6 はじめてのユーロ
村で話しかけてきてくれた爺さんは、この村の村長らしい。俺達は、村長に連れられて、村長宅でご飯を食べた。
黒パンにトローリチーズをかけたものに、ホットミルク。それに、なんかの肉のスープ。デザートなのか、見たこともない赤いフルーツもついてきた。すごくうまい。
トカゲワニみたいな格好をしてる弟はものすごく食べ辛そうにしてたけれど、満足そうな顔で平らげていた。
「ありがとう、村長! ちょううまかった!」
「い、いや、いいのです。部屋も用意してあるので、是非泊まっていかれますよね?」
「一応、そのつもりだけど……なんでそんなに泊めたがるんだ?」
「べ、別に、深い意味なんぞございませんぞ!」
なんか、怪しいなこのじいさん。でも、悪い人には見えないし、俺大人だし、大丈夫かな。弟も泊まった方がいいって言ってるし。
俺がそんなことを考えていると、隣のイスに座っている、と見せかけて、ほぼ立って机にもたれかかっている弟が、口を開いた。
「村長さん、すみませんが、アイテムショップはこの村にありますか? 換金したいカードがあるんです」
「おお! ございますぞ! えっと、ここから南西の方にあります。ゴンザレスという者が店主です。是非、寄っていってくだされ。喜びますぞ」
村長もそう言ってるし、弟もいきたいっていううから、夜まで時間をつぶすためにもゴンザレスのアイテムショップとやらに出かけることになった。
小さい村なので、ゴンザレスの店にはすぐに着いた。外の看板に、『ゴンザレスのアイテムショップ』という文字と、スキンヘッドの男の似顔絵が載ってる。
「この看板の絵の人が店主なのかな? なんだか怖そう……」
という弟に気を使って、店の扉をゆっくり開けて中に入ってみたら、カウンターの向こうで、スキンヘッドの大柄な男が、鼻歌を歌いながら、ハタキをもってお店の掃除なんかをしていた。
多分あいつがゴンザレスだな。ゴンザレスは、店にやってきた俺達を見るなり、ものすっごいびっくりした顔をした。
「へ、へい。いらっしゃい……! あ、あのま、まさかプレイヤー……?」
「いや、俺ショウジ、だけど」
と言ってもゴンザレスは、俺のおでこの辺りを見て固まっている。一体なんなんだこの村は。
「カード、カードを買いにきたんですよね? ちょっと、ちょっと待ってくださいね、すぐに持ってきますから!」
そう言って、ゴンザレスはバタバタと店の奥に言って、何か大きな石の台座みたいなものを持って戻ってきた。
何それ。俺そんなの欲しくないんだけど。
ゴンザレスは、なんか目を動かしながら、石の台座をタッチしている。そして……。
「よ、よし! 設定が、で、できた! どうです? 見えます?」
ゴンザレスがいい笑顔でこっちを向いたのと同時ぐらいに、石の台座の上に、透明な映像が浮かんできた。
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・薬草 10ペンス
・こん棒 20ペンス
・毒消し草 30ペンス
・ムルク村特産のチーズ 150ペンス
・火妖精のいたずら棒 300ペンス
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ん? 何だこれ?
「どうやらここでアイテムカードを買えるみたいだ。一応全部買っておこう。兄さんいくら持ってる?」
「え? 財布なんか持ってないぞ? 全てアマゾン川に持ってかれたんだから。残ったのは毛だけだ」
「じゃなくて、ステータスで見れるでしょ! ちなみに僕は300シリング。多分この金額が初期の金額設定なんだと思うんだけど……」
なんか、トカゲワニになってからの弟は、すごく生意気だ。早くステータスオープンしてよって耳元でギャンギャンうるさい。
全くしょうがない奴だな。落ち着きのない弟だが、仕方あるまい。既に大人になったふさふさの俺とは違うのだからな。
「ステータスオープン」
するとさっきみたいに画面が出てきた。
「画面の右上のほうを見て! 所持金額が載ってるでしょ? いくらって書いてある?」
え? 右上? ああ、コレか。
「300って書いてある」
「ああ、やっぱりか。初期の所持金額は300なんだね。……とりあえず、この店に売ってるカードアイテム、念のために全部10個ずつぐらい買ってておきたいな。さっき手に入れた、突き刺されし金運幸運を売れば、余裕で買えるだろうし……ということで、兄さん、あのうんこカード売って」
「え? あのうんこ? 売るってお前、ゴンザレスさんに失礼だろ! あれ、うんこだぞ!」
「いいから。金でできてるらしいし、すっごく高価なものなんだよ。うんこだけど」
弟よ、スゲーいい性格してるな、人にうんこを売りつけようとするとは……。恐ろしい弟だ。
まあ、しかし、俺だってあんなうんこカードはいらない。俺は一度突き刺したうんこにはもう興味がないのだ。まあ、世の中にはうんこを好む生き物もいるし、フンコロガシとか……もしかしたらゴンザレスもそういった人種である可能性だってある。
俺はゴクリと唾を飲み込んで、カード辞典からうんこカードを取り出してゴンザレスに渡した。
「……これ、売れる?」
「ゴンザレスさんは、そのカードを見て目を見開いた。
ほら、すっげ驚いてる。だから言ったじゃん! うんこのカードなんか売れるわけないって!
ゴンザレスに申し訳なくなった常識人な俺が、うんこカードを引っ込めようとした次の瞬間、猛烈な勢いでゴンザレスが、カードを両手で掴んできた。
「コ、コレは、すごい……超レアカードだ! 銀色のカードじゃないか、こんなカードを見れる日がこようとは! う、売ってくださるんですか?」
なんと、食いついてきた。うんこを好む人種だったのか、ゴンザレス。コレは弟の教育に良くないかもしれない。俺はさり気なく弟が乗ってる右肩をかすかに後ろに下げて、ゴンザレスと距離を置く。
「売れるなら、売りたい、けど」
うんこだぞ? と言う言葉を飲み込んでそういえば、ゴンザレスは喜び勇んでカードを手に取り、石の台座の上に載せた。
さっきまで表示されていた薬草とかこん棒とか書かれていた画面は消えて、さっきのうんこカードが表示され、その下に『8000ペンス』と書かれた文字が浮かび上がった。
「な、なんてこった。8000ペンス、だと!? 大変だ、買い取りたいが、そんな大金うちの店にはねぇぞ、どうしたもんだ!」
そう言ってゴンザレスは頭を抱えて悩み始めた。
そんな悩むなよ。あれだろ? うんこ、買いたくないんだろ? 分かるよ。うんこ売るのやめるよ、俺にだって良心はある。本当は人にうんこを売りたくなんかないんだ。
優しい俺がそう声を掛けようと思ったその時、どこからか聞いたことのある声が響いた。
「落ち着け、ゴンザレス! 支払いは伝説の石の台座が行なう手はずじゃぞ!」
突然物陰から村長が現れた。い、いつのまに……。村長、俺たちについてきたのか。
「そ、村長! そうだ、そうだった。まさか石の台座を使う日がこようとは思ってなくて……ああ、くそ! すまねぇ村長!」
一体こいつらなんの話してるんだ……?
何かに気づいたらしいゴンザレスは、また石の台座を恐る恐る触ると、石の台座の上にあったカードが消えて、代わりにコインがたくさん出てきた。
「すいません! お待たせしました! カード買い取らせていただきました! 1000シリング硬貨8枚です! ご確認ください!」
ゴンザレスはそういうと、その8枚のコインを俺に預けてきた。
そして、手の中に転がった8枚のコインは少ししたらスッと消えた。
マジック!?
ちょっと慌てる俺に、弟が「ステータス画面の所持金額どうなってる?」と聞いてきた。
ステータスの右上をみると8300シリングと表示されている。
一体、なんなんだ、この、よくわかんない感じ。
ここは、ヨーロッパだから、ここで使われてるお金ってことで、つまり、ユーロ? ユーロっていうのはこんな風にお金が動くのか?
すげぇな、ユーロ。コイン消失マジックとのあわせ技とはすごい。
それにしても小学4年生にして、ユーロの存在をしり、実際にユーロを扱う俺って、やはり天才なのでは……末恐ろしい俺。
弟も、ユーロを間近で見るのは初めてのはず。あのすぐにビビる俺の弟は、きっと驚きすぎて固まっているに違いない。そして、ユーロを使いこなす俺に尊敬の眼差しを向けているかも。
俺は自分の才能に驚きながら弟に目を向けて、「8300ペンスって書いてある」と告げると、弟がトカゲ口を開いた。
「さあ、兄さん、そのお金でこの店に売ってるカードを10枚ずつ買おう? あ、こん棒は装備カードみたいだから、うーんと、3枚ぐらいでいいかな」
え!? あの何かにつけて動じているうちの弟が、動じていない、だと!?
一体何なんだ。アマゾン川は俺を大人にしただけでなく、弟も大人にしたのだろうか。トカゲワニになってるし。
しかし、俺のほうが大人であることに違いないのだから、ここは落ち着いて対応しよう。大人だからな! 俺のほうが!
その後、落ち着いた大人な俺は村長にレクチャーされながら、台座に手をかざして無事にアイテムカードとやらを10枚ずつ購入できました。
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手に入れたカード
薬草×10
種類:生活カード
ランク:白
効果:HPを30ほど回復させる
こん棒×3
種類:装備カード
ランク:白
効果:装備すると攻撃範囲が広がり、ATKが3あがる。棒術スキルなしで装備可。手のない種族は装備不可。
毒消し草×10
種類:生活カード
ランク:白
効果:毒状態を回復させる。なお猛毒には全く効果がない。
ムルク村特産のチーズ×10
種類:生活カード
ランク:青
効果:MPを10ほど回復させる
火妖精のいたずら棒×10
種類:魔法カード
ランク:白
効果:このカードの四隅右上に小さな火を灯すことができる。手軽な着火器具。消費MP:2
使用回数:5