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9 取扱説明書

 その後は穏やかというか、にぎやかな朝食の時間になった。


 よく分からないけど、俺たちが無事におつかいクエストとやらをクリアしたことを祝って、村の連中が村長の家に集まって、さっき俺が手に入れた孫娘の冠のカードを食い入るように見ている。

 それに、家に入りきれなかった村人達が、家の前でうろうろしたり、村の子ども達が外で『毒消し草のカードを使用する!』『わあ! 治りましたわー!』みたいなこと言いあうクエストごっことかいう遊びやったりしててめっちゃ騒がしい。


「ところで、ショウジ様に、コウジ様はこれからはどちらに行かれるご予定ですかな?」

 村長が窓の外のにぎやかな村人達を満足そうに眺めた後にそう声をかけてきた。


「日本に帰りたいんだけど、行き方分かる?」

「ニホン、ですか?」

 どうやら、この爺さんはニホンを知らないみたいで、首を傾げてる。

 ヨーロッパの人は日本をしらないのか……いや違った。ここはゲームの世界だった。このゲームの世界から日本に帰るのってどうすればいいんだろうか。

 二次元の世界へアマゾン川から流れてきたんだから、やっぱり川を登っていくのが近道か……?


「地図を見ると、ここから北に、少し大きめな街があるみたいなので、そこに寄ろうと思ってます」

 弟が、すました顔で勝手に目的地を告げている。何を言い出すんだ弟よ。

「ほう! それはいいですな。領主様のおる町で、なかなかにぎやかな町でございますぞ!」

「え? なんでそんなとこ寄るんだよ! はやくアマゾン川のぼって、日本に帰ろうぜ!」


「兄さん……ここにアマゾン川はないし、あったとしてもアマゾン川のぼって日本には帰れないよ。ゲームの世界だって言ったでしょ。そろそろ説明書読んでよ」

「説明書……? おれ、ゲームをやる時に説明書は読まない主義だし……ていうか説明書なんてもってねぇぞ」

「ステータス画面の左下に『説明』って書いてあるところがあるから、そこタッチすると見れるよ」


 えーまたステータス画面かよ

 なんかあれ見ると目がチカチカすんだよなー。


 俺は大人しくステータス画面を開くと、画面左下の説明のところをタッチする。


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■はじめに


 このゲームは、皆様に楽しんでいただくため、とある世界を占領し、世界法則を改変して作られております。

 こちらの世界の住人には、もともとこの世界に住んでいた先住民族と、我々が作り出したNPCノンプレイヤーキャラクターが住んでおります。NPCの中には、姿形まで私どもで作った特別なキャラクターと、もともとこの世界に住んでいる先住民族の姿かたちを借りているタイプのNPCがおります。

 場合によっては、同じ場所に同じ顔のNPCがイベントを進めるというケースがある可能性があるかも知れませんのでご了承ください。

 また、先住民族の方々には、プレイヤーがゲームを楽しんでいただけるように、様々な道具を提供し、協力をしていただいております。

 ただし、何分、それなりの知識と文明をもつ生物であるため、こちらの意向に納得されず、中には非協力的な民族もおります。その点はご了承くださいませ。


■テスターの皆様へ


 本日は私どもが創ったゲームの世界に来ていただき、誠にありがとうございます。

 あなた様は厳重なる選考の結果に選ばれたテスターでございます。

 こちらのゲームは廃人型没頭ゲームを目指している関係上、ログアウトなどの帰還を促す機能によって、もとの生活に瞬時に戻れるように創っておりません。

 この世界の住人として、現実を忘れてお過ごしくださいませ。

 こちら側としましても、現実に戻りたいなどと思わないための配慮の一つとして、家族といわれる一つの組織ごとに、こちらの世界につれてきております。

 転移場所は、それぞれではございますが、この世界のどこかには必ずおりますので、ご安心ください(※ゲームの特性上姿が変形している恐れがあります。ご了承ください)。

 しかし、どうしても現実が気になると言う方のために、戻るための手段を考えております。

 ある程度、特別なカードをお集めになった時に、イベントと言う形でその手段をお伝えする予定です。ただし、恐れながらその頃には皆様は既にこのゲームの虜になっているのではと愚考しております。

 また、皆様テスターの方々には、このゲームについてのご意見を募集しております。是非、こちらのゲームをお楽しみいただき、忌憚のないご意見・ご感想をお待ちしております。

 また、こちらへのご意見・ご感想等の要望は、ステータス画面から行なうことができますが、こちらとしましては出来れば、ゲームに没頭して欲しく、あまりこちら側のことを意識して欲しくないという思いから、ご意見欄は通常閉じております。レベル(※ステータス画面参照)が5上がるごとにご意見欄が一度開きますので、その際に是非ご利用くださいませ。

 それでは引き続きザワールドオブゴットカードをお楽しみください!

 健闘を祈ります。


■『ザワールドオブゴットカード』の世界の歩き方

 個性的で愉快なモンスターたち、ワクワクするイベント! 強力なスキルに、心躍る種族設定! 

 ゲーム『ワールドオブザゴットカード』の世界には、倒すとカード化するモンスターが森に生息しています!

 モンスターを倒して、手に入れたカードを売って生活するもよし、集めてコレクターとして名をとどろかせてもいいでしょう!

 また、カード化するものは、何もモンスターだけではありません。装備アイテム、生活必需品、薬に、魔法、神話の神様まで、様々です!

 強力なモンスターを相手にするときは、高ランクなカード魔法を使ったり、装備品を使うと楽に進みますよ!

 当ゲームの世界は、一般的にセメダリアの世界と呼ばれています。このセメダリアの世界には国が大きく5つに分かれています。

 主に人族が住まうコンゴウ国、妖精族が住まうカナリア国……


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「ダーーーーー! もう読めない! 疲れた。俺、活字読むの嫌い!」

「あ、ショウ兄ちゃんにしては、頑張った方だよね」

「なんだ、これ、つまり、俺達、すぐに日本に帰れないのか? 休み明けの給食、カレーなのに!?」

「そういうことみたい。しかも、家族ごとって書いてあるから、お父さんも、お母さんも、タカ姉ちゃんも、チュウにいちゃんも、ユカリも、この世界にいるはず。だから、探して合流しないと」

「合流することには賛成だが、俺のカレーはどうなる?」

「姿かたちが変わってるから、探しても分からないかもと思ってたけど、ショウ兄ちゃんがいてくれてよかった。ショウ兄ちゃんは、野生の感で分かるし。それにどうやらプレーヤーって呼ばれる僕らは、額に埋め込まれてる宝石がこの世界に住んでる人と色が違うから、それでどうにか確認できるかもしれない」

「いや、まてよ、まだ連休の初日だ。あ、でも一晩泊まったから二日目か……だが、まだ給食までには時間がある。それまでに家族と合流してカードを集めて日本に帰れば間に合うな! よし、コウジ! さっさとカード集めて、家族を探しに行くぞ!」

「……ショウにいちゃんって、ほんと前向きで、僕羨ましいよ」

 な、なんだよ、突然褒めてくるなんて……照れるだろ!

 俺が、へへって言いながら鼻を掻いていると、弟がかわいそうなものを見るような目をして俺を見てきた。なぜだ。

「別に、褒めてるわけじゃないよ……とりあえず、ご飯食べたら、準備してもう出よう」


 な、なんかこの弟、最近マジで生意気だぞ。


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