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Sの旅物語【完結済み】

「淡い流星群」S2

作者: なみのり

ホラー注意?

私は旅の途中、とある酒場に寄っていた。時刻は夜中。その街は随分寒い所で、白雪が煌めく。そこは丸太組の家が立ち並んでいて、その酒場もそんな丸太を多いに活用した、暖かな雰囲気の場所だった。


そんな店の暖かな雰囲気とは逆に、私が外の駐輪場にスカイブルーのバイクを置き、酒場の中に入った時から、人々は少し騒々しかった。どうしたのかは想像出来ているが…


私は真っ黒なホットチャイを少し口に含んだ後、海のように真っ暗な目を動かし、人々を睨めつける。大体の人が、居心地悪そうにそっぽを向いて、知らないふりをしている。


…どうせ1人で探すしかないのだ。それにアテはある。


私は最後まで私の目の奥に揺らめく緑の光で威嚇しながら、その酒場を後にした。



目的地は、小山の頂上だ。

そこで起きる流星群を見た人々が、相次いで幻覚症状を訴えているそうだ。

だが、私はその噂のみをたよりにこの街に来たのではない。

私の目がさわさわと囁くのだ。なんと言っているのかはわからないが、頭にずっと囁いてくる。そしてこの情報を聞いた時、そのざわめきが最も大きかったから。それが私がここに来た理由だ。


小山の頂上といっても公園のような場所で、バイクでそのまま行くことが出来る。しかし、粉雪が降ってきているし、体やバイクに積もっていくと、体力はじわじわと減っていく。滑りやすくもなっていてとても危険だ。しかし、行かなくては行けない。何故かはわからないが、私は使命感のようなものと、認めたくないある感情に突き動かされていた。



私がなんとか小山の頂上まで来ると、空は一部が晴れてきていて、様々な輝きを放つ黒が基調の夜空が見えた。星の一つ一つが生き物の神経のようで、宇宙の鼓動がこちらにも伝わってくるようだ。


流星群までもうすぐだ。

私は保温瓶にいれた暖かいスープを、分厚いグローブをつけたまま飲み、気を落ちつける。

と、その時。空の一部が真っ黒に染まる。本物の深淵があれば、こんな感じだろうか。ずっと奥にも続いているような、すぐ目の前に壁があるような、不思議な感覚だ。この感覚は、以前感じたことがあるものに似ている。


私は身構え、そこをじっと見据える。次第にその深淵から、流星群どころじゃない、大量の黄色い光の束がこちらに落ちてきて、小山を完全に照らす。まるで昼のような、いや、それ以上の、雷の衝撃とオーロラの光をあわせたみたいな、この世に在らざるようなエネルギーの束だ。


私は目を凝らして、光の中心を見据えようとする。

ふと、何処からか鳴き声が聞こえだした。


(誰かいないの!)


近くに子供でもいたのだろうか?今すぐ行ってあげたいが、辺りを見渡しても誰もいない。それで私は、これはヤツらの罠だと思った。


(暗い…怖いよ…)


少しずつあちらの世界に引き込もうとするなんて、あの時と同じ手段だ。

私は、勇気をだして声を挙げる。


「私はここいるわ!でも、ここはあなた達の来るところじゃない!早く帰って!」


その声に呼応するように、山彦かなにかのように、声がだんだんと迫ってくる。


(そっちに行くね!)


光がどんどん強くなり、私は目を伏せてしまう。しかしそれでも、体に高熱のよなエネルギーが伝わってくる。


そしてそれが…止んだ。


ただ策も考えずに接触するなんて、無計画にも程があった。私はあちらに連れていかれてしまったのだろうか?恐る恐る目を開けると、そこはさっきと何も変わらない、ただの小山だ。


と思ったら、足元に何かの生き物がいた。


「あなたは…なに?」


淡い光を放つそれは、白い幕のようなものを引きずった白い小動物で、まるでエイリアンのようにも見えるが、小さな丸い目と口に、光を放つ尻尾。あまり敵対的な感じではない。


小動物は、私の質問に首を傾げる。さっき私に声をかけたのもこの生き物だろうか?

この生き物は本当に存在が淡いようで、なんだか空気に溶けてしまいそうな勢いだ。


「ハズレかな…」


私はずっとあの時海に浮かんだ事件に憑かれて、それに似た事件を追っていた。別にあちら側の世界に行きたい訳では無い…と自分に言い聞かせてきたが、実際はかなり興味がある。

とにかくこの目のせいで普通な生活が出来なくなってしまったのだ。今は次の目的が決まるまで好奇心でそれを追っているだけ。


今回の件は、あちら側に誘われると言うより、あちら側がこちらに来ようとしていたのだろうか?その結果がこの奇妙な生物なのかも知れない。

あちらに行きたい私と、こちらに来た淡い生物。


「私たち、似てるかもね。」


謎の生き物は、首を傾げるばかりで、意思の疎通が出来ているかはわからない。


「一緒に行こうか?」


聞いてみると、その生き物はなんだか嬉しそうに体を揺らした。


私はその生き物の体を布で包んでやると、スカイブルーのバイクに乗って、次の目的が出来るまで、旅をつづけることにした。

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