台風
「ご対め〜ん」
荒れ狂った部屋で俺たちは呆然と立ち尽くしていた。班付の間の抜けた声だけが響く。
誰も声が出ない。え、なにコレ?
フートロッカーの中身がぶちまけられ、布団と一緒にシャッフル。マットレスは巻き上げられてわけわからん事に。ロッカー内の制服も全部出されてもう、嫌だこの状況。
「おーい集合まであと5分しかないぜ、さっさと復旧してこいよ♪」
東班付は楽しそうに鼻歌を口ずさみながら教場へ舞い戻っていった。
「間に合うわけねえだろ…」
谷口が頭を掻いた。
ガシガシガシガシガシガシガシガシ。
おいおいそんなに頭掻いてどうすんだよ。髪の毛無くなるぞ。
と、思って谷口を見たがそうじゃなかった。奥のベッドにもう一人、奥島 慎太郎という同期がいた。頭張り裂けんじゃねえのかってぐらいおにぎり頭を掻き続けてそいつは困ったような顔をした。
「おい急げよ!間に合わねえぞ!」
卯月が怒鳴り散らしながら布団を振り回す。いや、何の解決にもなってねえだろそれ。
みんな血相を変えて暴れ散らす。
結果的に言えば集合に遅れた。
「何があったかは知らんが、一班の連中。区隊全員地獄見せてやるぞ」
教場では次の座学のため一班以外全員集合完了しており俺たちはそれに五分遅れた。最悪の状況だった。
「全員廊下へ出ろ。腕立ての姿勢を取れ」
ぞろぞろと不満混じりな目をしながら全員外へ出る。今日はどれくらい腕立てさせられるんだろう?とりあえず周りの目線が痛い。
腕立てのカウントは一回一回が重くのしかかる。
それがもう50回は超えただろうか。一回が長く教官助教からの目もあるからそれが尚更きつい。
反省は重苦しい。汗がポタポタ落ちて水溜りが出来てくる。湿気が溜まって辛い。
上を見るとジッと教官が見つめていた。確かこの人は四班長だったか?
戦闘服に縫い付けられたネームには偵察の偵の文字、何より、ダイヤモンドのような紋章が刻まれたネームがどこか、どこか眩しく感じた。