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7 兄ちゃんだからな

その後、無事に買い物を終えた俺達は、散歩がてら村をぶらぶらさせて家についた。ちなみに、買い物を終わらせるといつのまにかどこかに消えていた村長の爺さんは、何食わぬ顔で家にいた。なかなかすばやい爺さんだ。


「おお、村は楽しんでいただけましたかな? 結構歩いてお疲れでしょう。夕餉の準備もおえております。ささ、召し上がって、ささ」

 家に戻ってきたばかりだけど、村長のススメもあって、席に着くと、村長の奥さんが、食事を用意してくれた。


 チーズとパン。それに、なんか日本で食べてたベーコンに似てるけど、色が若干赤っぽいベーコン。あとは、なんかの葉っぱと昼にもでた赤いフルーツがサラダみたいに盛られてて、そしてソラマメみたいな大きさの茶色い豆が煮込んであるスープ。

 

 うまい! ヨーロッパの料理ってうまいんだな。

 まあ、とはいっても、母ちゃんの作るご飯には適わないけど。俺の母ちゃん、スゲー料理上手だもん。


 隣の弟を見たら、最初は美味しそうに食べていたけど、なんか途中で元気をなくした顔で、モグモグ食べてた。なんか嫌いな味でもあったのか?


 弟の様子は気になったけど、俺はあっと言う間にご飯を平らげて、そのまま、村長の強い勧めもあって、早速用意してくれた部屋に向かった。


 部屋に入るとベッドが一台。弟は今はトカゲワニだから一台で十分だ。

部屋に入ると、することもないし、弟と一緒にベッドの上に倒れこんだ。家にあったベッドよりもちょっとだけ固い。

 食べたばっかだからなのかすッごく眠い。さっき日が暮れたばかりだけど……色々歩いたりしたから結構疲れたんだな。


 弟も同じ気持ちだったらしく、俺達は大人しく縦に並んでベッドに身体を沈めて布団をかけた。


「なんか、変なことに巻き込まれちゃったよね……。僕達、これからどうなるんだろう」

 ベッドに入って、しばらくすると、隣でうずくまるようにして伏せている弟の心細そうな声が聞こえた。

 まあ、アマゾン川に流されて、父ちゃんと母ちゃんと離れて、不安なんだろうな。アマゾン川に鍛えられて、ワニっぽくなって大人に近づいたからって、弟はちょっと前まではただの小学6年生の通信教育を間違って受けてるドジな小学2年生だったんだ。当たり前だ。

 もともと小学4年生という、もうすぐ高学年に足を踏み入れようとしていた俺とはレベルが違いすぎる。


「大丈夫だ。コウジ。兄ちゃんがついてるからな」

「……うん。でも、ぼく、お母さんの、料理が、食べたい」

 そういうと、弟は泣き出した。トカゲの目から、涙的なものが溢れ出している。

 うちの弟はまだまだ甘えん坊だ。


「大丈夫だ。すぐに母ちゃん見つけてやるよ。兄ちゃんに任せろ。今日いっぱい歩いて、ヨーロッパにたどり着いたわけだし、もう少し歩けば、きっとアジアだ。アジアって分かるか? 日本があるところなんだ。だからアジアにつけばすぐに日本。だから大丈夫だ」


 俺はそう言って、心細そうな弟のワニ顔の頭を撫でてやると、唖然とした顔で弟が俺のほうを見てきた、ような気がした。日が暮れて、明かりもないから、真っ暗でどんな顔してるかわかんないけど。


「に、兄さん、まだゲームの世界に転移されたこと信じてないの!? え、だって、あんなカードとか、お金だっていきなり消えたり! 見たでしょ!?」


 おお、なんと可哀想な弟は、あのお金のやり取りをゲームの世界だからっていう理由で片付けちまっていやがる。そうか……まだ小学2年生だからな。ユーロの存在を知らないんだな。


「コウジ、あれはな、ユーロっていうんだ。まあ、お前に言っても分からないかな。難しい話しだからな。とりあえずコウジには、俺がついてる。だから泣くな」

「なんか、ショウにいちゃんがアホすぎて、さっきとは違う意味で悲しくなってきた」

 なんか失礼なことを言っていないか? 弟よ。まあ、知らない土地にいるって言うことで緊張しちゃってるんだろ。しょうがない弟だ。無礼な態度は許すよ。

 俺はなんだかんだ弟と、あと妹には弱いんだ。俺は、だって兄ちゃんなんだから。


「いつまでもめそめそしてると、妹のゆかりに笑われるぞ?」

「ゆかり……。そういえば、僕、自分のことばかりで……。ゆかり、無事かな。あんな小さな子が、この世界で……」


「大丈夫だろ。ユカリには、父ちゃんか母ちゃんが必ず側についてる」

「そんなのわからないよ! 僕達は運よく、すぐ出会えたけど、でも、僕最初蓑虫みたいなモンスターに襲われた時、もう駄目だと思ったよ! 兄ちゃんが来てくれたときも、見た目が変わってるから、最初誰か分からなくて……すごく、こわかった。もしゆかりが一人だとしたら……」


「大丈夫だ、コウジ。ユカリには絶対父ちゃんと母ちゃんがそばについてる。川に流されたって、絶対に手を離したりしない。だって、父ちゃんと母ちゃんは、俺達の父ちゃんと母ちゃんなんだから、何があっても絶対にゆかりの側にいて、俺達の代わりに守ってる。絶対だ」


「……うん。そうだよね。ショウ兄ちゃん、ありがとう。兄ちゃんが、いてくれて、よかった」


 そうだろ? 俺がいるんだから安心せい、弟よ。俺が、父ちゃんや母ちゃんの代わりにお前を守ってやるよ。


 それから弟のぐずり声は聞こえなくなり、しばらくしたらズイーズピーとトカゲっぽい寝息が聞こえてきた。


 どうやら安心して眠れたみたいだ。トカゲ弟の寝息を聞きながら、俺も寝る事にした。

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