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13 お手本



「こちらはその条件で構わない」


 事前の予想通り、美青年は私の出した課題をすんなりと受け入れた。


「しかし、リレイジアは本当にそれでいいのか?」


 だが、次に投げられたのは、思いも寄らぬ問い掛けだった。


「……というと?」

「貴女は僕を異性として意識しても、ましてや恋情を抱いてもいないだろう」


 えー、やっぱり分かっちゃう?

 ていうか、意識してたら試練を課さずに一緒になるでしょ、女子高生、いや、常識的に考えて。


「あー……うーん、何と言えばいいのか……」


 腕を組んで悩む私を、フェリクスが真剣な眼差しで見つめている。

 下手な誤魔化しや茶化しは入れ難い空気だ。

 仕方がないから、真面目に答えよう。


「正直、全部忘れて帰ってくれるのならソレが一番嬉しいが、そんな結末は他ならぬアンタが絶対に許しちゃくれないだろう?」

「そうだな」


 だよね。

 微妙に食い気味に答えてくれなくても知ってるよぉ。


「フェリクスと数ヶ月暮らした今、最初の頃のような断固として拒絶する程の感情もなくなっていて……だからこそ、ここらでケジメをつけておくべきかと思ったんだよ。

 あんまり生殺し状態を続けさせるのも悪いしね。

 アンタみたいな強烈な恋心は生じないだろうけど、覚悟を決めりゃあ、私だって、家族としてなら、まぁ、それなりに愛してやれるはずさ。

 ただ、やっぱりどうしたって独りの方が心身共にメリットが多いモンだからね。

 そっちの頑張り次第で、最終的な結論を出すことにさせてもらったってわけだ」


 語り終えれば、美青年は迷い子のような不安げな表情で、手元のカップに視線を落とした。


「家族……」


 んー、ソコ気になっちゃう?

 やっぱ、目の中ハートにしてイチャラブするような関係じゃないとダメ?

 でも、条件は飲むって言ってるしなぁ。

 あっ、もしかして、アレか?


「心配せずとも、夫婦としての身体的接触もちゃんと視野に入れてるよ?」

「はぁっ!? っちが、違う!

 そんなことは考えていない!」


 真っ赤な顔で怒鳴られてしまった。

 いや、てっきり、弟扱いだったら嫌だなーとか、そういう悩みかと思ったんだけど。


「リレイジアの言う家族という関係に想像がつかなかっただけだ!」


 っあ。

 あぁー、そうか。

 お貴族様なご実家じゃあ、冷遇されてたんだもんね。

 恋愛どころか、一般的な親愛の情も受けて来なかった美青年には分かりにくい例えだったか。

 ごめん、ごめん。


「っとにかく、軽はずみに男を煽るような発言は慎んでくれ」


 は? 煽ってねぇーし。

 いったいナニを妄想したのか教えてくれよ、青少年。

 ホント十代のエロ判定ガバガバだな。


 こっちとしては、お互いの想定してる未来像に齟齬があっちゃいけないから、その辺の認識を真面目にすり合わせたかっただけなんですけどぉ?


「……まったく、僕の我慢も知らずに」


 おい、聞こえてんぞ。

 眉間に皺を寄せるなっての。


 アンタが見かけによらずムッツリ助平野郎なのは、よくよく存じ上げておりますが?

 んんー?

 ほぼ毎晩、下のフェリクスくんと仲良くしてるのに、昼日中にもコソコソしてる時あるだろ。

 全部把握してんだよ、醜女イヤーは地獄耳だからな。

 まだ多感な年齢であろうことを考慮して、生理現象だし仕方ないって気を遣ってやってんの。

 コレで私が前世三十代でそれなりに相手がいた転生者じゃなかったら、いくら美形でも、とっくにキモがられて距離置かれてたからな。

 さっき、生殺しは悪いからってハッキリ言ってやったのに、どう改変して受け取られたんだか。


「アンタが一人で煽られてようが知ったこっちゃないけどね。

 殺さずに圧倒するって条件、まさか忘れてやしないだろう?

 今のままじゃ到底達成不可能だってことは、自分自身が一番よく理解してるんじゃないのかい。

 挑戦は一度きりだ……負けてゴネたからって、お情けくれてやるほど私ゃ甘かないよ」


 難易度を前世の何かに例えるなら、ピカピカの高校一年生にいきなりインターハイで優勝しろと言ってるようなものだ。

 ただし、彼には確かな才能があり、現状でも運次第で地方予選を勝ち抜ける程度の実力はあるものとする。

 もちろん、上位に君臨する超高校級の生徒には全く敵わない。

 三年たっぷりあるならまだしも、一年が期限ではかなりキツい。

 相当に厳しい条件だ。

 本気で私を娶る気があるなら、美青年はこれから一分一秒だって無駄に出来ないはず。


「っリレイジア、忠告感謝する」


 睨みつつ放った私の迂遠な発破に反応し、急いた様子で席を立つフェリクス。

 作戦を立てるか、体を鍛えにでも行くのだろう。

 そのくせ、律儀に昼食後の食器を運んで洗おうとしていたので、少々強引に代わってやって、追い出すように外に向かわせた。


 結婚どころか、自分の命がかかってるってのに、冷静さを捨てきれないあたり難儀な男だ。

 いや、己の死に一切の恐怖を抱いていないからこそ、危機感も何も足りないのか。


 シンと静まり返った小屋の中、皿やカップの浮かぶ桶に手を入れながら、水面に小さく呟きを落とす。


「……せいぜい努力しな」


 酷い条件を課した当人のセリフじゃあないが……やはり、アンタを殺したくはない。





 試練の宣言から、二ヶ月が経った。

 睡眠時間は削っても、相変わらず家事の手は抜かないところがフェリクスらしい。

 彼が家を空けることが増えたので、私としては、改めて独りの気楽さを満喫させてもらっている。

 食後の会話もそこそこに森へ行かれようと、別に寂しくなど感じてはいない。


 うん、はい、ごめん。強がった。

 やっぱりちょっと寂しい。


 これまでの約半年、ずっと、おしゃべりに興じてたんだ。 

 急になくなったら、そりゃ、物足りなく思ってしまっても仕方ないだろう。

 だからって、鍛錬の邪魔をするつもりは毛頭ないけどね。



 ある日の朝食後。

 すぐに外へ飛び出していく美青年には珍しく、椅子に深く掛けたまま神妙な顔で私を見つめてきた。

 何かを言おうと唇を薄く開いて、しかし、声が紡がれることはなく、再び閉じた状態に戻ってしまう。


 その絶世の美男子ぶりで悩まし気な表情を浮かべてパクパクされると、無駄にエロティックだな。

 雰囲気に負けて私が変なセリフを口走る前に、さっさと語る決心をして欲しい。


「……リレイジア、恥を忍んで頼みがある」


 おっ、ようやくか。


 はて?

 今の状況で頼みとな。

 達成が無理そうだから条件を緩くしてくれ、なんて交渉には応じないよ?

 まぁ、美青年の性格上、ソレはなさそうだけど。


「ふむ。まずは内容を聞いてからだな」


 正面から視線を合わせて続きを促せば、フェリクスは往生際悪く数秒逡巡した後、ようやく喉を震わせる。


「一度だ。一度だけでいい。

 貴女が自らの配下と闘う姿が見たい」

「……私が?」


 おおん?

 ちょっと予想外な話が来たな。

 ていうか、前、愛する人に暴力を振るうなんて無理ぃなんて言ってたけど、自分の指図で私をモンスターに(けしか)けるのはいいの?


「理由は」


 ありゃ、俯いちゃった。

 なんじゃらほい?


「……僕ではまだ、彼らを攻略する道筋が見えない」

「はっはぁん、なるほど。参考にしたいってわけか」


 これこれ、フェリクス。

 あまり強く手を握り込むでない。

 血が出ちゃうぞい。


 賞品の助力を乞おうなんて、中々柔軟な発想力じゃないか。

 私ゃそういうの嫌いじゃないよ。

 つまらないプライドや思い込みが邪魔をして、最適解にたどり着けないヤツってのは多いんだ。

 比べりゃ、アンタは上等さ。

 よっぽど人道に(もと)る行いは除いて、使える手段は何だって使えばいいんだよ。

 どうせ、ホモ・サピエンスが単独で出来ることなんて、限界があるんだ。

 我々が群れるを前提とした種族だってこと、忘れちゃあならん。


 ま、森に特化した野生み溢れる闘い方を見学したところで、ちゃんと利になるのかは知らないがね。

 個人的には、本気で土下座する覚悟で望むなら、直で指導してやってもいいぐらいなんだけど。

 さすがに彼の性格上、そこまで図々しくはなれないか。

 たったこれだけお願いするのだって、相当苦悩してるっぽいし。


「よぉし、いいだろう。

 今日の仕事を終わらせたら、さっそくアンタと相性の悪そうな奴から何体か見繕って、模擬戦といこう」

「えっ」

「どうした」


 あっさり了承されて驚いたかね?


「……あまりにも厚顔な願いだ。

 たとえ受け入れられたとして、近辺で遭遇した適当なモンスターを軽くあしらって終わり、でも、仕方がないと思っていた。

 それなのに、わざわざ貴女は相手を複数、それも厳選してくれると……」


 いや、とんちでざまぁする小僧じゃあるまいし、そんな底意地の悪い真似するかって。

 私のこと、一体どんな目で見てんだよぉフェリクスぅ。


「求婚にそう前向きでもない身で……リレイジアは優しすぎる」


 あーはいはい。

 お前、すぐソレ言うよな。

 ことあるごとに優しすぎる優しすぎるってさ。

 単純に、今までアンタが酷い人間に囲まれすぎてただけで、私の慈悲心は普通以下だぞ。

 可哀想なヤツめ。


「あまり期待を持たせるような真似はよしてくれ、今だって魔物の血は僕の中で暴れ続けているんだ。

 約束の日を待たずして、貴女を強引に我が物とするような真似はしたくない」


 おやおや、坊やめが吠えよるわ。

 未だ配下も(くだ)せぬ身で、やれるものならやってみろ。

 私は逃げも隠れもせん、正面から返り討ちにしてやるのみよ。


 ……って、美青年はそんなつもりで発言したわけじゃあないってぇのよね。

 あくまで、私を傷付けたくないってのが、彼の主題であってね。

 自分の方が強い的なマウント取られた気分になって、ついつい、(ぬし)の顔が出て来ちゃった。

 てへぺろっ☆

 キモい。醜女、自重。


「私は私の理屈で好きなように動くだけだ。

 仮にアンタが暴走しようが、どうせ歯牙にもかけやしないさ。

 起こり得ない未来を憂うなんて、まったくバカバカしい」


 腕を組んでふんぞり返ってやれば、フェリクスは灰の瞳を煌めかせ自身の両手の指を絡めて、私を熱く見つめてきた。


「あぁ……さすがはリレイジア」


 もういいよ、さすリレは。

 自分が雑魚って言われてるも同然なのに、怒るどころか感激してるの頭おかしいでしょ。

 エムの国の人なの?

 あと、その無駄にキラキラ光る穢れなき虹彩をどうにかしてくれ。

 私の薄汚れた目には眩しすぎる。




 まぁ、そんなこんなで昼過ぎにはサクっと本日のお仕事ノルマを終わらせて、フェリクスと二人、テリトリー内を進んでいた。

 私はいつもよりペースを落とした雲梯移動をしていて、美青年が髪を靡かせながら必死に木々や岩等を避けつつ走って追いかけてきている状況だ。


 うん、ちょっと……うん。

 半年以上も森暮らししててまだこんな程度じゃあ、強化に苦戦もするわけだわ。

 そもそも平地で習った戦闘術を、そのままここで使おうってのが間違ってるんだよね。

 もっとこう、自然って存在と一体化しなきゃ。

 木が、その蔓や根が、落ち葉が、草花が、石や岩が、起伏ある地面が、泥沼が、邪魔だと思ってる内は、立ちはだかる壁は破れない。


 うぅん。

 ちょいと、その辺りを分かりやすく闘ってやるとするか。

 人間だてらにボスやってる醜女の実力、目ん玉かっぽじって、とくと御覧(ごろう)じろってな。



 よぉし。

 まずは、フライングソードタートルからだ。


 生息地の水辺に到着すれば、ボスのお出ましにゾロリと大亀たちが出迎えた。

 ゾウガメサイズの彼らは、名前の通り、甲羅に無数の刃を生やしている。

 攻撃時は手足を引っ込めて、フリスビーやブーメランのように高速で横回転しながら空中を飛びまわるのが基本スタイルだ。

 一度に十五秒ぐらいが限界らしく、その弱点を補うためか群れで生活しており、一度戦闘に入れば息をつく暇もなく亀たちから襲われ続ける。

 生半な防具など用意したところで、装備も本人もまとめてブッ壊されるのがオチだろう。


 事前に鳥をやって知らせておいたので、皆きちんと()る気で待ち構えてくれていたようだ。

 美青年が彼らの物騒なオーラの余波を浴びて、模擬戦じゃなかったのかと一人で狼狽えている。


「フェリクス、その木から先に出るんじゃないよ。

 アイツらにミンチにされたくなかったらね」


 前方から順に甲羅に体を引っ込めて、亀たちが攻撃態勢に入っていくのを黙って見守りながら、私は振り向きもせずに背後の観戦者へ注意を促した。


「それじゃあ、行ってくる」

「ま、待て、リレイジア。

 なぜ斧を置いていく、危険だろうっ」

「なぜって、決まってるじゃないか。

 素手で十分だからだよ、ぼ・う・や」


 進む足を止めないまま、心配性な絶世の美男子へ言い放つ。

 数匹の亀が地面から射出される寸前、首を僅かに回して横目でチラと確認すれば、フェリクスは苦し気に胸元を左手で掴み右拳を木の幹に当てて、ゆっくりしゃがみ込んでいくところだった。


 いや、何やってんだ、お前。

 ちゃんとこっち見てろよ。

 当人の目のないとこでバトっても意味ないだろ。

 なに、今の坊や呼びで下のフェリクス君が元気にでもなっちゃったの?

 ドのつくエムなの?


 思わず彼を二度見すれば、それを隙と取ったのか、フライングソードタートルたちの猛攻が始まった。

 避けると美青年に直撃しそうなルートで飛んでくる奴が一体だけいたので、タイミングを見計らい適当に拾った石をぶつけて進行方向をズラす。

 そこで、庇われたことに気付いたらしいフェリクスが、ハッと顔を上げ、気まずげな表情で起立した。 

 彼がようやく当初の目的を思い出し真面目に見学し始めた頃には、私はもう亀集団の中央付近まで足を踏み入れていた。


 さぁ、最初のレッスンといこう。


 さっきブーメランやフリスビーに例えたように、彼らはけして急な角度で曲がってきたり、唐突に静止したりはしない。

 謎の力で飛んでいるくせに、妙なところで物理法則から逃れられていないのだ。

 あと、亀たちの連携は中々のもので、彼らは絶対に互いがぶつかるようなコースでは攻撃してこない。

 ある程度パターンを覚えてさえしまえば、刃の当たらないギリギリの位置で躱す、なんていうテクを身につけるのだって、そう難しいことではないだろう。

 日本で鬼畜な弾幕ゲームに慣れ親しんでいる人なんかからすれば、イージーモードもいいところだ。

 軌道法則さえ理解すれば、連撃を避けつつ岩や木にぶつかるよう誘導するぐらいは、すぐ出来るようになる。

 あ、ぶつけたら当然、破片が散るから、それもちゃんと気を付けるんだぞ。


 私レベルになると、こうして考え事をしながらでも回避余裕のよっちゃんイカってもんよ。

 フェリクスみたいな未だ地面しか歩けない未熟者と違って、十数秒なら木の幹に垂直に立てちゃう野生児ガチ勢であるからして、逃亡空間も無限大だ。

 枝を掴んで鉄棒競技のように回転してみたり、しなりを利用して跳躍したり、木の幹と幹の間隔が狭ければ開脚状態で踏ん張り高所に留まってみたり、蔓でターザンごっこしてみたり、選択肢はいくらでもある。

 高貴なお坊ちゃまと森の醜女じゃあ、どう足掻いても年期が違うわ。


 相当な腕力か、それなりの武器がありゃあ、野球みたいに直接叩いて落としてやってもいいんだけど。

 討伐が目的、かつ、動体視力が良ければ、甲羅の穴を狙って槍的な長物を突き入れてやるのも有りだ。

 ま、回転しながら飛んでくるゾウガメサイズのモンスターを迎え撃つのは、さすがに常人には難易度が高いやね。


 その他、攻略の一助となりそうな情報なら、奴ら攻撃中は獲物を主に視界じゃなく熱で感知してるから、泥を体に厚く塗ったくって表面温度を下げれば、大幅に命中率が下がるってのがあるね。

 ちなみに、戦闘時は常に視野を広く持っておかないと、空中にばかり気を取られて、うっかり足元の亀に噛みつかれたり、甲羅や折れて散らばった刃を踏んづけて怪我したり、なんてドジもやらかしかねないから注意が必要だ。

 っていっても、フェリクスの場合は一対一を十連戦だから、集団相手の戦い方なんて今は覚える必要もないんだけどさ。


 さて、彼に学習させるための不要な回避行動はここまでにしておこう。

 次の段階に移るぞ。


 この種の無力化ってのは簡単なんだ。

 亀はゴロンとひっくり返されれば、そうそう自分じゃ起き上がれない。

 特にコイツらは、甲羅に生えてる刃が自重(じじゅう)で地面に深く突き刺さってしまうから余計にだ。

 フライングソードタートルというモンスターの死因として、逆さ状態から戻れず餓死というのは、けして珍しいものじゃあない。

 まぁ、飢えるより前に他のモンスターから襲われることもあるが……一応、死ぬまでは群れの仲間が守っているし、安全な場所まで運んで食べるなんてこともできないから、割合としては少ないかね。

 私も、何度、諦めの境地でジッと死を待つばかりの亀を助けてやったことか。


 そもそも、どうして危険と分かっていて彼らは大岩を登りたがるのか。

 日向ぼっこがしたくて?

 知るか、もっと命を大事にしろ。


 着地前は分かりやすく速度と高度が落ちるから、それに合わせてケツを蹴り上げてやりゃあ一発で終わりだ。

 重量があるし、予想される着地地点に先回りして、甲羅から手足が出てくるまでに、適当に支点になりそうな石と太い木の枝か何か設置して、てこの原理で転がしてやってもいいかもね。

 私レベルになれば、飛んできた奴の腹の下に手を入れて、回転に合わせて手首にスナップをきかせつつ、遠心力に逆らわずカーブを描くような軌跡で持ち上げていって、同時に腕をひっくり返して、地面に仰向けで置いてやる、なんてことも出来る。

 真似して素手や素足で対応すると、普通の人間は皮どころか肉まで擦り切れかねないから、直接触れないで武器でも拾った石でも何でも使った方がいい。


 ひっくり返す以外の方法としては、三時間も避け続ければ、亀たちが先に疲れて水の底に逃げ帰ってくれるから、体力と集中力が保てる者にはオススメだ。



「はい。これで、制圧完了。

 ちゃんと参考になっていれば良いんだが」

「……ならぬわけがない。

 本来はもっと早々に決着がつくところを、わざわざ、僕のために時と手間をかけてくれただろう。

 リレイジア。貴女はやはり、優しすぎる。

 都合の良い解釈に溺れたくなってしまうので、程々にしてくれ」


 ちょっとぉ。

 なんで親切にしてやって、注意で返されなきゃならんのだい。


「だが、今に限っては心から感謝しよう。

 貴女の温情を無駄にするような真似はしない。

 (きた)るべき日には、必ず伴侶となってみせる。

 期待して待っていて欲しい」


 そういうのは、いらないです。


 しかし、類稀な美形男子にキリっとした顔で見つめられると、破壊力が無駄に高いな……。

 イケメンなんて軽率な感じじゃないんだよね。

 芸術品みたいな格調高さがあって、でも、オーラというか、生命力的なものが強いから人形っぽく見えるわけでもない、あくまで生き物としての美しさなんだ。


 そんな美形の青年に、待ってて欲しいなんて言われちゃってぇ。

 まるで魔王討伐の任を負った勇者と恋仲にある姫君にでもなったみたぁい。

 なんつって。

 おえっ、想像して気分悪くなった。

 姫コスの○ジモドとか、完全にGの方のR18案件だわ。


「おやおや。

 泣きついてきた割にデカい口を叩くじゃないか、フェリクス。

 そういうセリフは、もう少し勝利の芽を育ててから言うもんさ」

「確かにそうだな、すまない。

 リレイジアの華麗な舞に、少々高揚させられていたようだ」


 ほっほー。

 お前の目玉の恋フィルターは、今日も絶好調でごぜぇますなぁっ。


「……まぁ、いい。

 さっさと次に行……く前に、ひっくり返ったソードタートルを元に戻してやらないとダメだな」

「なるほど、手伝おう」


 拾いかけた斧を指から落として、美青年を背に連れ、水辺へUターンする。

 地面に刺さる刃を上手く引き抜けず苦戦しているフェリクスを尻目に、私はサクサク亀たちを救助していった。


 うーん。

 あのねぇ、フライングソードタートルくん。

 君たち、どうもありがとう尊敬しちゃうなぁみたいな顔してくるけど、やったの私だからね。

 今、完全にマッチポンプ状態になっちゃってるからね。

 それと、模擬戦のお礼は後日改めてするから、忘れないで覚えていてね。



 しかし、思ったより時間食っちゃったな。

 最初の予定から変えて、あと二ヶ所だけ周ることにするか。

 対空戦闘を教えてやりたいから怪鳥オモロスは外せないとして、最後をどうするかだなぁ。


 んー……。


 独りで悩むより、本人の希望でも聞いて臨機応変に行けばいいかぁ。

 よーし、とりま、ネクストチャレンジだ。

 ゴーゴー、レッツゴー。





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