第7話 誓い①
「ねえ、一度家の中に帰ってみようかしら。もしかしたら、シルトリス様が戻ってきてるかもしれないわ。」
「そうですね。じゃあ、帰りましょう。」
帰り道、私もメイドも、一言も話さなかった。いや、話せなかった。言葉なんて出てこない。ただ、
(怖い……なんか出てきそう……)
うちの庭には灯りはあまりなく、私たちが行く道を照らすのは、出てくる時に持ってきたランプと月の光だけ。それに加え、吹き始めた風が庭に植えられた多くの植物を吹いて、ザワザワと音を立てている。ホラーの世界でしょ。絶対何か出てくるもん。
しばらく行くと、耐えられなくなったのかメイドが口を開いた。
「リ、リノア様……大丈夫ですか?」
「大丈夫……と言いたいけど、少し気味が悪いわね……」
「ですよね……」
また2人して黙り込んでしまう。早く家の中に入りたい。てか、さすがにこれなら彼だって中に入ってるはず。生意気とはいえ、まだ子どもだし。なんて考えてるときだった。
『ヴォーーン!!ヴォーーン!!』
うめき声のような鳴き声とともに何かが私たちに現れた。暗くて形しか分からないが人と同じぐらいの大きさがある。
「何!?てか、痛っ!!」
驚いた反動で、私はピアスを持ってることも忘れて、手を強く握ってしまった。やっぱりピアスは普通のと同じなんだな。なんかずっと痛いし。血とか出てるんじゃないかな。
思えば、それが私の不幸の始まりだった。手を開くと、ピアスの先は指に刺さっていた。そりゃ痛いはずだ。指に刺さったピアスと同時に、私はもう1つのものを見た。
「リノア様!!ダメです、見ては!!」
遅いよ……見た、いや目に入ってきたもの。それはちょうど月の光を反射したピアスの光だった。確かに目も痛くなった。でも、
「なんだ……心配されるほどじゃないじゃん。」
しょぼしょぼするだけ。ちょっと痛い程度。
「大丈夫。痛くなんかないし。」
「リノア様……その話され方……」
「話し方?……あ、いや、その。」
やばい。驚きすぎて口から出る言葉まで前世の私と同じような口調に……今まで前世の記憶があるってバレないように気をつけてきたのに!!
「あなたの気のせいよ。」
「そう、ですか?」
「えぇ。それより……あら。なんだ、シュードラだったのね。」
私たちの前に現れたのは、父の大切にしている猟犬のシュードラだった。逃げ出してしまったのかしら?
「よかった。」
「……あの、リノア様。それよりも……さっきの光、ご覧になりましたよね?」
「見たけれど?」
「っ……分かりました。じゃあ、帰って報告しないと……」
「報告?なんの?」
「それはその……」
『俺のピアス。』
「え、シルトリス様!?よかった、見つかって。」
「そんなことどうでもいい。」
どうでもいい?は?こっちはどんだけ探したと思ってんのよ。
「まさか、見たのか?」
「見たって……光のことですか?」
「ああ。」
「見ましたけど……」
「ちっ……」
なんなのよほんとに。光を見ることが悪いってゆーの!?
「とにかく、早く戻りましょう?私、早く食事したいわ。」