テキトーにヤンキー
今日の空は雲で一面覆われていて星がひとつも見えない真っ暗な空だ。
夜の公園には誰もおらず、木々の葉が風で揺れ、擦り合う音しか聞こえない
そして街頭の明かりも少なく良い雰囲気を醸し出している。
1人で公園に来るのはかなり怖い、早く来てくれ早瀬よ...
そう思いながらブランコに乗りひたすら早瀬が来るのを待つ。
自分の部屋で『魔女っ子☆じょこ美』の再放送を見ていたときに急に早瀬から電話が掛かってきた。
用件は簡単に言うと、大事な話があるから夜飯食べ終わったら公園に来い。との事だった。
約束の時間まであと少しだ。
まだ来ないのか、少しイライラしつつ電話を掛けようとしたとき
ザッザッザッ
と誰かがこちらに向かってくる音がした
お、ようやく来たか
「おい早瀬おせーよ!」
少々の怒りを込めて強めに言うと
「あぁ?なんだテメー?」
ハイオワター
シンプルにそう思った、と、とりあえず謝らないと!
「す、すみません!!人違いでした!!」
「あぁ?謝って済む問題じゃねえだろーが、舐めてんのか?」
いやいやいやいや済む問題だろ!
絶対言えないけど
「どどどどーすればいいんですか?」
「決まってんだろー金出せや」
財布家だぁぁぁぁぁ!
今度こそ終わったー!!
こうなったらあれするしかない!
「財布家なんで取りに言ってもいいですか?」
「言い分けねえだろゴラァ!!!」
うわっ!ぶちギレたよ!!
ヤンキーぶちギレたよ
もう無理だ
諦めかけたその時...
ザッザッザッ
はっ!今度こそ早瀬だ!
そう思い公園の入り口を見ると
ブンッ!ブンッ!と思いっきり金属バットを振りながらこちらを見ている男がいた。
「「誰だよ!!」」
思わぬところでヤンキーと息があった。
ザッザッ
金属バットをブンブン振りながら男はじょじょに近づいてくる。
残り数メートルの距離になったときにヤンキーがはっと我に返り
「お、おいなんだよ!チッもう帰るわ!」
やべえ誰だよこの人、ありがたいけどわかんねえよ
「おい黒尾、大丈夫か?」
その男は俺の名前を知っていた
坊主に凛々しい眉毛
鋭い目つき
「お前、もしかして江口?」
怒られるのを覚悟で確認した
すると
「おいおいわからなかったのかよ!クラス同じじゃねえか!」
とゲラゲラと笑いながら彼は言った
「いや本当に助かったよ!ありがとう!でもどうしてここに?」
「自主練で素振りしようとここに来たらよ、でけえ声聞こえて誰だよって思ったらお前だったからさ!」
「まじか...ホントに良いタイミングだったよ」
「ところでお前はなんでここにいるんだ?」
「あ!そうだ、早瀬に呼び出されてるんだった!あいつ遅いな」
早瀬の名前を聞いた途端に江口の顔つきが変わる
「早瀬くんのか?」
「ああ、そろそろ来ると思うよ」
「へえ」
なんて事を話しているとタイミングよく早瀬が来た。
早瀬から良い匂いが漂っている
「わりい、風呂入ってたら行きたくなくなってきて遅れた」
と少しも悪びれた様子もなく言った
「ところで、誰?」
「同じクラスの江口だよ!知らないのか?」
俺も知らなかったけど...
「ああ!なんでいるんだよ」
「自主練だよ悪いか?」
「江口いるんなら話せないな、明日でいいか?」
「いやいや江口がいたら話せないような事なのかよ」
「いや、俺は話しても良いけどお前がやばい」
「え...?」
どんな事話す気だよ...
「まあいっか、お前、新井さんに手紙送ったろ、机のなかに忍ばせて」
「え??なんで早瀬知ってんの?まさか間違えて早瀬の机に!?」
「手紙はちゃんと新井さんの机に入ってた。そしてちゃんと新井さんが読んだ」
「おお、なんで知ってるんだ?」
「お前、ちゃんと名前書いたか?新井さんは差出人がわからなくて凄い怖がってたぞ。」
「あ!!書いてないかも知れない!」
「そのことを俺は新井さんに相談されたんだ。相談されたときに多分手紙の差出人はお前だろうなって思ったら案の定だ」
「黒尾、お前は素直で行動力がある、それがお前の良いところだ。だけどその先を考えなさすぎだ!」
「お、おう、そうだよな...ごめん」
「俺に謝るんじゃねえ、新井さんに謝れ」
「そうだよな、明日の朝謝るよ。ごめん。」
「もう大丈夫だ、あとそーゆうデートの誘いは手紙じゃなくて直接行け!あとそういうのは今度から俺に相談してから動け!わかったか!」
「おう!!次から早瀬に相談するよ!!ありがと!!」
明日ちゃんと謝って誤解を解かないとなー
許してくれるかな
と不安を抱えつつ早瀬に見送られながら公園を出た。
ブンッブンッ
江口はただひたすらバットを振っている
「おい、なんか俺に言いたいことねーのか?」
早瀬が江口に言う
「うるせえよねーわ」
言いたいことはたくさんあるが言っても意味がないというのを江口は理解している。
自分から働きかけないと見向きもされないことも知っている。
だから自分の中ではライバルと思っているやつに文句を言っても意味がない。
相手がどう思っているかは知らないが
その後の公園にはただ一人バットを振る音が響いていた。