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6.これからどうすれば良いのでしょう?

「これからどうすれば良いのでしょう?ああ、そう言えば何か用があるから私を連れてきたのですよね?」

 木陰の乾いた落ち葉の上に二人で座り込んでから、私が尋ねると、彼――勇者――が答える。

「この世界は長い間調和を失っていました。バランスを失った状態が正常だと信じられる程長い間です。世界から失われていた、その要素が、善村さんに与えられた権能である”正常な死”を司る機能です。」

「死ぬことに正常も異常も無いのではありませんか?」

「多くの人にとって死が避けられないものであるのはこの世界でも変わりません。ただし、極一部の人々――王侯貴族や聖職者――にとって死は避けることが出来るものなのです。」

「長く生きたいのは万人の変わらぬ願いです。私だって長生きはしたいし、家族を失うのは耐え難い苦しみです。」

 わが身に置き換えて、亡くなった父や老いた母を思えば、あまり非難する気にはならないのでそう言うと、彼は苦笑しながら答えてくれる。

「ええ、副作用さえなければそれで良いのかもしれませんね。ですが、死が喪われるという事は生も喪われるということです。それでも調和を失った世界が無理やりバランスを保とうとするので・・・」

 彼の両手が何かを掴むような形で止まる。


「どうなるのでしょう?」

「災害や疫病が増えるだけでなく、死の概念が実体を持つのです。死を免れる人間達を殺すためだけに存在する怪物が生まれました。被害に遭うのは結局のところ弱者である庶民ですが。」

「怪物?子供・・・若者向けのゲームに出てくるような?」

「その様な物です、人間が死に持つ否定的なイメージが具象化したような・・・あまり見続けたくはないシロモノです。」

「色々ご存知なのですね。お若いのに立派だ。」

「まあ、勇者と呼ばれるもの自体が、死の怪物から人々を守る英雄ですから、知らなければ勇者などと自称できません。」

「なるほど、桑原さんはその怪物と戦ってこられたのですか?」

「ええ、最初は復活した魔王を討ち取れと召喚され、その後は怪物と戦い続けながら魔王を探してあちらこちらと旅暮らしです。この世界のほとんどの人々は魔王を討ち取れば怪物を滅ぼせると信じていますから、何も疑わずに魔王を殺す事だけを考えていました。」


私が魔王モリウスを演じた後、彼が召喚されてからいったいこの世界でどれだけの歳月が流れたのだろうか。ひと月前に魔王を演じた私が知らない間にそんなに”長い間”命を狙われていたとは思いもよらない事だ。

「今は、そうは思われていないのですよね?先程のモリウスの権能などのお話は何故知ることが出来たのですか?」

「正常な死が喪われた副作用は権力者達にとっては知られたくない知識ですが、一部の学級の徒とか、邪神教徒等と呼ばれて迫害されている人々は今でもそれを伝えています。私も莫迦で、使命ばかり考えて助ける相手を選ばなかったので、そういった人達から色々教えてもらえるようになったんです。」

「いや、おみそれしました。私の様に無駄に馬齢を重ねてきただけの人間にはとても出来そうもない偉業ですね。私に出来る事があるのでしたら協力させてください。討ち取るとかそういうの以外で、ですが。」

「善村さんは人が良いですね。小枝が一本燃えただけでみんな受け入れてくれるなんて。普通は・・・まぁこの世界の普通ですけど、そんなに簡単に初めて会った人を信頼したりはしませんよ。」

 彼の顔に笑顔が浮かぶ、指導者の笑顔だ、こんな若さで政治家やそれなりの規模の会社の社長のような顔をするようになる経験を思う。想像を絶する。自分には無縁な世界だ。


「まずは、死の司モリウスも信仰している正教徒の人達・・・邪神教徒とか呼ばれてますけど、その人達の所に行きましょう。最終的にはこの世界で死を免れるモノ達が居なくなるようにして、人々を襲う怪物も滅ぼします。行き掛けの駄賃にニセモノの魔王復活で正教徒の皆さんを滅ぼそうとした連中にも・・・ふふ、ふふふふ。」

「あ、あの、桑原さん?カルシウムとか足りてますか?血糖値は大丈夫ですか?栗饅頭ならもう一つありますけど。」

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