第一営内班
2月に試験を受けてもう三月の終わり。着隊せよと言われ母ちゃんにがっつりホールドされたまま俺は駐屯地へ連れてこられた。最悪だ。ここで就職決めなかったら家から追い出すと脅されればどうしろというのか。よりにもよって自衛隊とか家にも帰れない。最悪だ。
最初は別の駐屯地に集まってバスに乗せられて自分の教育隊とやらがある駐屯地へ運ばれていく。物珍しいものばかりだから当然目は行くけどそれでもここで働きたいなんてことは思わない。門番みたいな人に銃を持ってる人がいるがあれは本物なのか。物騒だな。
あとで聞いてみるとあれは警衛勤務という駐屯地の出入り監視及び警戒に任じている自衛官のことだったようだ。
「着隊おめでとう」
隊舎の前にバスが止まり全員荷物を下ろしていると俺の広報官よりさらに厳つい顔をした人が笑顔でそう言った。
「間違えました」
気づいたら勝手に体が動いて衛門へダッシュしようとする、だが間髪入れずに近くの若い自衛官に肩をつかまれて引き留められた。
「間違えてない。ここが今日から君が暮らす、教育隊だよ」
またえらいさわやかな笑顔に、腰を砕かれるだけだった。
逃げられそうにもないので大人しく他にもいる連中とともに居室へ案内された。
とりあえず荷物を置いてベッドに座る。ぞろぞろとみんな入ってきて全員揃ったかなってぐらいで見渡してみると九人ぐらいの私服の連中がいた。こいつらが同じ班員だろうか。
「よ、よよよよよろしく。俺、谷口 浩介って言うんだ。いやぁ、自衛隊やばいって聞いたけど、案外そうでもねえんだなぁ…マジで今日緊張しすぎて一睡もできてねえよぉ…」
初日からやばい奴が来やがった。こいつと三か月一緒にいるのかよ。
見開かれた瞳孔からは明日の希望なんて見えねえくらい絶望に支配されてるようで、かと言って諦めてるようには見えない。なんというか、酷く切羽詰まった奴だと思える。
年齢は18らしく一個下のようだ。なんでも特に何も考えてなかったら勢いで流れてきたんだとか。それにしても挙動不審すぎる。
そうこうしてるとさっき祝福の言葉を送ってくれた厳つい自衛官を遥かに超えて横に広い人が現れた。どう足掻いてもこの人には勝てねえと一瞬で悟らせてくれる。とりあえず脱獄は見送ろうと心に誓う。
「えー、よろしく。今回この第一営内班の班長を務めさせてもらうことになりました。高杉 大樹です。まぁ、この三か月何が起こるかわかんないし、だれが辞めるかもわかんないけど、よろしく」
その声は別に脅そうって感じには聞こえなかった。ただ、冷静に、努めて冷静に。俺たちの生末を見据えてるようで、不気味だ。けどこの人は悪い人じゃないんだろうな、そうとも思う。
そもそもよろしくってなんだよ。全然よろしくって感じがしねえんだよさっきから。むしろ夜露死苦ってほうがしっくりくる。
君たちのベッドバディとは普段からより一層仲良くするように、と言われた。偶然にも俺は下のベッドで何かするときに苦労はしなさそうだ。とりあえず上にバディとやらがいるみたいだから覗いてみる。
そこには、凄まじく人を寄せ付けないオーラを発した、チンピラまがいの奴がいた。世の中を全部睨み付けて生きてるような、そんな感じのする奴だ。きっと試験も身体で全部クリアしてきたに違いない(偏見)
「あー、えっと、神崎 隆って言うんだけど、そっちは?」
俺の名前を聞くとぴくり左目を引きつらせてバディは言った。
「おう雑魚、今日からここ俺が絞めっから、よろしく」
どいつもこいつも、なんなんだ。