7.救済者はかく語りき、そしてその様になりき。
「救済者はかく語りき、そしてその様になりき、まる、っと」
ここは昼下がりのファミリーレストラン。私が赤鉛筆を四百字詰原稿用紙の脇に置くと、目の前で身悶えしながら呻いていた勇者・・・じゃもうなかった、桑原さんが顔を上げた。
「うう~恥ずかしい~。善村さん、校正有難うございました。」
「いえいえ、昔取った杵柄です。なんだか懐かしいですね。といっても私のは電子機器のユーザーマニュアルの校正経験なので、後でちゃんとした人に見なおしてもらった方が良いですよ。」
「いえ、なんというか、その場のノリで書いてた忘備録を仕立て直しただけだったので、見違えるように良くなりました。有難うございます。」
「それにしても、こんなことをしなくても、”向こう”でもらったご褒美があれば暫くどころか当分の生活はなんとでもなるように思うのですが。」
「いや~それが、税務署とか厳しくて、半分以上持っていかれましたし。なんでか知らない・・・というか知らないままでいたいんですけど、外務省の人までやって来たんですよ、もうびっくりですよ。」
「はあ、外務省?・・・わたしも聞かなかった事にしますね。」
「それが良いと思います。」
砂糖とミルク、それにガムシロップまで入れたコーヒーを前にした桑原さんは、育ちのよさそうなのほほんとした顔をしている。まるで抜き身の刀そのもののようだった勇者とは別人のようだ。
「善村さんは、その後どうですか?」
善人顔っていいなぁと思って彼の顔を見ていると、そんな事を聞かれる。
「そうですね。”向こう”であの怪物をみた後だと、自分の顔なんて何の気にもならなくなりましたね。ずっと自分の顔を気にしていたのが莫迦々々しくなりました。”向こう”の神様にも遭えたので、こちらにも神様や仏様がちゃんと居ると信じられるようになりましたし、それが一番嬉しいですね。」
桑原さんは、目を見開いて瞬きをしてから屈託のない笑顔になった。
「いや、最近の仕事とか聞きたかったんですけど。」
「おお、仕事ですか?代り映えしませんね。相変わらずの悪役三昧です。」
「会社の方から今回の結果について何か言ってこなかったんですか?」
「ええ、まったく何も。やっぱりあの仕事が”向こう”がらみだったのは会社も知らなかったのではないでしょうか?」
「本当かなぁ?もしも何かあったら連絡くださいね。善村さんには若くて力持ちの友人が居ることをお忘れなく。」
「力持ち?もしかして・・・」
「引っ越しとかには便利ですよ?バイト先では社員になってくれって泣いて引き留められました。」
「うーん、まぁ桑原さんなら大丈夫ですね。平和な日本に感謝です。」
「そんな事言って・・・善村さんは帰ってきてから試した事無いんですか?」
「は?試す?あの物騒な力は、”向こう”の神様の力なんですから、日本で使える訳が無いでしょう。」
「え?まぁ・・・確かに、ごもっともです。すいません。」
「まあまあ、謝られる事でもありませんよ。怒ってもいませんから、」
慌てて美容師さん直伝の超必殺技、左右対称スマイルを使用する。この年で新しい友人を得るなど僥倖以外の何ものでもないのだ。桑原さんは大事な友人、これ大切。
「それではまた今度。続きが整理できたらまたお願いします。」
桑原さんはそう言って帰って行った、帰り際に伝票を奪われそうになったので慌てて確保すると、プレゼントだと言って二つのペンダントを置いて行った。私と母の二人分の健康のお守りだとか。小さいが中々洒落たデザインで、”向こう”で健康と長寿を司る神様のシンボルが組み込まれている。
なんだか心が温かくなったような気がする。今日も母の好物を買って帰ろう。
とりあえず、一旦は終わりにします。
まだまだ謎はありますが、またの機会に。