれ。
だって、ヤンデレ美男子が知らん間に魔物化してたんだもん。
いや、ついに暴走したとか、そういうんじゃなくて。
戦闘開始を宣言した途端、何か殺気を具現化して操り出した。
彼の放つ殺意のオーラが闇色と質量を持って、物体に干渉する力を得ている。
こわ。
なにあれ。
じっと見てるだけで病みそう。
一応、正気のまま思い通りに扱える能力みたいだけど、これ私が我慢させすぎたせいで発現したとかじゃないよね?
使い方のイメージとしては、自在に動く頑丈なロープって感じかな。
相手を拘束したり、周囲の木に張り巡らせて足場にしたり、罠にしたり、一瞬で編み込んで防御壁を作ることも出来るっぽい。
あと、麻痺って感じでもないけど、ソレに触れた瞬間、モンスターたちが例外なくビクッて跳ねてる。
しかも、次から必死にオーラを避けようとしている。
そのせいで大きく隙が出来て、そこをフェリクス本体に狙われ決着、というパターンが多く見られた。
こわい。
アレに触ると何が起きるの。
結局、彼はその新たな能力でもって、モンスターたちに完勝した。
してしまった。
もし、フェリクスが私に観察されること前提で隠している能力があったら、本気でヤバイのでは……?
元がオーラなら、ロープ状でしか扱えない理屈もないし、量だってもっと増えるかもしれない、実際の強度も不明だ。
一合で決着をつける心算のようだったから、確実に初見殺し系の技を使って来るだろう。
……マジでボス交代、有り得るかもしれない。
まったく、いちいち想定を越えてくる男だよ。
人の心を簡単に振り回してくれちゃって。
私ゃ毎日飽きる暇もないってーの。
でも、長年に渡り野生児やってきた影響かね……どうやら私、強い男は嫌いじゃないタイプだったらしい。
自分でも驚いてるけど、過去最高に女として胸の高鳴りを感じているんだ。
今にも笑い出しそうなくらいさ。
だから、アンタが最後の相手に私を指名してくれて、本当に良かったよ。
さあ…………死合おうか、フェリクス。
馴染みの斧を右手にぶら下げ、唇の端を歪めながら、私は絶世の美男子の眼前に歩み出る。
立ち止まるのは、約二十歩分離れた位置だ。
醜女の姿を視界に捉えた彼は、いかにも愛しそうに瞼を細め、静かだがよく響く声で何事か語り始めた。
「あぁ、リレイジア。
ついに貴女の全てが僕のものになるのだな」
恍惚とした表情で微笑む様子は、非常に耽美だ。
とはいえ、その内容は流せるものではない。
「……随分と余裕そうだねぇ、フェリクス。
妙な力を手に入れたからって、慢心してるようじゃあ、つまらないよ」
「リレイジアの強さは重々承知しているとも。
油断など出来ようはずもない」
「だったら、いいさ…………始めるよッ!」
刹那、弾丸の如く駆ける。
フェリクスが能力を使う前に、速攻でたたみかける作戦だ。
知力の高い美青年に考える時間を与えるなど、己の首を絞める愚行でしかないだろう。
戦闘経験では私に敵わずとも、こちらとは比べものにならない優秀な頭脳を有する男なのだ。
傲って相手の土俵に立とうものなら、悠々と流れを持っていかれてもおかしくはない。
だが、最初に定めたルールとはいえ、二十歩は遠かった。
完全に距離を縮めきる前に、森の全てが一瞬で闇色に染まり、視界が暗黒に閉ざされる。
同時にフェリクス自身もオーラを鎧化して纏い、本体の放つ臭いは途切れ、更に移動に響く音も気配すらも覆い隠してしまった。
やはり、先の戦闘では能力を制限していたらしい。
まぁ、ここまでハデな使い方が出来るとは、さすがに想定していなかったけれども。
攻撃行為には隙が生じるのが常だ。
相手を見失ったまま記憶頼りに斧を振るうより、カウンター狙いに切り替える。
足を止め、目を瞑り、如何様にも動けるよう構えた状態で、自身の戦闘勘を信じて、私はフェリクスを待った。
空間を支配する暗黒からは、普段彼が抑え込んでいる血の妄執が絶えず漏れ出し、耳を陵辱してくる。
また、素足に接触するソレは蛆のように蠢いており、生理的嫌悪感を催させた。
正直、気が狂いそうだ。
こんな悍ましいモノを身の内に飼って、何年も人間として在れるフェリクスのその精神力の強さに、今更ながら驚嘆する。
彼が私にフラれたら自死を選ぼうとしていた理由にも納得した。
コレに身を任せ世に解き放つなど、とんでもないことだ。
むしろ、私を伴侶とする程度の希望で、よくぞここまで制御できているものだと思う。
……しかし、彼の攻撃はまだだろうか。
さすがにこのまま私が疲弊しきるのを待とうなんて性格ではあるまい。
いや、そこまで行かずとも集中の欠ける瞬間を狙っているのか?
あまり長くこの空間に居たくないし、こちらから誘いを掛けた方が良いかもしれないな。
そう考えた直後、背から一歩のすぐ傍らに怖気が産まれた。
反射的に斧を振るいそうになるが、これはおそらく囮だ。
フェリクスの生真面目さを加味すれば、彼の現れる方向は高確率で……。
「正面ッ!」
何の気配もないソコへ刃を振り抜けば、確かな手応えが返ってくる。
だが、それは切り慣れた人肉の感触とは完全に別のものだ。
しまった、と頭で思った時にはもう遅かった。
「嬉しいものだ。
貴女は存外深く僕のことを理解してくれているのだな」
斜め上から伸ばされた二本の腕に、首をそっと掴まれる。
正面は正面でも、具現化したオーラ塊の上に立っていたらしい。
…………………………負けた。
辺りを包む闇が、急速に目の前に立つ男の体内へと収まっていく。
醜悪なソレを取り込んだというのに、彼の瞳は陰るどころか輝きに満ちて、眩しいほどだった。
あぁ、これが、私より、強い……雄。
元から絶世の美男子であるはずのに、ようやくその事実に気が付いたような不思議な心持ちだ。
胸の鼓動が早まり、それに伴って体温が上昇する。
己の性別が女であることを、明白に自覚させられてしまった。
視界の片隅で、勝敗の行方を確認したモンスターたちが騒いでいたが、今は私も美青年も、そちらに構ってやるような精神的余裕はない。
しばらく無言で見つめ合っていると、やがてフェリクスは私の首に添えていた手をゆっくり頬へ滑らせ、遠慮がちに指で撫で始める。
「……フェリクス」
そのまま一向に先に進もうとしないので、小さく名を呼んでやれば、彼はビクリと肩を揺らして固まった。
まるで、幸福な幻覚から醒めて驚愕したかのような表情だ。
緊張しているのか、実感が湧かないのか、動けない美青年の代わりに、私は彼の首に太い腕を回して形の良い頭部を引き寄せる。
「おめでとう、私はもうアンタのものだ。
身も、心もね」
美しい灰色の硝子に映る醜い顔面を喜色で歪めて、ウブな男の唇をそっと奪ってやった。
さすがに、初心者相手なので、いきなり濃厚なのをブチかましたりはしない。
「なっ、リ、リレ……っ!?」
けれど、その程度でも刺激が強過ぎたのか、数秒後、フェリクスは真っ赤になって震えながら口元を押さえ、次いで、目を涙で潤ませつつ一気に飛び退いて、私から数歩分の距離を取った。
ええ……?
そこはもっとこう、互いに抱擁し合って、もう一回とか言いながら、しばらくイチャイチャするものじゃあないのかね?
えっ、私がガッツキすぎなの?
何か、親のいない日に家に遊びに来た彼女を押し倒したら、全力で拒否された彼氏みたいになってない?
うそぉ。
普段さんざ煽るなだの触れたいだの主張してて、どうしてそうなる。
ようやくオッケー出たんだから、乙女みたいに恥じらってないでガッと来なよぉガッと。
ほぉら、フェリクスくん、念願の両想いだよぉ、怖くないよぉ。
っあ、地面にへたり込んだ。
ダメだ、こりゃ。
えーと、とりあえず、モンスターたち解散解散。
今日は、新しいボスからの働きかけは、もうありませーん。
また後日に落ち着いたら連絡するから、適当に周知だけしといてー。
元ボスの立場になっても一応まだ従ってくれるらしいモンスターたちは、私のジェスチャー指示によって、やれやれ感を醸しながら各々の集落に散っていった。
現お頭の番だと認識されたから、という面もあるかもしれない。
実際、今後は群れのナンバー2扱いになるはずだ。
いきなり皆から村八分にされても悲しいから、まぁ、これはこれで良かったやね。
元配下たち全員の背が森の木々に消え去るのを見届けてから、私はわざと足音を立てつつ、丸まる美青年にゆっくり近寄って行く。
ある程度まで距離を詰めたところで、名を呼ぼうと頤を開けば、その前にか細い美声が下方から醜女イヤーに飛んできた。
「……リレイジア、ひとつだけ教えてくれ。
僕は、貴女に勝利したか?」
「へ?」
「気絶させられ都合の良い夢を見ている、などということは……」
「そんなワケあるかい」
どうも、こっちからの急なアプローチに混乱しているらしい。
基本、つれない態度だったもんね。
いやぁ、私も負けて初めて惚れたもんだから……悪いねぇ、突然で。
「アンタが勝ってなきゃ、夢を見る間もなく死んでるよ」
「っあ、そうだ、確か……に?
え、では、貴女に、くちっ、口付けされたのも、現実……?」
「ああ、見事私を下したアンタが格好良かったから、ついね。
別にもう夫婦になったんだ、構わないだろう?」
「ふぁっ……!?」
なんで目ん玉おっぴろげて絶句してんの。
身分も名前も捨ててまで望んだことが叶ったんだよ?
もっと素直に喜びゃあいいのに。
ううん。
じゃあ、こういうのはどうだ?
人差し指を彼の唇に当てて、超至近距離で見つめ合いながらの、媚び媚び猫撫でボイスで、思わせぶりなセリフをひとつ……。
「ねぇ、ダぁーリン。
早く帰って、さっきの続き……しよ?」
あっ、死んだ。
起きるまで待つより、サクッと背負って帰還するか。
まったく、新婚早々、世話の焼ける旦那様だよ。
ふふふん♪