再会
いつもは静かな家の中が、随分と騒がしく変貌していた。
明日に迫った私の誕生日を身内だけで祝うため、ロンドンの緑の館から、お抱えの料理人数名とメイドが二人、優秀な執事に命じられ一足早く明日のパティーのためにやってきていた。
私は知るよしもなかったが、どうやら母達と執事は、かなり以前から連絡を取り合っていたらしい。
普段はローリーが一人でこの家の全てを取り仕切っていたが、そもそも彼女は基本的に、女優であるアリアン・リンデァ=バーグの秘書なのだ。優秀なハウスキーパーを兼任しているにすぎない。
いつものように最低限の人数しかいなければ話は別だが、身内だけとはいえ何人もの客人が集まるパーティーを一人で仕切るのは、荷が重すぎたのだろう。
ほとんど訪れる人のいないこの家の呼び鈴が鳴った時、ローリーは大変上機嫌で玄関に向かったのだった。
「ジェニーお嬢様、お元気そうですね」
「ええ、久しぶりアメリア。わざわざロンドンから来て貰ってありがとう」
すでに食材やパーティーに必要な装飾品なども手配済みだったのか、大量に荷物が玄関先に届けられていた。搬入作業でこみあった玄関で、挨拶のハグをする。
「ようこそ、お待ちしてたわ」
ローリーがお世辞でなく喜んで、料理人の一人と挨拶の握手をしている。
「やっぱり、パーティーはプロの仕事よね」
久しぶりに家事から解放される喜びか、それとも貴族の家のおもてなしを一度は味わってみたかったのか、嬉々としている。
「パーティーのことは我々におまかせください」
ぞくぞくと作業を進めながら、力強く胸を叩いてみせてくれた。頼もしい彼らに後は全てまかせることにする。ロンドンから派遣されてきたその道のプロ達は、手際よく仕事を確認すると、自らの作業を完遂すべく動き出したのだった。
ほんの1時間ほどで、スタイリッシュなリビングが、華やかなパーティー会場に変貌した。
つい今し方までなっかたツリーまで設えてある。さすがに、本物の樫の木ではなかったが、市販されているモノの中ではたぶん一番大きいモノだと思われる人工のツリーに、LEDライトで電飾をほどこされていた。そのツリーにアメリアが、ロンドンから送られてきた古くてとても豪勢な飾りを、一つひとつ取りつけていた。
「手伝うわ」
私の申し出にアメリアが微笑む。
「よろしいんですか、お支度はもう出来たんですか。ちゃんと、決めておかないと、執事のサムシードさんに叱られますよ」
くすくすと笑うアメリアに、私は満面の笑みで頷いてみせる。
「もちろん、用意はできてるわよ、サムなんかに、文句言わせないから」
母とローリーの意見も聞いて選んだドレスだ。文句は言わせない。絶対に間違えのないコーディネイトなのだ。いくら意地悪な執事でも、けしてあら探しなんてできないはずの仕上がりなのだ。いつも何故だか私にだけ意地悪な執事の顔を思い出しながら、自信満々に胸をはる。
明日こそ、あの取り澄ました顔に私を認めさせる。もう、小さい子供じゃないのだと。
闘志に似た感情を胸に抱いた私は、明日おばあさまとやってくる執事に、密かに宣戦布告していた。アメリアは知ってか知らずか、それ以上は何も言わず微笑んだまま、ただ一緒に黙々と飾り付けに専念した。
できあがると、金銀に塗り込められた、ある意味もの凄く豪勢な、もしくはただのセンスのない成金趣味なツリーがそこに完成していた。
「センス、なさすぎ」
私が呟く前に、いつの間にかそこにいたローリーが笑っていった。つい私も吹き出してしまう。
「これじゃ、まだまだ子供ですねって、また厭味言われるわ」
私を小馬鹿にしてほくそ笑む執事の顔が、ものすごいリアリティーで脳裏にうかぶ。いつものように、バカにされてなるモノかの闘志がわき上がってきて、私は飾りすぎた飾りを、バランスを見ながら少しずつ取り外した。正解を求めて、何度も全体のバランスを確認する。ようやく納得のいくツリーができあがったころには、もう、薄暗くなっていた。