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8.エピローグ

 ここは帝都の帝城前広場。日は中天を過ぎ、人影は少ない。仕立ての良い服を着た一人の少年が大神殿前の石像の前に立っている。少年は「やっと抜け出せたな。」と言って伸びをする。


「これが新しくできた救済者の顕彰碑なのか。気にはなっていたけど、色々忙しくて城から抜け出せなかったからなぁ。」

 一人の勇者の立像と、その背景に浮彫になった一柱の神の姿がそこにはあった。勇者の足元には台座の一部として、切り倒され、端から溶けだした死の怪物が表現されている。

「うーん、勇者はこんな役者みたいな顔はしていなかったよねぇ?死の怪物もこんな泥人形じゃ本当の恐ろしさは伝わらないんじゃないかなぁ?あと神様は・・・これ位で良いかな、あんまり怖いと大神殿に子供達が来なくなりそうだし。まぁ、問題は顕彰碑の文言だよねぇ?」

 顕彰碑の周りをぐるぐる回ったり、背伸びをしたりしゃがんだりしながら、ぶつぶつと独り言を言ってから、少年は顕彰碑の背景、神の姿の両脇に刻まれた言葉を読み始めた。


「・・・ふむ、悪くないね。結びの言葉も紋切り型だけど、人々の心を打つよね。『救済者はかく語りき、そしてその様になりき。』・・・きっと今生きている人達が亡くなった後でも、説得力は失わないよね・・・」

 少年は何度も頷く。と、いつの間にかその背後に長身の男が立っていた。


「宰相閣下、書記官も居ないのですから、口述筆記のように思ったことをそのまま話さなくても良いのですよ?」

「え?あっ!書記局長?いや、これは、その、出来上がった顕彰碑が、後世にちゃんと真実を伝えてくれるか確認しようと思ってだね!」

「ええ、そうでしょうとも、人の世の行く末を考えるのは大事な事ですね。」

「そ。そうだろう?」

「ですが、それは新しい総大司祭長様がご覧の通り立派に成し遂げられました。閣下にはまだ決済をしていただかなくてはならない問題がありますので、さあ、宰相府に戻りましょう。」


 少年――転生した官僚の成れの果て――が飛びのく。

「い、嫌だ!せっかく城の外に出られたんだ、私にも帝国法の認める休養が与えられてしかるべきだ!」

「閣下・・・中身を知っている私に子供っぽく振舞っても何の効果もありませんよ?」

「もう若返りも転生も無くなったんだ!生まれ変わっても毎回々々お役所仕事ばっかりで、逃げ回っても無理やり宰相にされ続けて来たんだ!私の子供時代はこれが最後になる!私だって城下の子供たちに混じって”兵士と泥棒”ごっこをする日があってもいいはずだっ!」

「閣下・・・一度の転生で一匹の死の怪物が生まれ、その度に多くの人々が傷つき、亡くなってまいりました。知らずに行っていた事とはいえ、閣下の辞職願は議会と民会の双方に却下されております。」

「私も知っていることを改めて言わなくてもいい!己の為すべきことなら分かっている!でも、頼むよ、今日一日で良いんだ。私を人間に戻すのに協力してほしい。・・・お願いだ。」


 長身の男は空を仰いだ、そして思う。帝都の空は高く青く、そして埃っぽい。この蒼穹の上か、それとも果てからか、今でも神々は私たちを見ているのだ。

「・・・分かりました、この問題は我々が天秤の前に立つ迄の長期的視野をもった計画が必要なようですね。まず本日は私が城下をご案内しましょう。」

「い・・・いいのか?」

「ええ、城下に居る間は私が”年上”としてあれこれとお教えするのも面白そうですし。」

「私の方がずっと年上だぞ?」

「でも、今の城下はご存知無いようです。今時の子供は”騎士と怪盗”ごっこはしても、”兵士と泥棒”ごっこはしませんよ。」

「名前が変わっただけだろう?」

「閣下はおっしゃいましたね『神々は細部に宿る』と、子供の遊びも同じです。些細に見える違いが結果に大きな影響を与えるのです。」

「むむ。なにやら面倒くさそうだな?死の怪物から解放されれば世の中はもっと簡単になると思ったが。」

「閣下はおっしゃいましたね『一つの問題が解決したという事は、新しい問題が発生したという事だ』と。」

「むむむ。確かによくそう言ってきたが・・・。」

「さて、日が暮れる前に城に戻るには急がないといけません。閣下はおっしゃいま・・・」

「わ!分かった!言う通りにしよう。宜しく頼む。」

そういうと少年は大通に向けて駆け出した。


 少年を追って歩き出した男は呟く。

「さて、死すべき定めがあっても人生はまだ残っている。閣下が神々の怒りに触れて死ななかった理由も分かる時が来るのでしょうか?」

 その声を聴く者は神々の他には居そうもいなかった。

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